鍵谷シナリオブログ

【声劇台本】遅れて来た英雄

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、戦国時代ファンタジー、シリアス

■キャスト
龍信(たつのぶ)
延吉(のぶよし)
その他

■台本

龍信が6歳の頃。

木刀で素振りをしている。

龍信「えい! やあ、それ!」

父親「うむ、いいぞ。龍信!」

龍信「はあ! そりゃ! えい!」

延吉「親方様。龍信様は剣の才能がおありですね」

父親「ああ。戦でも先陣をきって駆け抜けていくだろうな。今から鍛えていけば、武で名を轟かせるだろう」

場面転換。

ポンと駒を紙の上に置く音。

龍信「この山に弓兵、200」

延吉「ふむ。では、この森の前に騎兵を300……」

龍信「ここの道に、歩兵100」

延吉「え?」

父親「はっはっはっは。延吉、お前の負けだな」

延吉「そのよう……ですね」

父親「龍信。兵法もよく学んでいるようだな」

龍信「はい!」

父親「龍信。お前は稀代の名武将になるはずだ。楽しみにしているぞ」

龍信「はい、父上!」

場面転換。

遠くで、戦乱の怒号や刀が斬り結ぶ音が響いている。

龍信「父上! 父上―!」

父親「延吉、龍信を頼んだぞ」

延吉「はっ! 命に代えましても」

龍信「いやだ! 私も一緒に戦います!」

父親「ダメだ! この城……いや、この国はもう終わりだ。お前はなんとか落ち延びのだ」

龍信「し、しかし……」

父親「お前は必ず名を轟かせるほどの武将になるはずだ。……あの世で、見ているぞ」

龍信「父上! 父上―!」

延吉「……龍信様。行きましょう!」

場面転換。

ガコンと薪割りをしている龍信。

年は18歳になっている。

龍信「ふう……」

延吉「あっ! 龍信様! 雑用は私がやるといつも……」

龍信「薪割りも鍛錬のうちだ。……それより、どうだ?」

延吉「ダメですね。佐生(さおう)家が国を統一してからは各地の反乱の目は潰されています」

龍信「ないなら、作るしかないか……」

延吉「い、いけません! 確かに、佐生家に不満を持つ者は少なくありません。ですが、今が国として一番盤石の状態です。今は耐えてください。必ず……必ず慢心によるほころびが出るはずです。そのときまで……」龍信「そんなのは何十年も先の話だ……。いや、下手をすると百年後かもしれん」

延吉「……」

龍信「延吉。父上はおっしゃった。私の名が世の中に轟くと」

延吉「龍信様。今は太平の世です。戦乱の時代とは違うのです」

龍信「……私は」

場面転換。

龍信「皆の者、聞いてくれ。佐生家は今、慢心している! 叩くなら今だ! 大丈夫! 必ず勝てる! どうか、私を信じて着いて来てくれ!」

おおー!という大勢の声。

龍信「よし……」

延吉「……龍信様。いよいよですね」

龍信「お前まで巻き込んでしまって、すまなかった。何なら、今からでも逃げてくれていい」

延吉「そんなことをしたら、お館様に顔向けできません。最後までつき合わせていただきます。……龍信様の名が、世の中に響き渡るのを」

龍信「ああ……」

場面転換。

戦場の音。

龍信「今だ! 山に待機させている弓兵で騎兵を撃て!」

延吉「龍信様! 谷の兵をせん滅させました」

龍信「そうか……」

延吉「このままの勢いで城に攻め込みますか?」

龍信「いや、局地戦で勝っていても、まだまだ戦力的には不利だ。もう少し、あちらの戦力を削りたい」

延吉「……ですが」

龍信「なんだ?」

延吉「いえ……」

男が走って来る。

男「龍信の旦那! 平野に待機していた奴らが逃げ出しやがった!」

龍信「なんだと? どうして……?」

延吉「……彼らは武士ではなく、農民ですからね。戦いの前に恐怖にかられてもおかしくありません」

龍信「……なるほど」

延吉「……」

龍信「戦力を一点に集めてくれ。勝った勢いでそのまま城へ攻め込む」

延吉「……はっ」

場面転換。

敵将「……そなたが龍信か。若いな」

龍信「……」

敵将「あれだけの兵力で、よくここまで攻め登ったな。敵ながら天晴だ」

龍信「……」

敵将「世が世なら、後世にも名を遺す武将……英雄になっただろうに。惜しいな」

龍信「……」

敵将「悪いが、貴様は反乱分子の目を潰す見せしめになってもらう」

龍信「……」

敵将「せめての情けだ。貴様の活躍は伝えておいてやる」

龍信「……」

龍信(N)「……申し訳ありません、父上。私の名は世に、悪名として轟くようです」

終わり。

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