■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ
■キャスト
犬
猿
キジ
桃太郎
鬼
■台本
犬が山道をフラフラと歩いている。
犬(N)「僕は犬。名前はまだない。まあ、野良なんだから仕方ないけどね。正確に言うと、名前はいっぱいある。ポチ、シロ、チビ、わんこ、ワンワンなどなど。全部あげるとキリがない。つまり、エサを貰いに行く家によって、僕の呼び方が変わるってわけだ。……でも、今はそんなことはどうでもいい。僕にとって一番重要なのはお腹が減ったということだ。ここ最近、どこの家に行っても、まったくエサが貰えない。なんか、僕にあげてる場合じゃないって、みんな口をそろえて言うんだけど……。とにかく、僕はピンチだ。何しろ、ずっと人間にエサを貰い続けていたせいで、エサの取り方や探し方なんかがわからない。適当にやるよりも、エサをくれる人間を探す方がきっと効率的……なはず」
ぎゅるると犬のお腹が鳴る。
犬(N)「うう……。でも、そろそろ限界。お腹が減り過ぎて動けなくなりそう……」
そのとき、ガサガサと草むらから桃太郎が出てくる。
桃太郎「むっ! 犬か!」
犬「人間きたー! エサちょうだい! エサちょうだい!」
桃太郎「なるほど、なるほど。親と逸れてしまったというわけか。それは寂しかろう」
犬「……まあ、言葉が通じないのは仕方ないけど。でも、何となく察してよ。そりゃ、普通よりは小さいけど、僕は成犬だよ? 親と一緒に暮らす年齢じゃないんだから」
桃太郎「ふむ……。不安なのはわかるがな。拙者、急ぐゆえ、お主の親を探す時間がないのだ。すまん」
犬「親は探さなくていいから、何か食べ物ちょうだいよ!」
桃太郎「うーむ。困ったな。……そうだ! お主、拙者と一緒に来ないか? ちょうど家来を探していたところなのだ!」
犬「うーん。動物を家来にって、それどうなの? バカにされるよ? それならいっそ、いないほうがマシじゃない?」
桃太郎「そうか、そうか。来てくれるか。お主ならそう言ってくれると思っていたぞ」
犬「ダメだこりゃ。……仕方ない、他の人間を探そうっと……」
桃太郎「そうだ。仕官の祝いだ。このきび団子をやろう」
犬「ご主人様―! 一生ついていきます!」
場面転換。
桃太郎「猿よ! 拙者の家来になるのだ!」
猿「何言っとんねん。この兄ちゃんは。アホなんか?」
犬「失礼な! ご主人様はアホじゃないぞ! 少し、頭が弱いだけだ!」
猿「すまんすまん。けど、動物を家来にって、さすがにどうかと思うぞ?」
犬「あー、うん。まあ、僕もそう思うけど……。でも、家来になったらきび団子もらえるよ」
猿「マジか! じゃあ、なっとこうかな?」
場面転換。
キジ「罠から助けていただき、ありがとうございました」
桃太郎「うむ! キジよ! 拙者の家来になるのだ!」
キジ「は? えーっと……」
犬「あー、困惑してるね」
猿「そりゃそうやろ」
キジ「あの……この方は一体、何を言っているのでしょうか? 動物を家来して、なにかいいことでも?」
犬「お願い、可愛そうなご主人様に付き合ってあげて。罠から助けてくれたお礼だと思ってさ」
猿「家来になったら、めっちゃ美味いきび団子貰えるで」
キジ「はあ……。まあ、私は構いませんが」
場面転換。
桃太郎たちが山道を進んで行く。
桃太郎「はっはっはっ! 家来が3匹……。上出来だ! これだけの戦力があれば問題なかろう」
猿「なあ、そういえば、ワイらって、家来になったはいいけどなにすりゃいいんや?」
犬「ご主人様と一緒に散歩……とか?」
キジ「いえ、先ほど、戦力とおっしゃっていたので、なにかしら争いの場に連れていかれるのではないでしょうか?」
