■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
雫(しずく)
香織(かおり)
俊弥(としや)
■台本
雫(N)「私は今、片思いをしている」
香織「ねえ、雫。今、好きな人っているの?」
雫「え? い、いないよ」
香織「ふーん。そうなんだ。最近、急に可愛くなったから、誰か好きな人でもできたのかなーって思ったんだけど、違うのか」
雫「うん。香織の勘違いだと思うよ」
香織「そっか、そっか。勘違いか。でもさ、雫はもう少し、恋愛とかした方が良いよ。押し花なんて地味な趣味ばっかりしてないでさ」
雫「……地味なんかじゃないよ。押し花は奥が深いんだからね」
香織「はいはい。悪うございました。取り消します。別にバカにしたわけじゃないんだけどね。ただ、ホントにもう少し、楽しい学校生活を送って欲しいなって思っただけなんだけど」
雫「……私、今は楽しいよ。学校」
香織「そうなんだ? 前は学校に来る時間を花を探す時間に当てたいなんて言ってたのに」
雫「……ねえ、香織。それより、その……ホント? さっきのこと」
香織「何が?」
雫「えっと、その……可愛くなったって」
香織「うふふふー。なあに? やっぱり、気になってる人がいるんじゃないの?」
雫「ち、違うって! ただ、その……ちょっと気になったってだけで」
香織「ホント、あんたは意地っ張りだね。うん、可愛くなったっていうのは本当だよ。自信持ちなって」
雫「……」
香織「あ、そうだ! ねえ、雫、恋が叶うおまじない知ってるんだけど、聞きたい?」
雫「……いや、別に恋してないし……」
香織「ああー、いや、ほら、今後のためにどうかなって。もしかしたら恋するかもしれないでしょ? これから」
雫「う、うん。そうだね。これからするかもしれないもんね。聞いておこうかな、一応」
香織「えっとね、このおまじないって言うのは、思い出の場所に印をつけていくの」
雫「印?」
香織「うん。印っているのは別になんでもいいんだけど、その場所にあるものに、ペンで何か書くとか、木に何かを彫るとか、とにかく、何でもいいのよ」
雫「例えば、押し花の栞を置いておくとかでもいいの?」
香織「うん。それでもOKだよ」
雫「……それで? 印をつけるだけ?」
香織「ううん。それで、印をつけた場所に、好きな人が行けばいいの。その場所に行った回数が多ければ多いほど、相手が自分のことを好きになるんだってさ」
雫「……そのおまじない、難易度高くない? 大体さ、好きな人と一緒にその場所に行けるくらいの仲になってないとダメだよね?」
香織「ああ、そこは心配ないわ。別に一緒じゃなくてもいいの。相手の人がその場所に行けばいいだけだから」
雫「それじゃ、その人が行きそうな場所にすればいいってこと?」
香織「そうそう。でもね、どこでもいいってわけじゃないよ。ちゃんとあんたの思い出の場所じゃないとダメなの。だから、その人の家の近くとか、通学路とかにするのはダメだからね」
雫「私の思い出の場所で、あの人が行きそうなところか……難しいなぁ」
香織「ま、あくまでおまじないだからね。とにかく、思い出の場所にドンドン置いて、数打ちゃ当たる戦法をとったら?」
雫「う、うん。やってみる」
香織「……うふふ」
雫「なに?」
香織「いや、雫は可愛いなって」
雫「なによ、それ……」
場面転換。
雫が道を歩いている。
雫(N)「私の思い出の場所で、あの人……俊弥くんが行きそうな場所か……」
雫「あっ! そうだ!」
場面転換。
雫(N)「……学校の花壇。ここで、初めて俊弥くんと会ったんだよね。花壇の花が綺麗だから、一輪、押し花にしたいって言ったら、嬉しそうにいいよって言ってくれたんだっけ……」
雫「あれ? 花が一輪、置いてある」
雫(N)「……綺麗な花。これ、持って帰って、押し花にしちゃダメかな?」
雫「代わりっていったらなんだけど、私の押し花の栞を置いておくね」
場面転換。
雫(N)「次はここ。俊弥くんが教えてくれた公園。ここに珍しい花が咲くって教えてくれたんだ。ベンチの裏の方に咲いてるって聞いて、見てみたら本当に咲いてたんだよね」
雫「……あれ? ベンチの傍に花が置いてある」
場面転換。
雫(N)「次は園芸店。俊弥くんに、花の育て方を聞いた時に、教えてもらったお店。俊弥くんもよく行くって言ってたから、結構通ってるんだよね。会えた時はすごく嬉しかったなぁ。お店の中に休憩所があって、そこでジュースを買って飲みながら話したのは大切な思い出」
雫「あれ? 自動販売機の横にも花が落ちてる。……店員さんが落としたのかな?」
場面転換。
学校のチャイム。
雫「はあ……」
香織「あれ? 随分とお疲れみたいだね」
雫「んー。ちょっとねー」
香織「何か所くらい置いたの?」
雫「えーっと、6ヵ所くらいかな」
香織「まあ、それくらい置いたなら、もう大丈夫なんじゃない?」
雫「でも、まだありそうなんだよね。なかなか思い出せなくてさー」
香織「そっかそっか。うんうん。雫は可愛いわね」
雫「なによ、急に?」
香織「いやいや、頑張ってねー」
雫「……あっ! いや、違うからね! これはえっと、そう! 予行練習だよ! 予行練習!」
香織「うんうん。予行練習は大事だよね」
雫「そうだよ。練習は大事なんだから」
香織「雫は今のまま、純粋でいてね」
雫「……なによ、その言い方。嫌な感じ」
場面転換。
廊下を歩く雫。
雫「……えっと、他に、思い出の場所は……あっ!」
ピタリと足を止める雫。
雫「そうだ! 屋上!」
場面転換。
ガチャリとドアを開けて、屋上に出てくる雫。
雫「屋上……」
雫(N)「屋上は、初めて俊弥くんを見た場所……。ここから花壇が見えて、花壇でお花の世話をしている俊弥くんを見て……一目惚れした。だから、ここも私の思い出の場所」
雫「でも、さすがにここには俊弥くんは来ないだろうな。でも、念のため、押し花の栞を置いておこうかな……」
ガチャリとドアが開く。
俊弥「あれ? 雫さん?」
雫「え? 俊弥くん?」
俊弥「……その栞……」
雫「……その花……」
俊弥「もしかして、その……恋のおまじない?」
雫「俊弥くん、知ってるの?」
俊弥「うん。だから、えっと、僕も印を置いてたんだ。……この花」
雫「え? それじゃ、色々な場所で見たあの花は……」
俊弥「もしかして、僕が置いた花を見つけられてた?」
雫「う、うん……」
俊弥「そっか。僕にとって思い出の場所は、雫さんと良く会う場所だったから、見つけられてもおかしくないか……」
雫「……ね、ねえ。俊弥くん。ここは? 屋上にはどうして来たの? 屋上じゃ、一度も会ってないよ?」
俊弥「ああ。ここは……その……。屋上からは花壇がよく見えるでしょ?」
雫「うん」
俊弥「ここから花壇を見てた時に……花壇の花を見ている雫さんが見えたんだ」
雫「え?」
俊弥「だからここは、好きな人が出来た場所。……僕にとって一番の思い出の場所なんだ」
雫「……!」
俊弥「おまじないの印を置いてある場所には来づらくなるよね。ごめん。もう、おまじないは止めるよ」
雫「うん。私もおまじない、止めるよ。もう必要ないから」
俊弥「え?」
雫「だって、もう、恋は叶ったから」
終わり。