【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 異世界の魔王

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「ふふ。随分と久しぶりじゃないかしら? どう? 変わりなかった?」

亜梨珠「……あら、どうしたの? 大きなため息なんかついて」

亜梨珠「……ふーん。なるほどね。つまり、毎日に変わりがなさ過ぎて、生きている感じがしないってこと?」

亜梨珠「そう、ね。私が言えるのは、いいことじゃない、ってことかしら」

亜梨珠「え? 全然よくない? もっと刺激的な毎日を送りたいの?」

亜梨珠「気持ちはわからなくもないけれどね。でも、よく考えてみて。あなたはさっき、毎日に変わりがないことで、生きている感じがしないって言ったわよね?」

亜梨珠「でも、これって、逆なんじゃないかしら?」

亜梨珠「えーっと、そうね。野生の動物を考えてみて」

亜梨珠「野生の動物たちは自分でエサを追い求めて行動しているわよね? 毎日同じ場所に行けば、エサがあるわけじゃないわ。毎日、色々な場所に行ってエサを見つけて来るってわけね。でも、それで必ずしもエサを見つけられるわけじゃないわ」

亜梨珠「中にはエサを見つけられずに、死んでしまうことだってあるのよ」

亜梨珠「そう考えると、あなたはどう? 毎日、同じことをしていれば、死の危険性はないんじゃないかしら?」

亜梨珠「つまり、変わりがないことが、生きることを保証してくれているというわけよ」

亜梨珠「え? 会社が潰れたり、病気になったらそうじゃなくなるって?」

亜梨珠「ええ。そうね。でも、それって、『なにかあった』ってことじゃない? 変わらないことじゃなくて、変わったことによって、生きることの保証がなくなったということになるわ」

亜梨珠「結構前に話題になった書籍で、2匹のネズミがチーズを追い求めるって話があったわよね?」

亜梨珠「この話では、ネズミが毎日同じ場所にチーズが置いてあることを知り、それを食べて暮らしていたの」

亜梨珠「片方は毎日、決まった時間にその場所にチーズを取りに行き、もう片方はもしかしたら、いつかチーズが置かれなくなるかもしれないと言って、旅立つ、という話よ」

亜梨珠「この話は残っていたネズミの方が、ある日突然、いつもの場所にチーズが置かれなくなって、慌てて旅を始めるって流れで、最終的には新しいチーズの置き場を見つけたときに、もう片方のネズミと再会するって話だったと思うわ」

亜梨珠「確かに、リスクヘッジは大切だと思うわ。だけど、この話はいい方に偏った話だと思うの」

亜梨珠「逆を考えてみればいいんだけど、もし、毎日決まった場所にチーズを取りに行くネズミの方が、死ぬまでずっとチーズが置き続けられていたらどうかしら? そのネズミは何不自由なく、いつも通りの生活をして生きることを保証されるわ」

亜梨珠「そして、もう一方のネズミの方が、もし新しいチーズの置き場が見つからなかったらどうかしら? いつか食べ物がなくなって餓死してしまうわよね」

亜梨珠「どうかしら? 少し大げさな話になってしまったけれど、変わらない、っていうのも悪くないんじゃない?」

亜梨珠「え? そういうことを言ってるわけじゃない? 充実した毎日を送りたい?」

亜梨珠「うーん。毎日って時点で、変わらない日常って気がするんだけれど……。まあ、そんなへ理屈は置いておいて。そうね……じゃあ、今日はある男の話をしようかしら」

亜梨珠「その男は、あなたと同じように、日々の変わらない生活に飽き飽きして、毎日毎日、何か生活が劇的に変わらないかを期待して生きていたの」

亜梨珠「そんなある日、その願いが通じたのか、その男はある世界へと迷い込んだわ」

亜梨珠「その世界には魔物と呼ばれる化物もが存在していて、その男はその魔物を統べる立場になったの」

亜梨珠「そうね。今風に言うのなら、異世界に魔王として転生した、っていうところかしら」

亜梨珠「その男は劇的な生活の変化に歓喜したそうよ。これでつまらない生活とはおさらばだーってね」

亜梨珠「男はさっそく、魔物を使って世界を征服しようと企んだわ。でもね、魔物を統べる立場といっても、全ての魔物が思い通りに動くわけじゃなかったの」

亜梨珠「不満を言ったり、命令を無視したり、あろうことか、その男の命を狙う魔物まで現れたそうよ」

亜梨珠「男は喜びから一転して、絶望に落とされた気分になったわ。それはそうよね。いきなり、誰に命が狙われるかわからない状態になってしまったんだもの」

亜梨珠「その男は震えているだけじゃ、状況は変わらないし、このままでは本当に命を失いかねないと思い、決意したそうよ」

亜梨珠「生き残るためにやれることをしようって」

亜梨珠「男はまず、魔物たちのことを知ることから始めたわ。魔物たちにどんな特徴があるか、どんな生態系か、どんな考えをもっているのか、気になったことは全て調べたそうよ」

亜梨珠「次に男は魔物が何に対して不満を持つのか、逆に喜びを感じるのかを調べ始めたのよ」

亜梨珠「何度も失敗し、それでも諦めずに調査を続けたの」

亜梨珠「そして、ついにその男は魔物たちから慕われる立派な王となったわ」

亜梨珠「これで、命が取られる心配がなくなったと安心した束の間、今度は人間たちが侵攻してきたの」

亜梨珠「その男はかなり慌てたそうよ。だって、今度は確実に人間たちが自分の命を狙ってやってくるんだからね」

亜梨珠「そこで、今度は人間たちと和平交渉を行うことにしたの」

亜梨珠「戦って、人間たちを滅ぼすことも可能だったかもしれない。現に、その男は最初は、それをしようとしたんだからね。でも、男は和平というカードを切ったの」

亜梨珠「戦いで勝つことはできるかもしれない。でも、完全に一人残らず滅ぼすことは不可能。そうなれば、また、生き残りが自分の命を狙ってやってくるかもしれない」

亜梨珠「そう考えたら、和平の方が安全だと考えたのね」

亜梨珠「思惑は成功し、無事に和平を結ぶことができたわ。でも、男はそれでも安心はできなかった。いつ、また裏切って攻めて来るかもしれないと」

亜梨珠「だから、今度は人間に対してメリットとなるものを用意しようって考えたの。自分たちを倒せば、それが手に入らなくなって困る、という状況を作り出せば、うかつに手を出さなくなるだろう、ってね」

亜梨珠「今では、その男は人間側からも慕われる良い魔王になったみたいね。……でも、本人はその日々が変わらないように努力し続けているみたいよ」

亜梨珠「どうかしら? 変わらない、というのも案外、捨てたものじゃないとおもうのだけれど」

亜梨珠「それに私は思うの。誰かによって、変わった場合は大抵は大抵は不幸になることが多いわ」

亜梨珠「宝くじなんかはいい例じゃないかしら。一等が当たった人は結構、人生が狂うことが多いみたいね」

亜梨珠「だから、重要なのは変わる、じゃなくて変える、ことなんじゃないかしら」

亜梨珠「変わらない日々というのは、安定しているということ。それでも、変えたいと思うのなら、変わることを待つのではなく、自分で変わる、という方がきっと楽しいと思うわ」

亜梨珠「ふふ。少し、説教臭いお話になってしまったけど、満足していただけたかしら?」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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