■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
唯(ゆい)
凌空(りく)
その他
■台本
唯(N)「こうやって、凌空の家に来るのもあとわずか……。大丈夫。もう、心の整理はついている。だから、その日が来るまで、凌空の幼馴染でいさせて……」
ピンポーンとインターフォンの音。
凌空の母「はーい」
ガチャリとドアが開く。
凌空の母親「あら、唯ちゃん、おはよう」
唯「おはようございます」
凌空の母親「そのままカギ使って入ってきていいのに」
唯「はは……。あの、凌空は?」
凌空の母「まだ寝てるわ。起こしてあげて」
唯「はい」
場面転換。
凌空「すー。すー(寝息)」
唯がパンパンと手を叩く。
凌空「うおっ!」
ガバッと起きる凌空。
唯「おはよう」
凌空「お前なぁ。その起こし方、心臓に悪いから止めろって」
唯「でも、効果バッチリでしょ?」
凌空「そりゃ、まあ、な」
唯「嫌なら、自分で起きなさいよ」
凌空「それができてりゃ苦労してねーって」
場面転換。
唯「凌空、今、着替えてるのでもうすぐ降りてくると思います」
凌空の母親「ホントありがとね。唯ちゃんがいてくれて助かってるわ。これからも、よろしくね」
唯「はい」
ダダダダと階段を駆け下りる音。
凌空「おい、唯! 遅刻するぞ」
唯「ったく、誰のせいだと思ってるのよ。それじゃ、行ってきます」
凌空の母親「はい、行ってらっしゃい」
唯が走っていく。
場面転換。
軽く走っている唯と凌空。
唯「ねえ、凌空。今度の土曜日、空いてる? 遊びに行かない?」
凌空「ん? ああ、俺は別にいいけど、お前は大丈夫なのか?」
唯「うん。もう終わってる」
凌空「そっか。じゃあ、いつも通り、起こしにきてくれ」
唯「……あのさ、凌空。土曜日はちゃんと待ち合わせしない? 駅前の広場のところ」
凌空「あ、ああ。別にいいけど」
唯「それじゃ、土曜日、10時に駅前ね」
凌空「わかった」
場面転換。
唯「それじゃ、お父さん、ちょっと出かけてくるね」
唯の父親「引っ越しは明日だぞ? 大丈夫か?」
唯「うん。もう、全部終わってるから」
唯の父親「そうか。わかった。遅くなるなよ」
唯「うん……」
場面転換。
唯が駆け寄る。
唯「お待たせ」
凌空「ああ」
唯「あんたが、先に来てるなんて珍しいわね」
凌空「寝坊できねえと思ったら、早く起き過ぎたんだよ」
唯「へー。やれば、できるじゃん」
凌空「おかげで少し、眠いけどな。で、今日はどこに行くんだ?」
唯「散歩」
凌空「は?」
唯「凌空と一緒にこの町を散歩しておきたいなって」
凌空「なんだって、急に」
唯「明日、引っ越しでしょ? その前に回っておきたいの。ダメ?」
凌空「……まあ、お前がそうしたいなら、別にいいけど」
唯「ありがと。じゃ、行こうか」
場面転換。
唯と凌空が並んで歩く。
唯「あ、見て! 白濱(しらはま)公園」
凌空「懐かしいな。昔はよく、ここで遊んだんだよな」
唯「あの頃は、すごい大きな公園って思ってたけど、案外、小さいんだね」
凌空「俺たちが大きくなったってことだろうな。……あ、ジャングルジムがない」
唯「3年前くらいに、事故があって撤去されたみたいだよ」
凌空「ふーん。子供の頃、すげー遊んだものがなくなるって、ちょっと、悲しいな」
唯「……そうだね」
場面転換。
遊歩道を歩く、唯と凌空。
凌空「へー。ここって、遊歩道だったんだ? 俺、森だと思ってた」
唯「あーわかる。なんでだろうね? 木があるってだけで森って感じてたのかな?」
凌空「よく、ここでカブトムシ獲ったよな」
唯「今考えると、よく、手でつかめたと思う。今なら絶対無理」
凌空「はは。まあ、わからんでもないな」
唯「あ、そういえば、あれ覚えてる? 中学生の時、ここに呼び出されたの」
凌空「うっ!」
唯「あんた、初めてラブレターもらったって言って、浮かれてたよねー。やたらと私に自慢してきてさ」
凌空「やめろ、思い出させるな……」
唯「よく読んだら、宮杉くん宛だったんだよねー。席が近かったから間違ったってさ」
凌空「やーめーろ! トラウマをえぐるな」
唯「大体、あんたのこと好き、なんていう女の子はほとんどいないって」
凌空「うっせーな」
唯「中学校って言えばさー……」
場面転換。
高台にやってくる唯と凌空。
唯「ついた!」
凌空「おお! すげーな」
唯「でしょ? ここからだと、町を一望できるのよ」
凌空「へー。ずっと住んでたのに、知らなかったな」
唯「あのさ……」
凌空「ん?」
唯「色々、あったよね」
凌空「……ああ」
唯「この町で生まれて、凌空に出会って、一緒に過ごしてきた……」
凌空「……」
唯「私ね、この町、好きだよ」
凌空「……そっか」
唯「あのね、凌空……」
凌空「ん?」
唯「……う、うう」
凌空「え? お、おい、どうしたんだよ?」
唯(N)「言えない。いや、言っちゃダメだ。言えば、凌空を困らせてしまう。凌空は私のこと、なんとも思ってない。だから、この想いは伝えるべきじゃない。今日が最後の日。こうやって……この想いを持って、凌空の隣でこの町を見るのは、今日で最後。でも……でも! ずっといたかった。ずっと、凌空の隣にいたかった。幼馴染でもいい。この気持ちのまま、凌空の隣にいたかったよ……」
唯「うえーーん」
凌空「唯……」
唯の泣く声が徐々に遠くなっていく。
場面転換。
唯の父親「さて、今日から、ここが俺たちの家になるんだ」
唯「うん」
ピンポーンというインテ―フォンの音。
凌空の母親「はーい!」
ガチャリとドアが開く。
凌空の母親「あら、いらっしゃい……っていうのも変かしら?」
唯の父親「そうだね。……だけど、ただいま、っていうのも変な気がする」
凌空の母親「ふふふ。そうね。とにかく、入って。今日から、ここがあなたたちの家にもなるんだから」
凌空がやってくる。
凌空「おう、唯。荷物運ぶんだろ? 手伝うよ」
唯「……唯です。今日から、よろしくお願いします」
凌空「おいおい。なんだよ、すげー他人行儀だな」
唯「それじゃ……これからよろしくね、お兄ちゃん」
凌空「や、やめろよ。今まで通り凌空でいいって」
唯「ううん。ダメだよ。こういうのはちゃんとしないと」
唯(N)「今日から私は凌空の幼馴染じゃなくて、妹になるんだから……」
終わり。