【声劇台本】解けない暗号

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
田代 清志郎(たしろ きよしろう)
茂木(もぎ)
真壁(まかべ)
佐藤(さとう)

■台本

清志郎「田代清志郎です。よろしくお願いします」

真壁「我が、暗号解析サークルにようこそ。私がサークルを取り仕切ってる真壁だ」

佐藤「まあ、サークルっていう名の飲み会だけどね」

茂木「おい、佐藤。誘った初日からそんなことを言うなよ。誘った私の立つ瀬がないだろう。大丈夫だぞ、田代。ちゃんと暗号解読もやるからな」

清志郎「はい。ところで部長」

茂木「あー、ここは会社じゃないんだ。部長じゃなくて茂木で頼む」

清志郎「茂木さん……ですか。なんか言い辛いですね。ずっと部長と呼んできたので」

茂木「まあ、そのうち慣れるさ」

清志郎「それで、会費の件ですけど……」

茂木「ああ。今日は初日だから別にいい。次から払ってくれ」

佐藤「まあ、会費っていうか酒代だけどな」

茂木「さーとーう!」

真壁「いつもは乾杯から始めるんだが、今日は田代くんもいることだし、暗号解析からやろうか」

佐藤「そうだな。いつもは暗号解析に入る前に泥酔しちまうからな」

清志郎「……部長」

茂木「あー、大丈夫大丈夫。うちも暗号解析のサークルを名乗ってるんだ。ちゃんと暗号関連の資料とかあるぞ」

真壁「ここの戸棚に入ってる本は自由に読んでくれて構わない。ただ、借りていく場合は一言言ってくれ」

清志郎「はい。……うわー。本当にたくさんありますね」

茂木「高校のときから集めてるからなぁ」

佐藤「けど、最近はなかなか新しいのが手に入んなくなってなー」

真壁「こういうのは、ブームがこないとなかなかな。精々、クロスワードとかが関の山だろ」

清志郎「すいません。ちょっと、ここの机借ります」

カリカリとノートに文字を書き始める清志郎。

真壁「おお……。暗号好きなのは確かみたいだな」

茂木「昔の俺らみたいだな。ああやって、一日中、暗号とにらめっこしたもんだ」

佐藤「あの頃は楽しかったよなー。好きなだけ暗号を解いていられた」

茂木「今はちょうどいいのがなくなったからな。答えがあるような暗号なら、すぐに解けちまうし」

真壁「残ってるものといえば、有名な、何十年も解けてない暗号くらいだもんな」

佐藤「さすがになー。ああいうのは、専門家でも無理なんだから、俺らじゃ無理だろ」

茂木「だな……」

清志郎「あの、部長。これの答えってどこにのってるんですか?」

茂木「ん? もう解いたのか?」

清志郎「はい。答え合わせしたくて」

茂木「どれどれ……」

佐藤「おー。これって、かなり難しいやつじゃね? こんな短期間で解いたのか? すげーな」

真壁「どうなんだ、茂木」

茂木「うん。正解だな」

清志郎「よし!」

佐藤「やるねえ、田代くん」

真壁「けど、逆に困ったなぁ。これをあっさり解いたとなると、うちにある暗号は大体、すぐ解けそうだな」

佐藤「ならさ、あれ……解かせてみたら?」

茂木「あれって……あれか?」

真壁「んー。あれか。どうだろうな」

清志郎「あの、あれっていうのは?」

茂木「ああ。実はうちらでも長年解けない暗号があってな」

佐藤「ま、言ってしまえば、その暗号を解くために作ったサークルだからな」

清志郎「そんなに難しいんですか?」

茂木「まあ、難しいといえば難しいんだがな……」

清志郎「……?」

真壁「いうなれば、複雑、だな。裏を読めってやつだ」

清志郎「裏を……」

佐藤「どうする? 解かせてみるか?」

茂木「いや……どうだろうな……」

真壁「……いいタイミングかもしれんな。うちらも、こんなむさ苦しいおっさん3人でサークルとかやってる場合じゃないっていう神の啓示かもしれん」

佐藤「大げさだな」

清志郎「あの……ぜひ、解いてみたいです」

茂木「ん。わかった」

茂木が戸棚から本を出す。

茂木「これだ」

清志郎「さっそく解いてみますね」

場面転換。

カリカリとノートに文字を書く清志郎。

清志郎「……うーん。確かに部長たちが解けないっていうのもわかるな。全然、とっかかりも見えないや」

茂木「おーい、田代。休憩して、こっちで飲まないか?」

清志郎「ありがとうございます。でも、もう少しやらせてください」

佐藤「おーおー。すごい集中力だな」

真壁「田代くん。もし、何かヒントが欲しかったら、最後のページを見てごらん。俺たちの所感が書いてある」

清志郎「あ、はい」

ペラペラとページをめくる。

清志郎「……なるほど。ただ、どれも正解には遠いな……。これだと参考には……え?」

ペラペラと勢いよくページをめくる清志郎。

清志郎「ちょっと待って。最後のページの所感を消していくと……。あ、もしかして」

ガリガリと文字を書いていく清志郎。

清志郎「……あ!」

茂木「どうした?」

清志郎「あ、いや、なんでもないです」

清志郎(N)「ヤバい。解けちゃったぞ。けど、どうする? 部長たちが長年取り組んできた暗号を、新参者の俺があっさりと解いちゃっていいものなんだろうか……?」

佐藤「あんまり根詰めるなよ」

清志郎(N)「でも、どうだろう? 部長たちは、もう解くことを諦めているような印象も受けるんだよな。確かにこれはひらめきが必須だ。このひらめきがないかぎり、何年たっても解けないだろう。なら、ここで俺が解いたと言った方がいいのかもしれない」

清志郎「あの、部長……」

茂木「ん? どうした?」

清志郎「あ……いえ、その……」

清志郎(N)「あれ? ちょっと待てよ。部長の暗号を解く力はかなり上だと思う。おそらく、佐藤さんや真壁さんも同じくらいのはずだ。……果たして、その3人が集まっているのに、本当に解けなかったのか?」

茂木「……田代?」

清志郎(N)「もし、諦めて解くのを止めたのではなく、解いたからこそ、解くのをやめたのだとしたら……?」

回想。

真壁「いうなれば、複雑、だな。裏を読めってやつだ」

佐藤「まあ、サークルっていう名の飲み会だけどね」

回想終わり。

清志郎(N)「あ、そうか! そういうことか!」

茂木「大丈夫か、田代」

清志郎「はい。大丈夫です。ただ、この暗号難しくて、全然解けませんでした」

茂木「……そう、か」

清志郎(N)「部長たちは既にこの暗号を解いている。だけど、解けていないフリをすることで、こうやってみんなで集まって飲む理由にしてるんだ」

清志郎「あの、部長。僕もそっちで飲んでいいですか?」

茂木「ああ。もちろんだ」

清志郎「ありがとうございます」

真壁「茂木……。いいやつ連れて来たな」

茂木「だろう?」

清志郎「それじゃ、いただきます」

お酒を飲む清志郎。

終わり。

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