【声劇台本】大切な一人

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、未来、シリアス

■キャスト
セーレ
ロイ
その他

■台本

セーレ「どうぞ。コーヒーです」

ことりとカップをテーブルに置く音。

ロイ「ふわー。ありがと……。って、苦っ!」

セーレ「まだ眠そうでしたので」

ロイ「はは。相変わらず、セーレは気が利くね」

セーレ「では、掃除がありますので」

ロイ「あー、ちょっと待って。座って」

セーレ「なんでしょう?」

ロイ「少しお話しよう」

セーレ「……」

ロイ「うわっ! 面倒くさいって思ったでしょ?」

セーレ「いえ。ロイ様の希望に沿うことが私の役目なので」

ロイ「セーレ。俺のことはロイでいいって言ってるのに」

セーレ「そのようにお呼びすることはできません」

ロイ「はあ……。セーレは固いなぁ」

セーレ「いえ。固いというわけではなく」

ロイ「それよりさ、今度の休み、一緒にどこか、出かけないか?」

セーレ「結構です。やることが山積みですので」

ロイ「そんなの後回しでいいからさ」

セーレ「……」

ロイ「うわっ! 面倒くさいって思ったでしょ?」

セーレ「ですから、思ってません。というより、無理です」

ロイ「なあ、セーレ。アンドロイド、買おうか」

セーレ「私は用済みということでしょうか?」

ロイ「違うって! 逆、逆! ほら、セーレの手が空けば、もっと俺とお話できるでしょ?」

セーレ「……失礼ですが、今のこの家の経済状態で、アンドロイドをさらに購入することは無理です」

ロイ「何とかするさ」

セーレ「合理的な考えではありませんね。賛成しかねます」

ロイ「いや、だから……」

セーレ「そろそろ、仕事の時間ですが」

ロイ「あっ! やべ!」

立ち上がって、バタバタと走って行くロイ。

セーレ「……はあ」

場面転換。

ピッピッピと、機械を操作するボタンを押す音。

ウィーンという音が鳴り始める。

セーレ「掃除の設定は終わり。次は……」

テレビからのCMの音。

セーレ「……またつけっぱなしで」

アナウンサー「次のニュースです。最近、何かと問題が噴出しているアンドロイドについて、男女共に晩婚化が進んでいます」

セーレ「……」

アナウンサー「原因として挙げられるのが、精巧なアンドロイドと一緒に住むことと言われていますが……」

コメンテータ「今はなんでもアンドロイドがやってくれますからね。便利な世の中になる反面、人間の方は堕落していくというものです」

アナウンサー「中にはアンドロイドに恋愛感情を抱く人もいると……」

ピッとテレビの電源を消す音。

セーレ「……」

場面転換。

コトリとお皿をテーブルに置く音。

ロイ「おお! 美味しそうだなぁ」

セーレ「では、私は部屋の片づけに」

ロイ「ああ、ちょっと待った。ここ座って」

セーレ「……なんでしょう?」

ロイ「セーレの言う通り、アンドロイドを買うのは止める」

セーレ「そうですか。良かったです」

ロイ「その代わり、俺も家事を手伝うことにした」

セーレ「言っている意味がわかりませんが」

ロイ「いや、アンドロイドじゃなくて、俺が手伝えば、セーレの手が空くし、そもそも一緒に家事をやれば、一緒にいる時間が増えるでしょ? いい考えだと思わない?」

セーレ「……なぜ、そこまでして、私と一緒にいたいと思うのですか?」

ロイ「愛している人と一緒にいたいって思うのは普通だと思うけど?」

セーレ「異常です!」

ロイ「そうかな?」

セーレ「大量生産型のアンドロイドを愛すなんて、おかしいです。間違っています」

ロイ「違うよ」

セーレ「なにがです?」

ロイ「大量生産型のアンドロイドじゃない。セーレ。君を愛しているんだ」

セーレ「同じことだと思いますが」

ロイ「確かにセーレの顔は好美だけど、愛しているのは中身だ」

セーレ「中身のデータも、他のアンドロイドと一緒です」

ロイ「全然違うよ。セーレは俺の好みだって熟知してるし、癖だって知ってる」

セーレ「それはロイ様の好みにカスタマイズされているかであって……」

ロイ「セーレ。そういうことじゃないんだ」

セーレ「……わかりません」

ロイ「セーレ。もし、他の家に行くことになったとしたら、平気か?」

セーレ「ロイ様が行けと言うなら、行きます」

ロイ「本当か?」

セーレ「私は嘘は付けないようになっているので」

ロイ「……」

セーレ「失礼します。部屋の片づけがありますので」

ロイ「あ、ちょっ! セーレ!」

セーレが立ち上がり、歩き出す。

セーレ「……」

場面転換。

軽快なBGM。

店主「本当にいいのか? 知らないぞ」

セーレ「ご協力、ありがとうございました」

店主「かなり怒ると思うぞ、ロイ君。下手したら、お前はロイ君のところには帰れなくなるかもだぞ?」

セーレ「構いません。ロイ様がそれで目を覚ましてくれるのであれば」

店主「ロイくんを試すようなことして。すぐにバレると思うぞ」

セーレ「気づかれる可能性は限りなく低いです。私のデータを全て、ダウンロードしましたから。記憶、動き方、喋り方。全て、完璧にトレースできるはずです」

店主「そんなんじゃないと思うけどな。まあいい。お前はあそこの展示用のケースの中に入ってろ」

セーレ「わかりました」

場面転換。

ドアが開き、ロイが入って来る。

ロイ「すいません、店長。セーレ……。ああ、ここで購入したアンドロイドなんですけど、こっちに来てませんか?」

店主「ん? いや、来てねえな。なんだい? 逃げちまったのかい?」

ロイ「いえ。違うアンドロイドとすり替わってました。こんなことができるのは、あなたくらいしかいませんよね?」

店主「おいおい。勘弁してくれよ。もしかしたら、あいつが自分で購入したということも考えられるだろ?」

ロイ「そ、それはそうですけど……」

店主「とにかく、ここには来てないよ。さあ、帰った帰った。商売の邪魔だよ」

ロイ「す、すいませ……」

店主「ん? どうしたんだ?」

ロイがフラフラと歩いて行き、立ち止まる。

ロイ「……」

店主「ああ、そいつは中古品でね。転じようとして飾ってあるんだよ」

ロイ「……セーレ」

店主「……」

ロイ「セーレ、何やってるんだ」

セーレ「……」

ロイ「ほら、帰るぞ」

セーレ「……どうして、わかるんですか?」

ロイ「好きな人がわからないわけないだろ」

セーレ「ここには展示用の同じアンドロイドがいっぱいあります。見分けは付かないはずです」

ロイ「言っただろ。お前の中身を好きになったんだって」

セーレ「……」

ロイ「……俺と一緒にいるのは嫌か?」

セーレ「嫌じゃありません」

ロイ「良かった。それじゃ、帰ろう」

セーレ「はい」

歩き始めるロイとセーレ。

セーレ「あの、ロイ」

ロイ「ん?」

セーレ「愛してます」

ロイ「うん」

終わり。

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