【声劇台本】秘密の言葉

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■概要
人数:3人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ルナ
その他

■台本

ルナ「……ねえ、お父さん。これ、なんて書いてあるの?」

父親「……ルナ。もう少し大人になったら、教えるよ」

ルナ「もう少し大人になったら?」

父親「これはね、言葉なんだ」

ルナ「言葉……? でも、全然わからないよ」

父親「この言葉は使っちゃダメなんだよ」

ルナ「使ったらダメ? どうして?」

父親「ルナ……。私たちの祖先はね、ずっと遠い場所に住んでいたんだ。でも、戦争が起きて……。それでこの地に連れてこられたんだよ」

ルナ「どうして?」

父親「労働力……つまり働かせるためだったんだよ。その当時は、すごく辛いことばかりさせられてたそうだ」

ルナ「そうなんだ……」

父親「でも、あるとき、人権……人として認めらることになったんだ」

ルナ「人として?」

父親「はは。ルナには難しかったかな。……でも、そのとき、人権を与える代わりに、文化が奪われたんだ。行事、料理、宗教……そして言葉だ」

ルナ「……」

父親「ここに書かれている言葉は、もう使っちゃダメってことなんだ」

ルナ「でも、お父さん。使っちゃダメなのに、どうしてお父さんは本を取ってあるの?」

父親「これはね、祖先の魂……誇りなんだ。戦争で負けたけど、私たちという民族がいたことを忘れていけないんだよ」

ルナ「……」

場面転換。

ルナの大人の声。

ルナ(N)「そのときは、お父さんが何を言っているのかはわからなかった。理解できたのは、お父さんが政府の人間に連れていかれてから10年くらい経った後のことだった」

階段を下りる音。

戸棚から本を取り出して、ページをめくる音。

ルナ(N)「お父さんが残してくれた書物のおかげで、今はこの本に書かれている言語は読めるようになっている」

ページをめくる音。

ルナ(N)「その本には言語だけではなく、民族の文化や歴史などが事細かく書かれていた。もちろん、戦争にいたる経緯や、戦争に負けて降伏するにいたるまで詳細に。……確かにこれを読めば、私たちの祖先……つまり私たちの民族は自然を愛し、人に優しく、つつましい民族だったことがわかる」

ページをめくる音。

ルナ「お父さんが、自分にその民族の血が流れていることを誇りに思うことも、理解はできる。正直、私も誇らしく思うくらいだ」

トントントンと子供が階段を下りてくる音。

子供「ねえ、お母さん。何してるの?」

ルナ「あら、降りて来ちゃダメって言ってるのに」

本をペラペラとめくる音。

子供「ねえ、お母さん。これ、なんて書いてあるの?」

ルナ「これはね、読めなくていいのよ」

子供「え?」

ルナ「読んじゃダメな本なの」

子供「読んじゃダメ……なの?」

ルナ「そうよ。読んじゃダメだから、燃やしちゃうの」

子供「ええー、燃やしちゃうの?」

ルナ「うん。運ぶの手伝ってくれる?」

子供「いいよー!」

ルナ(N)「お父さんはこの民族であることを誇りに思っていた。だから、この民族が存在したことを守りたかったんだ。だけど……そのせいでお父さんは命を落とした。私も大好きなお父さんを失った。私は子供にはそんな経験はさせたくない。私にとって、本当に大切なのは民族の血ではなく、家族の血なのだから」

終わり。

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