■概要
人数:5人以上
時間:10分
■キャスト
悠真(ゆうま)
紬(つむぎ)
寛人(ひろと)
その他
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■台本
悠真「斬……」
パリンとガラスが砕けるような音が響く。
妖怪「ギアアアアアア!」
悠真「ふう。もう大丈夫ですよ」
女性「ありがとうございました。これで、もう娘は大丈夫なんですね」
悠真「ええ。今ので妖怪は消滅させたので、もう霊的な干渉を受けることはないでしょう」
女性「ありがとうございます。……ですが、その……」
悠真「言いたいことはわかります。娘さんは霊力が高いですから、また他の妖怪に取り憑かれるんじゃないか、心配ってことですね?」
女性「は、はい……」
悠真「わかりました。……紬! 来てくれ」
紬が走り寄ってくる足音。
紬「はい、なんでしょうか、先生」
悠真「お札出してあげて。魔除けのやつ」
紬「わかりました」
悠真「じゃあ、俺、先に帰ってるから」
紬「あ、先生。これを……」
悠真「霊晶石? いいよ、そんなの」
紬「でも、先生は今、霊力を使ったので……」
悠真「大丈夫だって。あんな雑魚。全然疲れてないし」
紬「でも……」
悠真「はいはい。わかったよ。まったく、お前は心配性だな」
霊晶石が付いた首飾りを受け取り歩き出す悠真。
悠真「じゃあ、後処理任せた」
紬「わかりました」
場面転換。
悠真が歩いているところに寛人が走って来る。
寛人「いやあ、お疲れ様でした、悠真さん。私が目を付けただけあります!」
悠真「またあんたか」
寛人「嫌ですねぇ。露骨に嫌な顔しないでくださいよー」
悠真「スカウトの件は断ったはずだ」
寛人「もう一度、考えてみてくれませんかねぇ? うちの事務所にくれば、報酬は今の倍、家賃だって半分は出ますし、道具だって」
悠真「全部考慮した上で断ったんだ」
寛人「んー。正直わからないですねぇ。なんで、そこまでして事務所の所属になるのを拒むんですか? 陰陽師と言えども、しょせんは客商売。横の繋がりも大切にした方がいいと思いますよ」
悠真「必要ないと言っている」
寛人「まあ、そりゃ、現在、存在する数多(あまた)の陰陽師の中でも、トップと噂される悠真さんですからね。お客も引き手数多だと思いますよ」
悠真「わかったなら、さっさとどこかへ行け」
寛人「とはいえ、何が起こるかわからないのも、この業界です。万が一、怪我されたときはどうするんです? 代わりの人間がいないと大変ですよ。……というより、最悪、死を招くこともあり得ます」
悠真「助手ならいる」
寛人「紬さんですか? 言っては悪いですが、なぜ、あんなのを傍に置いてるんですか?」
悠真「……」
寛人「あんな雑魚、悠真さんには相応しくありません。悠真さんからあふれ出る霊力の影響がなければ、霊すら見ることができないんですよ? つまり、悠真さんがいなければ何もできない。あんなのは助手じゃなくてコバンザメですよ」
悠真が立ち止まって、寛人の胸ぐらをつかむ。
悠真「殴られる前に消えた方がいいぞ」
寛人「す、すいません……。口が滑りました」
悠真「ふん」
バッと離して再び歩き出す。
寛人「それにしても悠真さん、なんで霊晶石なんて身に着けてるんですか?」
悠真「まだついて来るのかよ……」
寛人「そんな護符のようなもの、トップクラスの陰陽師が身に着けてるなんて、格好悪いですよ?」
悠真「……」
場面転換。
事務所の廊下を歩く悠真。
するとパソコンのキーボードを打つ音が聞こえる。
悠真「ん?」
ガチャリと部屋のドアを開ける。
悠真「なんだ、紬。帰ったんじゃなかったのか?」
紬「いえ。経理の方が溜まっていたので……」
悠真「ああ、いつもすまんな」