犬「ええー。僕、喧嘩弱いよ?」
猿「ワイもや。大体、動物を戦力に入れるって、どないやっちゅーねん。終わっとるやろ」
犬「もしかしたら、子供じゃないかな? ガキ大将とかに仕返しにいく、とか?」
猿「子供相手に、動物3匹連れてくとか、それはそれで、それはそれで逆に終わっとるな」
キジ「憶測でものを言っても始まりません。我々はご主人様の家来。信じてついていきましょう」
犬「うん。そうだね」
場面転換。
海を船で進んで行く、桃太郎一行。
猿「おいおいおい! 船って! 結構、ガチめっぽいぞ」
犬「うーん。困ったなぁ。ちょっと付き合ったら解放してくれると思ったのに……」
猿「ワイも……きび団子に釣られて、家来になったはいいが、ちょっと軽率やったかもなぁ……」
桃太郎「どうした! 家来たちよ! 随分と静かだな。……む! そうか、集中力を高めているのだな? いいぞ! もうすぐ鬼ヶ島に着くからな」
犬「ええええー! 今、鬼ヶ島って言わなかった? え? なに? これ、鬼ヶ島に向かってるの?」
猿「ちょ! あかんて! そんなん、船乗る前に言えや! これじゃ逃げれんやろ」
キジ「……なるほど。罠から助けて貰った見返りは鬼との戦闘ですか。罠に掛かっているときより、絶望感が強いですね」
犬「ねえ、どうしよう? 僕、鬼となんか戦えないよ?」
猿「しゃーない。隙を見て逃げ出すぞ」
犬「でも、どうやって?」
猿「ええか。ご主人様は鬼と戦う気や。てことは、速攻で鬼にやられるやろ? そしたら、とんずらこけばいいんや」
キジ「鬼がみすみす逃がしてくれるとは思いませんが?」
猿「じゃあ、あれや。ご主人様が鬼にやられてる途中で船に乗って逃げればええ。さすがに動物相手に、海の上までは追ってこんやろ」
犬「うん。それしかなさそうだね」
桃太郎「お! 見えたぞ、鬼ヶ島だ!」
場面転換。
桃太郎「よし、着いたぞ! さて、どうやって中に入るかだな。入り口は門で固く閉じられているな。……むっ! あそこに鬼がいるぞ! 聞いてみよう!」
桃太郎が鬼に向かって歩き出す。
猿「おいおい。そんな正面から行ったら、あかんて」
桃太郎「一つお願いがあるのだが!」
鬼「ああ? なんだ、貴様は?」
桃太郎「お主たちの城に入れてくれ」
鬼「は? 入ってどうするつもりだ?」
桃太郎「お主らの大将と話をする」
鬼「……何を話すつもりだ?」
桃太郎「村の財宝と村人たちを返してもらいたい」
猿「あー、あかん。終わったな、ご主人様」
犬「ねえ、今のうちに船に乗っておこうよ」
猿「せやな。船を漕ぐ棒は……っと、あったあった。これで何とか戻れるな」
鬼「あはははは。なかなか肝が据わった人間だな。だが、貴様の願いは叶うことはない」
桃太郎「ほう? なぜだ?」
鬼「ここで……ぶちのめされるからだ! おらあ」
桃太郎「ふんっ!」
鬼「……ほげぅ!」
鬼が桃太郎に殴られて吹き飛ぶ。
桃太郎「なるほど! 確かに! ぶちのめしてしまったので、話が聞けないな!」
犬「え? 今、何が起こったの?」
猿「さ、さあ……」
そのとき、ゴゴゴと門が開く。
鬼2「なんだなんだ? 曲者か? おい、みんな来てくれ! 変な人間が来たみたいだ」
桃太郎「おお! 門が開いたぞ。これで中に行ける。さあ、家来たちよ! 拙者に続け! うおおお!」
鬼たちの悲鳴が響いて来る。
犬「すごーい。鬼たちを相手にしてないよ」
キジ「化物じみた強さですね」
猿「てか、そもそも、ワイら必要か?」
犬「いらないね」
キジ「いらないですね」
猿「だよな」
鬼たちの悲鳴と桃太郎の笑い声が遠くから聞こえてくる。
終わり。