■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
一(はじめ)
隆二(りゅうじ)
■台本
一「ふわぁー……」
起き上がる一。
ピッとテレビのスイッチを入れる。
テレビ番組の音。
タレント「新年あけまして、おめでとうございまーす!」
一「ああ……。そういや、お正月か。……今年は実家に帰ろうと思ってたんだけどな。すっかり忘れてた……」
タレント「今年、大殺界を迎える人は、画面に当てはまる人たちです。今年は非常に、注意が必要ですからね。うかつな行動は避けてください」
一「……マジかよ。俺、当てはまんじゃん。……けど、まあ、こういうのって、気分っていうからな。気にしなければどうってことねーもんだよ。気にしない、気にしない」
ピッと、チャンネルを変える音。
テレビからニュースの音が流れてくる。
ピロンと着信音がする。
一「お! メールだ。……ん? 幸福のメール? これを受け取った人は今年ツイてるって? ほら見ろ! やっぱ、俺、全然大殺界じゃねーじゃん」
アナウンサー「幸運のメールという内容のメールを送るという悪質な悪戯が……」
一「さーてと、腹減ったな。なんか食うか」
歩いて、冷蔵庫を開ける。
一「げっ! なんもねーじゃん。しゃーない。なんか食いに行くか……」
場面転換。
バタンとドアが開き、一が入って来る。
一「くそっ! 店、どこも開いてねーじゃん! コンビニもほとんど物残ってなかったし。あー、くそ、ツイてねー」
携帯の着信音。
一「ったく、誰だよ……って! おお!」
すぐに通話ボタンを押す一。
一「はい! あ、ひかりちゃん! どうしたの? ううん。いや、めちゃめちゃ暇! いや、ホント、暇でどうしようかって思ってたんだよ。え? うんうん! 行く行く! いつ? ん? 水曜? いいよ! 大丈夫! うん、うん、それじゃねー!」
通話を切るボタンを押す一。
一「いやったぁーー!」
そのとき、インターフォンが鳴る。
一「ん? はーい!」
ガチャリとドアが開く。
隆二「よお」
一「おお、隆二! どうしたんだ、正月早々」
隆二「いやぁ、めっちゃ暇でさ。周り、みんな実家返ってて、寮に誰もいねーの。俺も帰ればよかった」
一「あー、わかるわかる。でもな、隆二! 俺は帰らなくて正解だったぞー!」
隆二「なんだよ、急に変なテンションになって」
一「俺さ……。ひかりちゃんにデート誘われたんだー!」
隆二「……え? マジで? 夢とかじゃなく?」
一「マジもマジ! ほら! 着信履歴!」
隆二「あ、マジだ。くそー。ふざけんなよ」
一「はっはっは。悪いね、隆二くん。一足先に彼女ゲットだぜ」
隆二「まだうまくいくとは限らないだろ。あー、なんかイライラする。よし、格ゲーやろうぜ。お前をボコボコにして憂さ晴らししてやる」
一「へっへっへ。今なら、何回負けても気にならねーよ」
場面転換。
ゲームの音。
隆二「っしゃー!」
一「ふざけんなよ! 今のハメだろ!」
隆二「ちげーって」
一「あー、もうイライラする。格ゲーは止め止め。RPGやるわ、俺」
隆二「それだと、俺できねーじゃん」
一「見てればいーじゃん」
隆二「ったく。……あー、腹減った。なんか食うもんねーの?」
一がゲームのロムを入れ替え、スイッチを入れる。
一「あー、見事に冷蔵庫の食いもんなくなったんだよ」
隆二「なにやってんだよ。今、お正月だから、店も開いてねーんじゃねーの?」
一「いや、そうなんだよ。困ったもんだ」
隆二「……買いだめしておけよ。せめて、飲み物ねーの?」
一「あー、飲み物はあるはず」
隆二「どれどれ」
冷蔵庫を開ける隆二。
隆二「お、このジュース貰うぞー」
一「おうー」
隆二「……ん? おい、これ、消費期限、めっちゃ切れてるぞ」
ゲームの音楽。
一「んー? ああー。そうかー」
隆二「ったく。食いもんも飲みもんもねーのかよ……」
場面転換。
隆二「んじゃ、そろそろ、俺、帰るわ」
一「おう、気をつけてな」
隆二「ひかりちゃんとのデート、失敗しろよ」
一「タヒね!」
隆二「ははは。じゃあな」
パタンとドアが閉まる。
一「あー、すげー腹減ったな。飯がねーのが痛い。……しゃーない。飲み物飲んで、紛らわすか」
冷蔵庫を開けて、ペットボトルをラッパ飲みする一。
一「ぷはー。すきっ腹に染み渡るぜー」
場面転換。
一「う、うう……。な、なんだ? ぐ、うう……うわー!」
バタンとドアを開けて、トイレに駆け込む一。
一「お……おお……うおおおおおお!」
ジャーとトイレが流れる音が響く。
場面転換。
インターフォンが鳴る。
一「……」
ガチャリとドアを開ける一。
隆二「おう、久しぶり……って、おい、おい、お前、随分と痩せたな。どうしたんだ?」
一「隆二……。俺は死ぬかもしれん」
隆二「ど、どうしたんだよ?」
一「俺は今年、大殺界という呪いにかかってるんだ」
隆二「呪いじゃねーけどな」
一「ダメだ……俺は大殺界に殺される」
隆二「なにがあったんだよ?」
一「今年に入ってから、ホントにツイてないんだよ。食べ物無くて、腹は減るし、急に腹を壊して死にそうになるし……。なにより、ひかりちゃんのデートが……デートがぁ!」
隆二「なんだ? 失敗したのか?」
一「聞いてくれ! 約束は水曜だったんだ。だから、水曜日に待ち合わせ場所に行ったら、来なかったんだ」
隆二「……ドタキャンか?」
一「違う。ひかりちゃんが言うには、約束の日は過ぎてるって。当日は3時間以上待ったって」
隆二「どういうことだ? 日にちを間違えたのか?」
一「わかんねえ。俺には何がなんだか……」
隆二「けど、当日、それだけ待ってたなら、ひかりちゃんも、お前に電話しなかったのか?」
一「電話来てたけど、腹痛くて死んでた」
隆二「……ご愁傷様」
一「うう……まだ腹痛くて、病院行きたいけど、日曜だから開いてねーし。ホントツイてねー」
隆二「ん? 日曜? お前、何言ってんだ?」
一「え? だって、今日、日曜だろ。ほら」
ガサガサと携帯を取り出して見せる。
隆二「……あれ? なんで、お前のスマホ、今日、日曜になってんだ?」
一「……違うのか?」
隆二「ちょっと見せてくれ。……あ、これ、カレンダー、3年前のになってんぞ」
一「はあ? なんだよ、それ? なんで?」
隆二「……あ、お前。まさか、幸運のメールってやつ届かなかったか?」
一「届いた。で、開いた」
隆二「バッカ。お前、それ新手のウイルスが入ったやつだぞ。こうやってカレンダーを変えるっていう、地味な嫌がらせをするんだよ」
一「う……そ、そうなのか」
隆二「そんなの、うかつに開けるなよ」
一「……いや、ちょっと待て。じゃあ、これは大殺界の呪いじゃないってことか?」
隆二「まあ、そうだな」
一「よっしゃー! やっぱ、大殺界なんて気にすることなんかねー! あー、ビビッて損した」
隆二「いや、お前はもう少し注意深く生きた方がいいぞ。マジで」
終わり。