■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
一郎(いちろう)
佳祐(けいすけ)
■台本
ドアを引いて、開ける音。
物を運んでいる音。
佳祐「おーい、一郎、この段ボールは?」
一郎「ああ、そこの端に置いておいて」
佳祐「おう」
ドサと段ボールを置く音。
一郎「いやー。ようやく引っ越しも終わりだな。手伝ってくれてありがとな、佳祐」
佳祐「今日の晩飯は奢りな」
一郎「おいおい。俺もお前の引っ越し手伝ったじゃねーかよ」
佳祐「俺はこんなに物、多くなかったぞ」
一郎「……まあ、いいか。念願の一人暮らし記念ってことで、ここはパパ―っとやるか」
佳祐「そうだな。けど、なんか温かいものが食いてえ。昼なのに、この寒さかよ」
一郎「ビビるよな……。って、おい! 外見ろよ」
佳祐「げっ! 雪だ……」
一郎「寒いわけだ……」
佳祐「おい、見ろよ。窓のところ」
一郎「うわ……。なんか凍ってるな」
佳祐「家の中で凍るって……恐ろしい世界だな」
一郎「ああー!」
佳祐「どうした?」
一郎「バナナ忘れた」
佳祐「バナナ? 好きだったっけ?」
一郎「いや、本当に釘打てるか試してみたかったんだよ」
佳祐「くだらねー」
一郎「それにしても、本当に寒いな。暖房つけて、暖まってから行こうぜ」
佳祐「そうだな……。あ、インスタントコーヒーあるか? 熱いの飲みてえ」
一郎「ああ、そうだな。お湯も沸かそう」
場面転換。
コポコポとマグカップにお湯を注ぐ音。
一郎「よし、できた」
ズズズとコーヒーをすする音。
佳祐「んー、美味い」
一郎「冷えた体には効くよな」
佳祐「あっ! 一郎。お湯まだ残ってるか?」
一郎「残ってるけど」
佳祐「貸して。ドアに撒いて来る」
一郎「え? なんで?」
佳祐「窓も凍ってたんだぞ。ドアも凍って開かなくなったらどうするんだよ」
一郎「ああ、そうだな。頼む」
場面転換。
佳祐「いやー。すげえな。こっちの家の暖房は火力が違うな」
一郎「なんか熱くなって来た。上脱ごうかな」
佳祐「それよりさ、そろそろなんか食いに行かね?」
一郎「あ、そうだな」
場面転換。
ドアを押す一郎。
一郎「あれ?」
佳祐「どうした?」
ドアを何度も押す一郎。
一郎「開かねえ」
佳祐「え? マジで?」
ドアを押す音。
佳祐「マジだ。いくら押してもビクともしねえ」
一郎「どうして?」
佳祐「もしかしたら、凍ったんじゃねーか? もう一回、お湯を沸かそう」
場面転換。
ジャーっとお湯をかける音。
そして、ドアを押す音。
一郎「ダメだ! 開かない!」
佳祐「なんでだよ!」
何度もドアを押す音。
一郎「……ど、どうする?」
佳祐「閉じ込められたってことか?」
一郎「な、なんでだよ……」
そのとき、ピーっと音が響く。
佳祐「な、何の音だ?」
一郎「暖房だ。暖房が消えた音っぽいぞ」
佳祐「なんでだよ、早く付けろよ」
一郎「ああ……」
歩いて、ボタンを押す音。
一郎「あれ?」
佳祐「どうした?」
一郎「反応しねえ」
佳祐「なんでだよ? コンセントは? 刺さってるか?」
一郎「刺さってる」
佳祐「じゃあ、なんでつかねえんだよ」
一郎「知らねえよ」
佳祐「うう……。暖房が消えたら寒くなってきた」
一郎「とにかく、大家さんに連絡してみよう」
スマホで電話をする一郎。
一郎「……」
佳祐「……どうだ?」
一郎「ダメだ。もう営業終わってるっぽい」
佳祐「どうすんだよ?」
一郎「朝までやり過ごすしかない」
佳祐「……マジかよ」
場面転換。
佳祐「やべえ……寒すぎる」
一郎「見ろよほら、はー。……白い息が出る」
佳祐「家の中だよな? なんなんだよ?」
一郎「うう……。毛布なんかじゃ、全然、ダメだ……」
佳祐「……ね、眠くなって来た……」
一郎「ダメだ! 寝るな! 死ぬぞ!」
ペチペチと頬を叩く音。
佳祐「……母さんに、ごめんって……伝えておいて……くれ」
一郎「佳祐! 佳祐―!」
場面転換。
スズメが鳴く声。
一郎「……ん? あ、朝か……」
佳祐「ふあー! おはよう……って、うお! 寒っ! って、あれ? 俺、何してたんだっけ?」
一郎「閉じ込められてたんだよ」
佳祐「ああ、そうだったな」
一郎「……家の中じゃさすがに凍死はしなかったみたいだな」
佳祐「死ぬかと思ったけどな」
一郎「まあ、もう少しだけ待ってろ。もうすぐ助けが来る」
佳祐「連絡したのか?」
一郎「ああ。ドアが開かないって連絡したよ」
ピンポーンとインターフォンが鳴る。
一郎「来たぞ!」
ガチャリとドアが開く。
一郎「あっ!」
佳祐「あっ……!」
一郎「そっか。あのドア……」
佳祐「引くんだった……」
終わり。