紬「いえいえ。助手なんですから当然のことです」
悠真「なあ、紬はどうして陰陽師になりたいって思ったんだ?」
紬「え?」
悠真「正直、お前の才能じゃ厳しい世界だと思う」
紬「わかってます……。でも、どうしても諦めきれなくて」
悠真「そうか……。ま、頑張れよ」
紬「は、はい!」
悠真「じゃあ、俺、ちょっと飲みに行くから、戸締りよろしくな」
紬「わかりました。……あ、先生これ!」
悠真「いや、霊晶石はいいよ。今日はたいして疲れてないし」
紬「ダメです! 一人でいるときは必ず身に着けてください。万が一、先生に何かあったら大変です!」
悠真「はいはい。わかったよ」
悠真が霊晶石を受け取る。
場面転換。
よろよろと道を歩く悠真。
悠真「ふう。ちょっと飲み過ぎたか?」
若い女性「あら、お兄さん。大丈夫? 介抱してあげましょうか?」
悠真「ははは。嬉しい提案ですが、大丈夫です。……おとと」
若い女性「ふふ。ダメじゃない……」
若い女性が手を差し伸べようとしたとき、バチっという電流のような音が出る。
若い女性「つっ!」
悠真「あれ? どうかしました?」
若い女性「いいえ。なんでもないわ。それより、その首飾り、綺麗ね。ちょっと見せてくれない?」
悠真「え? ああ、霊晶石? いいですよ。ほら」
悠真が霊晶石を外して見せようとする。
しかし、パシッという手を手で弾く音。
悠真「あっ! どうしたんですか? 霊晶石が落ちちゃいましたよ……」
悠真がよたよたとしながら石を拾い上げる。
悠真「……あれ? お姉さん、どこにいったんだ?」
若い女性「なんだ、こいつ。霊晶石がないと妖怪が見えない雑魚かよ」
悠真「……うーん。急用でもできたのかな?」
若い女性「ふふ。まずは眠って貰って、後でゆっくりといただくか。おら」
ドンと突き飛ばす音。
悠真「わわわっ!」
悠真が突然突き飛ばされたことで、壁に頭をぶつける
悠真「う、うう……」
若い女性「あら? 気絶しちゃった? だらしないな。とりあえず、霊晶石を持ってる腕を切り落して……」
紬「……何をしてるんです?」
若い女性「ひいぃ!」
紬「嫌な予感がして来てみれば……。こんどからは深酒も注意しないといけないようですね」
若い女性「な、な、な、なっ! なんだ、お前? その霊力は……化物か!」
紬「……妖怪に化物扱いされるというのも心外ですが。にしても、やっぱり先生の意識がない状態だと、霊力を分け与えれないみたいですね」
若い女性「な、なんで、お前のような陰陽師が、こんな雑魚に……」
紬「霊力があり過ぎるというのも、何かと不便なんですよ。やたらと狙われますからね。だから、目くらましのために、こうして私の霊力を流す器が必要なんです」
若い女性「だ、だから、こんな全くの無能の近くにいるのか……」
紬「先生は全くの無能というわけではないですよ。霊力の器だけは大きいんです。器だけは、ですが」
若い女性「く、くそっ! せめて、男だけでもぶっ殺してやる! キシャ―!」
紬「斬!」
若い女性「がっ!」
パチンと指を鳴らすと同時に、パリンという小さい音が響く。
そして、紬が悠真に歩み寄る。
紬「先生? 先生!」
悠真「んあ? ああ、紬か」
紬「もう、紬か、じゃないですよ。さ、帰りますよ」
悠真「あ、ああ……」
場面転換。
悠真「斬!」
パリンというガラスが割れるような音が響く。
悠真「ふう」
紬「先生、お疲れさまでした」
寛人「いやあ、やっぱり、悠真さんは凄いですね。私が目を付けただけあります! 悠真さんみたいな一流は、うちの事務所がぴったりですよ!」
悠真「またあんたか。何度来ても無駄だ」
寛人「そこをなんとか! ね? ね?」
紬「……」
悠真「しつこいな、もう!」
終わり。