鍵谷シナリオブログ

【声劇台本】不思議な館のアリス 不思議な箱

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「え? 心なしか、元気がないように見える、ですか?」

アリス「ふふふ。あなたにはかないませんね。妹と少し言い争いをしてしまいまして」

アリス「いえ、本当に些細なことなのです。人に聞かせるようなことではありません」

アリス「……余計、気になる……ですか? わかりました。あなたですからお話しますが……ガッカリしないでくださいよ?」

アリス「実は妹に取っておいたケーキを食べられてしまいましてね」

アリス「……だから言ったじゃありませんか。些細なことだと」

アリス「はあ……。私が仕事で目を離している間の犯行でした」

アリス「あ、いえ。こんなことを言うと、妹にまた怒られてしまいますね」

アリス「……わかりました。経緯をお話します。複雑な話ではありませんし」

アリス「単に、私の残しておいたケーキを、目を離したすきに食べられてしまったのですが、妹が言うには、犯人と決めつけるのはおかしいと言うんですよ」

アリス「ですが、そのとき、家には私と妹の二人しかいませんでしたし、戸締りもしっかりしていました。そんな中で、私のケーキを食べることができたのは妹だけだ、という状況証拠だったのですが……」

アリス「実際に見たわけではないことと、家に誰かが隠れていたという可能性もあるということで、犯人と断定するのはおかしいというのですよ」

アリス「疑わしきは罰せず、という言葉がありますが、そこまではっきりした証拠が必要なら、この世の中は冤罪が溢れかえってしまいます」

アリス「しかし、まあ、宇宙人が人知れず持って行ったかもしれませんし、偶然、字訓のひずみができ、ケーキだけ飲みこまれてしまったという可能性もゼロではないので、引き下がりましたけどね」

アリス「ああ、話は変わりますが、あなたはケーキと聞いたら、どんな形を想像しますか?」

アリス「私はつい、円柱形を思い浮かべてしまいますが、最近は四角なものも珍しくないようですね」

アリス「ふふふ。すいません。つい、話が脱線してしまいました」

アリス「では、今日のお話をしましょうか」

アリス「今日は先ほど話題に出て来た罪と不思議な箱の話です」

アリス「その男はとても真面目で、周りからも素直を絵に描いたような人とだと言われていました」

アリス「ですが、真面目で素直というのは、ときとして騙されやすいという側面も持つものです」

アリス「その男も騙されてしまい、多額の借金を負わされることとなったのです」

アリス「男はなんとかお金を取り戻そうとしましたが、叶いませんでした」

アリス「男は悟ります。正直はバカを見ると。そして、罪というものはバレなければなかったものになるのだと」

アリス「そんなとき、男はある占い師と出会います」

アリス「そして、その占い師から不思議な箱を譲ってもらったのです」

アリス「その箱というのは、『罪』を入れることができるという不思議な箱です」

アリス「……ふふ。何を言っているんだ、という顔ですね。ですが、あり得ないものを入れることができるから、不思議な箱なのです。そこは飲み込んでください」

アリス「ふふ。素直な方ですね」

アリス「その箱に、犯した罪に関連する物を入れて置くと、不思議なことにその罪が表に出ることは無いというものです」

アリス「信じられなかった彼は、様々な犯罪を犯し、箱の中に証拠品を入れました」

アリス「すると、どうでしょう。何一つとして、彼が犯した罪は表に出ることはありませんでした」

アリス「男は自分の欲望のまま罪を犯し、箱に証拠品を入れていきました。ですがすぐに箱がいっぱいになってしまったのです。元々大きな箱ではありませんでしたから」

アリス「そこで男は再び、占い師の元へ訪れます。また、あの箱が欲しいと。すると占い師は言いました。箱が欲しいと願えば、寿命の1年と引き換えに箱が増えていく、と」

アリス「男は帰って試してみると、思った通りに箱が増えました」

アリス「男は箱が増えたことに安心し、そのことで歯止めが利かなくなったかのように罪を犯し続けました」

アリス「そんなある日のことです。罪を犯した男は関連する物を持って、家に帰ります。そして、箱に入れようとするのですが、全ての箱がいっぱいだと気づきます」

アリス「そこで、男はさらに箱を増やしたいと願います。ですが、新しく出たはずの箱が見つかりません」

アリス「男は焦って、さらに何度か箱が増えるように願いました。ですが、ですが、どこを見ても新しい箱が見当たりません」

アリス「そんな中、男が犯した罪が表に出てしまいました。箱に入れれば表に出ないということは、入れなければ見つかってしまうということです」

アリス「警察はすぐに男の元へ辿り着きます。男は慌てました。ですが、あることに気づきます」

アリス「そうです。箱が増えないのは、自分の寿命が切れたからだと思いついたのです。もう一年も残っていない。だから箱が増えないのだと」

アリス「そう考えると男は気が楽になりました。どうせ捕まったとしても、一年以内に死ぬ。長く苦しむこともないなら平気だ、と」

アリス「男は捕まり、裁判に掛けられます。また、家を調べられた際に、箱を開けられてしまったことで、これまでの罪も見つかってしまったのです」

アリス「男は死刑となりました。そこで思ったのです。なるほど、死刑で死ぬから一年のうちに執行されるのだと」

アリス「男は死の恐怖を感じながら過ごしていきます。唯一の希望は一年のうちに執行され、この恐怖からも逃れられるというものでした」

アリス「ですが、刑は一年経っても、二年経っても、五年経っても執行されることはありませんでした」

アリス「男は死の恐怖に押しつぶされ、気が狂いそうになりながらも、今も恐怖の中、生きているそうです」

アリス「……なぜ、男が一年経っても死ななかった、ですか?」

アリス「はい。男が考えていた、残りの寿命が一年を切っているから箱が増えなかったというのは間違っていました」

アリス「では、増やす最大の量を超えてしまって増えなかった……というわけでもありません」

アリス「実は増えていたのです」

アリス「増えていたのですが、男には認識できなかったのです」

アリス「なぜか? それは、箱が丸型だったからです」

アリス「ええ。そうです。四角ではなく丸い『箱』だったのです」

アリス「最初の箱が四角であったことと、箱は四角いという思い込みで、丸い箱を見つけることができなかったわけです」

アリス「ふふ。今日も、思い込みの話になってしまいましたね」

アリス「ですが、今日の話はもう一つ、教訓があります」

アリス「それは……」

アリス「例え罪を隠してバレなかったとしても、犯した罪は消えることは無い、ということです」

アリス「罪が罰せられることがなくても、罪は残るものです」

アリス「ゆめゆめお忘れなく」

アリス「ふふ。それでは、今日のお話はこれで終わりです」

アリス「またのお越しをお待ちしております」

終わり。

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