■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
由加里(ゆかり)
恭兵(きょうへい)
その他
■台本
由加里「……嘘。真実とは違うことを、意図的に伝えること。ゴシップ。噂話を主題とした記事のこと。噂というより、嘘が混じったものも多い。だけど、それは人を楽しませるため。そういう嘘も必要だと思う。だって、記事っていうのは人を楽しませるものだから。楽しませるためなら、多少の嘘はご愛敬。それが私のスタンス」
場面転換。
ビリビリと紙を破る音。
由加里「あーあ。学校に現れた巨大オーブ。絶対受けると思ったのになぁ」
恭兵「なんだよ、誰にも新聞読んでもらえなくて凹んでるのか?」
由加里「うっさいわね。あんたには関係ないでしょ」
恭兵「たまにはさ、本当のことを書いてみたらどうだ?」
由加里「どういうことよ?」
恭兵「ほら、記事ってさ、ゴシップっていっても、本当かどうかわからないから受けると思うんだよ」
由加里「何が言いたいのよ?」
恭兵「いや、嘘だってわかりきってたら、誰も読まないんじゃないか? だってさ、嘘だって前提で書かれた記事は、記事っていうより妄想になるんじゃねーか?」
由加里「……だから、ありそうな題材にしてるじゃない」
恭兵「……もう、題材とか関係ないと思うぞ」
由加里「なんでよ?」
恭兵「お前、嘘しか書いたことないじゃん」
由加里「……」
場面転換。
由加里「いい? ネタを探してきなさい。なるべく面白そうなものよ。面白くない物なんて、記事じゃないんだから」
恭兵「いや、なんで俺が……」
由加里「あんたがいいだしたことでしょ!」
恭兵「逆切れすんなよ。……わかったわかった。けど、俺は素人なんだからあんまり期待すんなよ」
恭兵が歩いて行く。
由加里「さてと、私もネタ探しに行くか……って、放課後だから、そもそも人がすくないのよね。明日にしようかな……」
女生徒1「ねえ、聞いた? 七不思議の話」
女生徒2「聞いた聞いた。花子さんの話でしょ?」
由加里「え!?」
ダダダと女生徒たちのところへ走る由加里。
由加里「ねえ、今の話、詳しく聞かせて」
女生徒1「え? 今のって……ああ、七不思議のこと?」
由加里「そうそう。花子さんって言ってたけど、もしかしてトイレの花子さん?」
女生徒2「そう、この学校にいるって話だったんだけど……」
由加里「ええ! いるの? トイレの花子さんって、小学校ってイメージが強かったんだけど」
女生徒1「そう思ってる人多いよね」
由加里「で? その花子さん、どこに出るの? 何階のトイレ?」
女生徒2「それがね、出なくなったって話なのよ」
由加里「へ?」
女生徒1「なんか、夏休みに旅行したって噂が流行ってから、花子さんを見たって噂がピタっと止んだのよ」
由加里「いや、花子さんが旅行って……」
女生徒2「そっちは嘘くさいよね。でも、花子さんを見たって話が亡くなったのはホントだよね」
由加里「うーん。見なくなったっていうのはネタとしては弱いなあ。そもそも、本当かどうかなんて検証自体できないし」
女生徒1「ん? なんの話?」
由加里「ううん。なんでもない。それより、他に七不思議のことで話を聞いたことない?」
女生徒2「えーっとね……」
場面転換。
恭兵「ベッタベタだな」
由加里「うっさいわね。でも、本当のことだったら、ネタとしては強いでしょ?」
恭兵「まあ、そりゃそうだけど。けど、なんで俺まで……」
由加里「本当だったら怖いでしょ!」
恭兵「いや、逆切れすんなよ」
由加里「いいから、さっさと音楽室に行くわよ」
恭兵「はいはい」
場面転換。
ガチャガチャと鍵を解除する音。
由加里「開いたわ。入るわよ」
恭兵「お前、なんで音楽室のカギ、もってんだよ?」
由加里「合鍵よ」
恭兵「だから、なんで、合鍵持ってんだよ」
由加里「前の記事のときに、音楽室をつかったのよ」
恭兵「……理由になってねーよ」
由加里「細かいことはいいから、行くわよ」
ガラガラとドアが開く音。
そして、パチッと室内の電灯のスイッチを押す音。
由加里「うーん。特に変わった様子はないわね」
恭兵「ベートーベンの目が光るんだよな? なら、電気付けたら意味ねーんじゃねーの?」
由加里「わかってるわよ」
パチンと電灯のスイッチを消す音。
由加里「うわ、暗っ!」
恭兵「音楽室には窓がないからな」
由加里「えーっと、ベートーベンの目が光る……のよね。あんた、見てきて」
恭兵「なんでだよ?」
由加里「か弱い私に行けっていうの!?」
恭兵「はあ……。はいはい。わかりましたよ」
恭兵が部屋の中央まで歩く。
恭兵「お、おおお! ホントだ! 光ってる! 光ってるぞ!」
由加里「ホント? ……怖い感じ?」
恭兵「んー。そんなことないぞ。なんかボヤっと光ってる感じだな」
由加里「……その言葉、信じるからね」
由加里も部屋の中央まで歩く。
由加里「あ、ホントだ。……思ったより、地味ね」
恭兵「とにかく、ホントでよかったな。じゃあ、戻ろうぜ」
由加里「あんた、あの裏側見てきてよ」
恭兵「はあ? なんでだよ!」
由加里「原因まで調べてこそ、真実ってものじゃないの?」
恭兵「俺が記事書くわけじゃないんだから、お前が行けよ」
由加里「わかった。一緒に行く、で手をうつわ。どう?」
恭兵「交渉してる風だけど、俺に丸っ切るメリットないから、そもそも、その交渉は通じないだろ」
由加里「いいから、一緒に行きなさいよ!」
恭兵「はいはい……」
二人が額縁の裏側まで歩く。
恭兵「じゃあ、見るぞ」
由加里「うん」
恭兵「どれどれ……。あ、なんだこりゃ」
由加里「どうしたの?」
恭兵「なんか、電灯みたいのがある。それがぼんやり光ってるな」
由加里「え? どれどれ……あっ!」
恭兵「どうした?」
由加里「後で説明する」
カシャリというスマホの写真を撮る音。
場面転換。
ざわざわと人が集まっている。
女生徒1「へー。なるほどねー」
女生徒2「タネがわかると、なんかしょぼいねー」
由加里「ふふふふ」
恭兵「よお、あの記事、好評みたいだな」
由加里「まあね。なんせ、真実の記事だからね」
恭兵「……真実か? 自作自演だろ」
由加里「うっさいわね!」
恭兵「それに、一番重要なこと書いてねーだろ。結局、嘘にならないか?」
由加里「何ってるよ。嘘を書いてないわ。真実を書かなかっただけよ」
恭兵「……」
由加里(N)「ベートーベンの目が光ってたのは、私の前の記事のオーブが漂うという記事を作るために用意した電灯の回収忘れなだけだった。今回、私は原因に対しての、結果を書いた。もちろん、私の回収忘れというのは書いてはいない。あの記事には真実しか書いてない。よし、今度から、この路線でいこう。記事っていうのは人を楽しませるものだから。楽しませるためなら、多少の隠蔽はご愛敬。それが私のスタンス」
終わり