■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
真壁 渉(まかべ わたる)
その他
■台本
男1「子供が口を出すんじゃない。大人に任せておけばいいんだ」
場面転換。
男2「世の中は頭が良くて、偉い人が動かしているんだよ」
場面転換。
男3「君も大人になればわかるよ。お父さんのように立派な大人になりなさい」
渉(N)「僕にとって、大人というのは凄くて、頭が良くて、そして……正しい存在だった。大人になれば、僕もそうなるのだろう。そう思って、疑いもしなかった。だから僕は……早く大人になりたかった」
場面転換。
警察署内。
部長「おい、真壁、ちょっと」
渉「はい……」
部長「お前が先週あげた、詐欺師なんだが、不起訴になった」
渉「え……? いや、待ってください! 部長の言う通り、しっかりと証拠を集めました。本人も自白しています」
部長「あー、なんだ。あれだ。あいつ、上の方の遠い親戚にあたるみたいでな。まわりまわって、上の方に話がいったみたいだ」
渉「……だからなんです? 罪を犯して、自白もしてるんですよ?」
部長「まあ、そういうな。この前、警察内の失態をもみ消してもらったばかりだ。こういうのはもちつ、もたれつさ」
渉「……納得できません」
部長「子供じゃないんだ。そのあたりは察しろよ」
渉「……それが、大人の対応、という奴ですか?」
部長「真壁。お前はキャリア組だ。上に行きたいなら、そういう処世術は大事だぞ」
渉「……」
場面転換。
街を歩く渉。
渉「……ん? ちょっと、君。こんな時間にこんな場所で何してる?」
女「……」
渉「君、未成年か? とにかく、話を聞かせてもらうよ。ちょっと、着いて来て」
そこに男4が駆け寄って来る。
男4「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ! お兄さん、何やってるんすか」
渉「なんだ、あんたは? 今はこの子に話を聞いているんだ。邪魔しないでくれ」
男4「いやー、だから。俺がこの子の保護者ってことで」
渉「あんたが?」
男4「ええ。そうですよ」
渉「身分証見せて。……いや、あんたも一緒に来てくれ。署で話を聞く」
男4「いやいやいやいや。だーかーら、話は全部、通ってるの。あんたら含めて」
渉「俺達も含めて……? まさか、容認してる奴がいるのか? 誰だ? 名前を言え」
男4「あちゃー。あんたなんも話聞いてないの? もしかして、あんた、署内での嫌われ者?」
渉「……とにかく、署で話を聞く。ついて来い」
男4「へいへい。後でどうなっても知らないぞ」
場面転換。
部長「おい、真壁、ちょっと」
渉「はい……」
部長「お前、明日から、ここ勤務な」
紙を渡す部長。
渉「……辞令。……転勤しろってことですか? しかも明日なんて、そんな急に!?」
部長「俺に言われたって知らんよ。上が決めたことだからな」
渉「誰ですか? 直接、話を聞いてきます」
部長「真壁! ……辞令に従うか、辞めるか。どっちだ?」
渉「……」
場面転換。
海の波の音。
老人「あー、どうもどうも! こんな辺鄙な島にようこそ」
渉「真壁渉です。これから、お世話になります。よろしくお願いいたします」
老人「いやあ、お世話になるのは私たちの方ですよ。いやー、それにしても、こんなところにまで駐在さんを送ってくれるなんて、本当に、嬉しいですよ」
渉「……随分と急なお話で、無理を言ってしまいすみませんでした」
老人「いやいや。住む場所なんて、お安いごようですよ」
渉「すみません。ちゃんと家賃は払いますので」
老人「いやいやいや。いいんですよ。それより、急な引っ越しだったので、色々と物入りでしょう?」
渉「え? あ、いや、まあ……」
老人「どうぞ。これは島のみんなからです」
袋を渡される渉。
渉「え? これは……。そ、そんな! こんな……お金なんて受け取れません」
老人「いいんです、いいんです! これはその、あれです。島の一員としてお迎えするための祝い金だと思ってください」
渉「……」
老人「いやあ、この島にはですね。他にはあまりない、独特なルールというものがありましてね」
渉「……そのルールというものが法に触れていても、見逃せと?」
老人「代々、ここに来てくれた駐在所さんは、みーんな、島の一員として、楽しく暮らしてくれていましたよ」
渉「……お祝い金、ありがとうございます」
老人「ふふふふ。これから、よろしくお願いいたしますね」
渉(N)「僕にとって、大人というのは凄くて、頭が良くて、そして……正しい存在だった。大人になれば、僕もそうなるのだろう。そう思って、疑いもしなかった。だが、現実は違っていた。こんなのが大人だというのなら、僕は大人なんかにはなりたくなかった……」
終わり。