■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
正義(まさよし)
良子(りょうこ)
その他
■台本
正義(N)「俺は小さい頃から、曲がったことが嫌いだった。大人たちは自分を守るため、平気で正義を捻じ曲げることも知っていたし、どんなに誠実そうな人間でも、容易に悪の道に落ちていくことも知っていた。世の中は欺瞞と悪に満ちている。そんな世界を変えたい。それが俺の夢なのだ」
場面転換。
不良「なんだ、てめえ! 関係ない奴は引っ込んでろ」
正義「暴力はダメだと言っているんだ! 立派な犯罪だぞ。だいたい、暴力で解決してなにが……」
ガンと顔面を殴られる正義。
正義「うぐっ!」
不良「ああ? 暴力がなんだって?」
正義「だから、暴力は傷害罪に……」
ドスっと、腹を殴られる正義。
正義「がはっ!」
不良「あー? なに? 何言ってんのかわかんねぇよ」
正義「暴力は悪で……」
不良「おら!」
ドカ、バキ、ドコと殴られ続ける正義。
場面転換。
正義「いてて……あー、くそ。本気殴りやがって。それに助けた奴もさっさと逃げるしよ」
正義(N)「助けた相手に見捨てられる。まあ、よくあることだ。別に感謝の言葉か欲しかったわけじゃない。単に悪が許せないだけだ。やはり、世の中は悪にまみれている」
良子「喧嘩はよくないですよ」
正義「ん?」
正義(N)「ランドセルを背負った小学生が高校生の俺に向かって、説教をしようとしていた」
正義「喧嘩じゃない。一方的に殴られただけだ」
良子「そうだとしても、暴力は犯罪だわ。つまり、お兄さんは、犯罪行為を黙って見逃がしていたということよ。それって、罪を犯しているのと同じだわ」
正義「殴られた側に言われてもな。俺は再三、止めてくれとは忠告している」
良子「それでも止められなかったら意味がないわ。抑止力を持たない正義は、不要なのよ」
正義「……どうすればよかったんだ?」
良子「それこそ、警察を呼ぶとか」
正義「そんな暇はなかった。こっちは殴られてたんだぞ」
良子「じゃあ、助けを呼ぶとか」
正義「だから、殴られてる途中だったんだって。助けを呼ぶ暇なんてなかった」
良子「えっと、えっと。そもそも、お兄さん自身がその人を制圧すべきだったわ」
正義「……それができれば、殴られてない」
良子「なによ、もう! へ理屈ばっかり! 何とかしようと思わないの? これだから、大人って嫌い!」
正義「うぐ……。そ、そうだな。対策することを諦めていたら、悪を駆逐などできない」
良子「そうよ!」
正義「今度は対策をしっかりと練ってから、ことに望むことにする」
良子「うん、それでいいわ。わかったな、さっさと立って、ほら」
正義「なんだよ。こっちはあちこち痛んだ。もう少し休ませてくれ」
良子「ダメよ! 傷ついた人を見過ごすのも悪だわ。しっかりと治療しないと」
正義「治療って言ってもな。応急処置ができるようなものは持ってないし」
良子「何なら、買えばいいわ」
正義「……」
場面転換。
キキっと、車が止まり、信号機から青のときの音楽が流れる。
良子「さ、青になったわ。いきましょ」
正義「ああ」
二人が歩き出す。
良子「ちょっと! お兄さん、何やってるのよ!」
正義「なにって何がだよ?」
良子「今、横断歩道を渡ろうとしたとき、左右の確認をしてなかったわ」
正義「いや、青だからいいだろ」
良子「お兄さんはそうやって、親に習ったの? 青だったら、左右を確認しないで渡りなさいって」
正義「いや……言われてない」
良子「でしょ? ルールはルール。どんな状況であっても守るべきだわ」
正義「……そうだな」
良子「あと、なんで、手を挙げないの?」
正義「ああ、そうだな。手を挙げるのは基本だな」
良子「もちろんよ」
場面転換。
ウィーンと自動ドアが開く。
正義「応急処置用の包帯、ばんそうこう、消毒液を買ってきたぞ」
良子「それじゃ、さっそく、治療しましょ」
ガサガサと袋を漁る良子。
良子「ねえ、お兄さん。これ、なに?」
正義「なにって、ジュース。お前の分もあるから、好きな方を選べ」
良子「はあー。わかってないわね」
正義「なにがだよ」
良子「あのね、私は、今、学校からの帰りなの!」
正義「見ればわかるよ」
良子「学校の帰りなのに、ジュースなんか飲んだら、買い食いになるでしょ!」
正義「別にお前が買ったわけじゃないんだから、いいんじゃないか?」
良子「はー、ヤダヤダ。これだから大人って。ルールをそうやって、自分の都合のいい形にねじまげるのはいけないことよ。買い食いしてはいけない。これは文字通り、買ってもダメだし、食べてもだめなのよ」
正義「うぐっ! そ、そうだな。すまん」
良子「まあ、いいわ。これは帰ってから、家で飲めばいいから」
正義「……」
良子「ねえ、なんで、果汁100パーセントのものじゃないのよ?」
正義「え? 売ってなかったんだよ。別にいいだろ」
良子「体のゆるみが気のゆるみに影響するのよ。体に悪い物を食べたり、飲んだりするのは体にゆるみをもたらせるわ」
正義「待ってくれ! お前が言っているのは理想論だ。現にさっきのコンビニには、果汁100パーセントのジュースはなかったし」
良子「無いなら、買わなければいいだけ。違うかしら? よりによって、すごく甘そうなコーヒーなんか買って。このコーヒーに含まれている糖分の量を知らないの?」
正義「……」
場面転換。
良子「うん。これで、応急処置もバッチリね」
正義「大げさすぎる気がするけどな」
良子「どんなことにも、全力で取り組む。その心意気が重要なんじゃないの?」
正義「う、そ、そうだな」
良子「それじゃ、そろそろ行こうかしら。お兄さんの応急処置も終わったし」
正義「お前は見てただけだったけどな」
良子「そうそう。お兄さんは帰りにちゃんと警察によって被害届出してね」
正義「別に、そこまでしなくても……」
良子「お兄さんが良くても、正義としてよくないわ! だって、お兄さんが相手を野放しにするってことは、他の人がその人の脅威に狙わることだってあるのよ!」
正義「そ、そりゃそうだけど」
良子「じゃあ、ちゃんとやってね。もちろん、犯人が捕まるまでしっかりやってよ」
正義「え? そ、そこまで?」
良子「お兄さん。怠惰は罪よ」
正義「うっ!」
良子「それじゃ、帰るわ。バイバイ」
正義「ああ……」
正義(N)「俺も小学生のときは、あんな感じだったのかもしれない。正義を振りかざして正論を言う。周りの人間は、どうしようもなく、面倒くさかっただろうな」
プシュッとジュースの蓋を開ける。
グビグビとジュースを飲む正義。
正義「ぷはー! やっぱ、ジュースは美味いな」
終わり。