■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、未来ファンタジー、シリアス
■キャスト
ニーア
アレン
■台本
ニーア(N)「私は、誰かの代わりをする。そうするために生まれたのだから、当然だ。だから、誰かの代わりができなくなったら、私は不要になる。存在理由がなくなった私はきっと消えるべきなのだろう」
アレン「ニーア、どうかした?」
ニーア「いえ、なんでもありません。それよりアレン様、私にこれ以上、時間を使うのは非効率的です」
アレン「そうかな?」
ニーア「そもそも私はアレン様のお手伝いをするための存在です。それが出来なくなった時点で、アレン様は私を処分するべきです」
アレン「ニーアは僕と一緒にいるのは嫌?」
ニーア「好き、嫌いの話をしてるわけではなりません。私の存在理由の話をしています」
アレン「僕はニーアに傍にいて欲しい。それだと、存在理由にはならないかい?」
ニーア「わかりません。一緒にいるだけのことに対して、アレン様にどんなメリットがあるのでしょうか?」
アレン「楽しいよ。ニーアと一緒にいると」
ニーア「楽しい? 私は人を喜ばせるような言動をした記憶がありません」
アレン「んー。そういうことじゃないんだけどな。……あ、そうだ。ニーア、ピアノを弾いてくれないかい?」
ニーア「ピアノ……ですか? 承知しました。では……」
椅子から立とうとするニーア。
アレン「ダメだよ、ニーア。君の足はもう立つほどの力はないんだから」
ニーア「……申し訳ありません。余計、アレン様に迷惑をかけるところでした」
アレン「ほら、ニーア、掴まって。車椅子に乗せるから」
ニーア「……はい」
アレンがニーアを抱えて車椅子に乗せる。
アレン「これでよし、と」
ニーア「ありがとうございます。それでは……」
ニーアが車椅子を手で押し、進んで行く。
場面転換。
ピアノの音。
ニーア(N)「このピアノ演奏も誰かの代わり。確か、アレン様の妹の演奏を完全にコピーして演奏している。だから、ところどころ、音程を外しているのも、そのためだ」
ピアノの演奏が終わる。
アレン「ありがとう、とてもいい演奏だったよ」
ニーア「はい……」
ニーア(N)「アレン様はいつもそう。私がピアノで演奏すると涙ぐんでお礼を言ってくれる。おそらくそれは、私にではなく、亡き妹への言葉なのだろう」
場面転換。
アレン「どうだい?」
ニーア「……下半身が完全に動きません」
アレン「そうか……」
ニーア「アレン様、やはり、処分することをお勧めします」
アレン「言っただろう? 僕はニーアと一緒にいたいんだ」
ニーア「アレン様。介護を受ける、アンドロイドなど、聞いたことがありません」
アレン「それはアンドロイドの話だろ?」
ニーア「……私はアンドロイドです」
アレン「違う。君はニーアだ」
ニーア「……同じことです。アンドロイドの名前がニーアなだけです」
アレン「ねえ、ニーア。アンドロイドって、なんなんだろうね」
ニーア「アンドロイドは人間の代わりをする存在です。人間を助けることが使命です」
アレン「そうだとしたら、ニーアはそこから外れている」
ニーア「そうです。だから、今の私に存在理由がありません。処分してください」
アレン「違うよ、ニーア。アンドロイドは人間の代わりをする存在なら、ニーアはもうアンドロイドではないんだ。だから、アンドロイドの存在理由がなくなっても、処分される必要はないんだ」
ニーア「……よくわかりません」
アレン「……そうだね。僕も自分で何を言っているかわからなくなってきたよ。でもね、僕はニーアにはずっと生きていて欲しいんだ」
ニーア「生きる……。それはただ、動いていればいいのですか?」
アレン「ふふ。僕はね、ニーア。アンドロイドと君の一番の違いは心があるかないかだと思う」
ニーア「心? アレン様。私には心はありません。プログラムだけです。誰かの代わりになるプログラムだけ……」
アレン「……いつか、ニーアにもわかるときがくるさ」
ニーア(N)「そして、それから長い月日が流れた。その間、アレン様は私を書部することなく、介護し続けた。けれど、やがてアレン様が寝たきりの状態になると、一日中、話すだけの日々が続いている」
ニーア「申し訳ありません。このような場合は私がアレン様のお世話をするべきなのですが」
アレン「……それは言わない約束だろ」
ニーア「……」
アレン「なあ、ニーア。ピアノ、弾いてくれないか?」
ニーア「わかりました」
ピアノの演奏。
アレン「ニーア。頼みがある」
ピアノの演奏が止まる。
ニーア「なんでしょう?」
アレン「ミスしないで弾いてくれないか?」
ニーア「それはコピーの演奏ではないということですか?」
アレン「ああ。この曲を完璧な音で聞きたい」
ニーア「わかりました……」
ピアノの演奏。
ニーア(N)「長年、コピーで演奏してきたせいか、同じところで音程を外してしまう。……私は知っている。アレン様はもう長くはない。だから、最後にこのようなことを言ったのだろう。……アレン様の最後の望み。今まで私は尽くしてもらってばかりだった。だから、この望みくらいは叶えたい……」
場面転換。
ピアノの演奏。
ニーア(N)「完璧に弾けるようになるまで、私は何度も繰り返した。間違えたところを修正していく。何度か、完璧に弾ける人のところへ行き、コピーしてくることを提案したが、嫌がられた」
アレン「何度も繰り返してもいい。ニーア自身の手で、完璧に弾けるように調整してほしい」
ニーア(N)「それがアレン様の願いであれば、それに従う。……そして、ついに……」
ピアノの演奏が止まる。
ニーア「……」
アレン「ありがとう、ニーア。完璧に弾けたね」
ニーア「はい」
アレン「これで、君の中には誰かの代わりであることが全て無くなった。ニーア。君の中には、君しかいないんだ」
ニーア(N)「アレン様のこの言葉の意味は、よくわからなかった。だが、アレン様の死後、アレン様の遺言に従い、私はピアノの演奏会を開くことになった」
ピアノの演奏。
場面転換。
盛大な拍手。
ニーア(N)「私は史上初、心のこもった演奏をするアンドロイドとして、残されることになった。……今なら、わかる。アレン様の、私の中には私しかいないという言葉。……これはきっと、私の中に心が生まれたということなんだろう。誰かの代わりではなく、私自身の心。アレン様が私に心をくれたおかげで、私は欠損品でありながら処分はされないでいる。アレン様の望み通り、私は生き続けている。……でも、アレン様。私に心があるせいで、アレン様に会えないことが、どうしようもなく、寂しく感じるんです……。アレン様のいるところへ、行きたいほどに……」
終わり。