■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
一也(かずや)
御影(みかげ)
■台本
一也(N)「パーソナルスペース。自分と他人との距離。これは人間関係を築く上で、大切なものだ。狭い人もいれば、物凄く広い人もいる。おそらく俺は、普通より狭いと思う。だけど、俺よりも、もっともっと広いやつが目の前……いや、隣にいるのだ」
雨の音。
御影「一也! それ以上、近づくの禁止!」
一也「いや、もうちょっと近づかないと、濡れるだろ」
御影「わざわざ傘に入れてあげてるだけでも感謝してほしいわね」
一也「わ、わかったよ……」
御影「そうそう。それでいいのよ」
一也「……それにしても、御影は相変わらず、潔癖症だな」
御影「潔癖じゃなくて、距離感よ。人には踏み込まれたくない距離っていうのがあるでしょ」
一也「お前は広すぎるんだよ」
御影「そう? けど、あんたに対してはまだ、いい方よ。話したこともない人だと、隣の席でもきついわ」
一也「……どうにかならんのか?」
御影「こればっかりは、感覚の問題だからね。どうしようもないわ。ま、対処法は、仲良くなることくらいかしら」
一也「……俺より、近くまで大丈夫なやつっているのか?」
御影「なに? 気になるの?」
一也「別に」
御影「もう少し近づきたかったら、もっと私に貢ぐことね」
一也「もっとってなんだよ。お前に貢いだことないぞ」
御影「とにかく、努力しなさいってことね」
一也「はいはい……」
場面転換。
一也と御影が歩いている。
一也「御影って、いつも休みの日って何してるんだ?」
御影「別に。大したことしてないわよ」
一也「そうなんだ……」
ピピッと車のクラクションが鳴る。
一也「御影! 危ない!」
バッと御影を抱きよせる一也。
その横を車が通過していく。
御影「……」
一也「危ないな……。ぶつかりそうだったぞ」
御影「一也……。近い」
一也「ああ、ごめん。緊急だったからさ」
バッと離れる一也。
一也「……どうした? 青い顔して。そんなに怖かったか?」
御影「……いや、別に。あ、私、寄るところあるから。じゃあね」
一也「え? あ、ああ……。じゃあな」
御影が走って行ってしまう。
一也(N)「今考えると、この日からだった。御影の態度が変わったのは」
場面転換。
一也「なあ、御影」
御影「……近い」
一也「え?」
御影「それ以上、近づかないで」
一也「え、でも、これくらい平気だっただろ」
御影「平気じゃなくなっただけよ。で? なに?」
一也「いや、えっと……」
御影「大した用じゃないなら、もう行くわね」
スタスタと歩いていく御影。
一也「……」
一也(N)「そして、徐々に、俺が御影に近寄れる距離が遠くなっていった」
場面転換。
一也「よお、御影。今、帰りか? 一緒に帰ろうぜ」
御影「……いいけど」
一也と御影が離れて歩いている。
一也「あのさ、御影」
御影「なによ?」
一也「遠すぎないか? これだと、一緒に帰ってる感じがしないんだけどな」
御影「そう。これで満足できないなら、一緒には帰れないわね。さようなら」
小走りで行ってしまう御影。
一也「……」
一也(N)「そして、ついには話さえもしない日が続いた」
場面転換。
御影「こんなところに呼び出して、なんのつもり?」
一也「それはこっちが聞きたい。……俺、何かしたか? どうして、俺を嫌うんだ?」」
御影「別に嫌ってるわけじゃないわ」
一也「なら、なんで、俺を避けるんだよ?」
御影「避けてるわけじゃないのよ。あんたに対しての、私が平気な距離感が伸びてるだけの話」
一也「……それって、嫌ってるってことだろ? 前に言ってたよな? 仲の良さで距離が変わるって」
御影「……」
一也「俺のこと、どうして嫌ってるんだ?」
御影「だから、嫌ってるわけじゃないわ」
一也「……好きな人ができた、とかか?」
御影「違うわ。あー、いや、どうなのかしらね。それが影響してる可能性もあるわ」
一也「どういうことだよ?」
御影「言う必要はないわ」
一也「……俺さ。ずっとお前の隣にいれるものだと思ってた。それが当たり前だと思ってた。けどさ、お前に避けられるようになって気づいたんだ」
御影「……」
一也「俺、ずっとお前の隣にいたい。お前と一緒にいたい」
御影「……」
一也「まあ、お前が嫌っていうなら、諦めるよ。お前が嫌がっているのに、無理やり近づこうとは思わないからな」
御影「わかってると思うけど、私、面倒くさい女よ。パーソナルスペースに関しては、きっちりしておきたいの」
一也「ああ……」
御影「覚悟はあるの?」
一也「何の覚悟だよ?」
御影「何があっても、ずっと私の隣にいる覚悟よ」
一也「ああ。もちろんだ」
御影「そう……」
場面転換。
一也が歩いていると、御影が走って来る。
御影「かーずや!」
腕に抱き着いて来る御影。
一也「うわ! ビックリした」
御影「ふふ。こんなんで驚くなんて、まだまだね」
一也「どうでもいいけど、ちょっとくっつきすぎじゃないか?」
御影「言ったでしょ? 何があっても、隣にいる覚悟があるのかって」
一也「ああ、そうだけど……これはちょっと」
御影「なによ? 嫌なの?」
一也「いやじゃないけどさ……」
御影「私に惚れられたのと、私に告白したのが運のつきね。だから、わざわざ距離を取ってあげてたのに」
一也「……そうなのか?」
御影「近づきすぎたら、タガが外れるってわかってたからね。だから、そうならないように距離を取ってたのよ。でも、そうしなくていいって一也が言ったのよ。だから、一緒にいるときは、これくらい近くないとダメよ」
一也「わ、わかったよ……」
一也(N)「「パーソナルスペース。自分と他人との距離。これは人間関係を築く上で、大切なものだ。狭い人もいれば、物凄く広い人もいる。今、俺の隣にいる奴は、ほとんど距離がない。パーソナルスペースってやつは、なかなか難しいものだな」
終わり。