■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
和彦(かずひこ)
その他
■台本
和彦(N)「世の中には悪いことが多い。僕はそれが許せない。だけど、僕には力がないから、どうしようもないこともある……。そんな僕を、僕は許せないのだ……」
子供1「あ、500円、落ちてた!」
子供2「いいなぁ! ねえ、僕にもなんか奢ってよー」
子供3「2リットルのジュース買って、みんなで飲まない?」
和彦「ダメだよ!」
子供1「え?」
和彦「お金を拾ったなら、交番に届けないと」
子供2「和彦は真面目だよな。500円だよ? 届けなくたっていいって」
和彦「金額の問題じゃないよ」
子供1「わかったよ。じゃあ、届けに行こうぜ」
子供たちが歩く音。
子供2「あれ? この辺って……」
子供3「どうした?」
子供2「ここって、異世界の通りじゃない?」
子供1「なに? 異世界の通りって」
子供2「この道を6時に通ると、異世界に行っちゃうんだって」
和彦「……」
子供3「それって、最近、この辺で危ない人が出るから、近づかないようにってことで、親たちが広めた噂なんじゃねーの?」
子供2「でも、ちょっと怖いな」
子供1「交番に届けるのは、明日にするか」
和彦「いいよ。僕だけで届けるから、みんなは帰ってていいよ」
子供2「……」
子供3「……」
子供1「じゃあ、お願いしようかな。はい、500円」
和彦「じゃあ、このまま交番に持ってくね」
子供1「頼んだぜ、和彦。じゃあ、また明日な」
子供2「バイバイ」
和彦「うん。また明日」
和彦が歩き出す。
場面転換。
トボトボと歩く和彦。
和彦「うわ、外、暗くなってる。早く帰らないと……」
走り出す和彦。
和彦「近道通ろうっと」
走る和彦。
男「う、うわああ!」
青年「ちっ! 静かにしろ!」
男「や、止めてくれ!」
和彦「え……? な、なに、今の声? こっちから聞こえてきたような……」
青年「諦めろ」
男「うっ!」
グサリとナイフが刺さる音。
青年「これでよし……」
和彦「あ、ああ……ひ、人を……」
青年「ちっ! 見られたか……」
和彦「け、警察……」
青年「悪いな。俺は捕まるわけにはいかないんだ。お前には消えてもらうぞ」
和彦「ひっ!」
青年「こんな時間に外を歩いているのが悪い」
和彦「う、うわあああ」
ドンと和彦が体当たりをする。
青年「うわっ!」
青年が倒れ、ナイフが地面に転がる。
和彦「ナ、ナイフ!」
和彦がナイフを掴む。
青年「くっ!」
和彦「う、うわあああああ!」
ドスとナイフが刺さる音。
青年「う、あ……ああ……」
和彦「あ……さ、刺しちゃった」
青年「お前……」
和彦「うわあああ!」
走り出す和彦。
場面転換。
和彦(N)「その日、僕は人を刺した」
ガチャリとドアが開く音。
母親「和彦、どうしたの? ご飯よ」
和彦「ごめんなさい、お母さん。食欲ない」
母親「……そう」
ドアが閉まる音。
和彦「人を刺しちゃった……。お母さんに……いや、警察に言わないと……。でも、掴まっちゃう。……なんで? あいつは人を刺してた。あいつは悪い奴だ。悪い奴をやっつけたのに、僕が捕まらないといけないの? そんなのおかしいよ!」
和彦(N)「それから、1週間が経ったけど、僕のところに警察が来ることはなかった。それどころか、人を刺したことが事件になっていなかった……」
和彦「……そうか。いいことをしたから、僕は捕まらなかったんだ。僕のしたことは正しい事だったんだ」
場面転換。
12年後。
署長「和彦。この件から手を引け」
和彦「署長! どうしてですか!? せっかく、ここまで捜査が進んでいるのに!」
署長「いいから、手を引け。上からの命令だ」
和彦「……」
場面転換。
ゆっくりと歩く和彦。
和彦「いつもそうだ。俺はただ、正しいことをしたいだけなのに。偉いやつの都合でもみ消される。……これじゃ、警察官になった意味がないじゃないか。なんでだよ! 俺は神に許された存在じゃないのか……。……あ、そうか。その手があったな」
場面転換。
中年の男「ちょ、ちょっと待て! いくらだ? いくら欲しい?」
和彦「欲しいのはお前の命だけだ」
グサリとナイフで刺す音。
中年の男「うぐ……あ……」
和彦「くくく。あはははは! そうだ! これだ! 法が裁けないなら、俺が裁けばいい! 俺が世の中を正していけばいいんだ」
和彦(N)「俺は警察の立場を利用して、自分の正義の裁きの証拠を消し続けた。今まで、一度も見つかっていない。やっぱり、これは俺が神に許された存在だからだ」
場面転換。
男「待て! 待ってくれ! あれは事故だったんだよ!」
和彦「お前の意見は聞いていない」
男「う、うわああ!」
和彦「ちっ! 静かにしろ!」
男「や、止めてくれ!」
和彦「諦めろ」
男「うっ!」
グサリとナイフが刺さる音。
和彦「これでよし……」
子供「あ、ああ……ひ、人を……」
和彦「ちっ! 見られたか……」
子供「け、警察……」
和彦「悪いな。俺は捕まるわけにはいかないんだ。お前には消えてもらうぞ」
子供「ひっ!」
和彦「こんな時間に外を歩いているのが悪い」
子供「う、うわあああ」
ドンと和彦が体当たりをする。
和彦「うわっ!」
青年が倒れ、ナイフが地面に転がる。
子供「ナ、ナイフ!」
子供がナイフを掴む。
和彦「くっ!」
子供「う、うわあああああ!」
ドスとナイフが刺さる音。
和彦「う、あ……ああ……」
子供「あ……さ、刺しちゃった」
和彦「お前……」
子供「うわあああ!」
子供が走り出す。
和彦(N)「どういうことだ? ……あれは、俺の……子供の……ころ……」
倒れる音。
和彦(N)「俺は……神に……許され……正義の……裁きを……」
こと切れる和彦。
終わり。