■概要
人数:6人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
猫田 朔(ねこた さく)
高山(たかやま)
その他
■台本
会社。
朔のキーボードを打つ音がピタリと止まる。
朔「はあ……。疲れた。んにゃー!(伸び)」
高山「……猫田くん」
朔「はにゃ? ……あっ! 部長、お疲れ様です」
高山「前々から思っていたんだが……仕事中に気を抜きすぎだ」
朔「え? あ、申し訳ありません」
高山「素が出てしまってるじゃないか。何事も慣れた時が一番危ないんだ。気を付けなさい。君だけの問題じゃないんだから」
朔「え、あ、その……はい、申し訳ありませんでした……」
場面転換。
朔「うにゃー! 納得いかなーい!」
同僚「珍しいわね、あんたが怒ってるなんて。なにかあったの?」
朔「それがさー。さっき、仕事に一息ついてたら、部長に注意されちゃった」
同僚「え? 部長に? うそ? ……部長って怒るんだ?」
朔「だよねー。私も今まで見たことなかったから、驚いちゃってさー」
同僚「あの部長が怒るってことは、あんた、相当ダラダラしてたんじゃないの?」
朔「いやいや! そんなことないって! ほんの10秒くらいだよ!? ちょっと伸びしただけなんだから!」
同僚「んー。他に部長の怒りを買った覚えはないの?」
朔「ないんだけど……。部長はずっと前から私のこと、見てたみたい」
同僚「ええ? あんた、今までどれだけサボってたのよ?」
朔「失礼にゃ! サボってなんかないよ! 真面目にやってたっつーの! だから納得できない―! ふにゃー!」
同僚「ほらほら、手で涙を擦らないの。メイク落ちちゃうわよ」
朔「ううー……」
高山「おーい、そろそろお昼休憩終わりだぞー」
同僚「はーい! 今、戻りまーす」
高山「……」
場面転換。
朔がマウスを操作する音。
朔「よし、終わり、と」
朔が立ち上がる。
朔「それじゃ、お先に失礼します」
同僚「お疲れー」
朔が歩いていると、高山がやってくる。
朔「ふん、ふん、ふーん。……あ、部長。お疲れ様です」
高山「……猫田くん。今日、何か予定はあるか?」
朔「え? いや、ないですけど……」
高山「ちょっと付き合ってくれないか?」
朔「は、はあ……」
場面転換。
ガラガラと店のドアを開き、高山と朔が入って来る。
店主「らっしゃい! お、ミケやん」
朔「……ミケやん?」
高山「大将、2匹なんだけど空いてる?」
店主「カウンター空いてるよ。……って、若い子なんて連れて。……これかい?」
高山「違うって。会社の部下。……って、あれ? 大将、この子、知らないの?」
店主「いや、初……だよ?」
高山「猫田くん、ここ初めてなのか?」
朔「え? あ、はい……。初めてです」
高山「ふーん。珍しいな。他に穴場でもあるのか?」
店主「まあまあ、立ち話もなんだから、座った座った」
高山「ああ、そうだな」
高山と朔が座る。
店主「にしても、同じ会社にいるなんて、凄い偶然だな」
高山「そうなんだよ。俺もびっくりしちゃってさ」
朔「……?」
店主「まずはマタタビでいいかい?」
高山「ああ。猫田くんも同じでいいよな?」
朔「……マタタビ? え? あ、はい……」
店主「こらこら、ミケやん。そういうのは、今はパワハラって奴になるんだぞ」
高山「ああ、そうだったな。いかんいかん。猫田くんは何がいい?」
朔「え? あ、その……じゃあ、ビールで」
店主・高山「ビール!?」
朔「え? あ、すいません……」
高山「おいおい。会社じゃないんだ。猫被らなくていいんだぞ」
店主「猫被らなくていいって……。あひゃひゃひゃひゃ! ミケやん、上手い!」
高山「あ、そうだ。ここじゃ、本名でいいぞ。猫田はなんて名前なんだ?」
朔「へ? あ、いえ……その……朔です。猫田朔」
高山「ええ? それ、本名だったのか!?」
朔「え、ええ……まあ」
店主「へー。随分と変わった名前を付けられたもんだねー」
朔「確かに珍しい名前ですけど……」
店主「こういうのも時代なのかねぇ」
高山「確かに、本名なんてこういう場所でしか使わないからな。効率的に考えると、最初からそれっぽい名前にしておくのがいいのかもしれないな」
朔「……?」
店主「はい、マタタビお待ち!」
高山「おお、これこれ。すーう(吸い込む音)。……ぷはー。最高! 猫田くんも吸うか?」
朔「いえ……結構です」
高山「おっとそうそう。今日、ここに誘ったのはだな!」
朔「あ、はい」
店主「来た来た。ミケやんのお説教タイム。ほどほどにしておきなよ」
高山「猫田くん、君は職場で、気を抜きすぎる! 習性が出てるじゃないか!」
朔「……習性?」
高山「耳の裏の掻き方、伸びの仕方、手の甲で顔を拭う仕草! こんなんじゃすぐにバレちまうぞ!」
朔「バレる?」
高山「なあ、大将、この子、なんだかわかるかい?」
店主「猫だろ。見りゃわかる」
朔「……猫田ですけど」
高山「ほらぁ! バレバレだろ。そんなんじゃ、人間にだって、すぐバレちまうぞ」
朔「……ん?」
そのとき、ガラガラとドアが開き、ポンとゴンが入って来る。
ポン「おーっす、大将、2匹だけど空いてる?」
大将「おお、ポンちゃんにゴンちゃん。久しぶりだなぁ。ここ、ここ。カウンター空いてるよ」
ポンとゴンが歩いて来る。
ポン「おや、ミケさん。久しぶり」
ゴン「御無沙汰してます」
高山「おお、ポンくんに、ゴンくん!」
ポン「ミケさんが、連れを連れてるなんて珍しいね」
高山「いや、ちょっと若いもんに、この世界で生き抜くための作法をね……」
ゴン「あまり真に受けないでくださいね。ミケさんが厳しいのは、仲間に傷ついてほしくないからなんだ」
高山「うんうん。そうなんだよ。ちょっと気を抜きすぎだから、注意してたんだよ。……あ、そうだ。ポンくん、ゴンくん。この子、なんだかわかるかい?」
ポン・ゴン「猫、でしょ?」
高山「ほら、な? 一発だよ、一発」
朔「は、はあ……」
ポン「大将、耳、出していい?」
店主「んなの、断らなくていいよ。出せ出せ、ここはそういう店なんだからよ」
ポン「じゃあ、お言葉に甘えて」
ゴン「では、私も」
ポポンという音がする。
朔「っ! み、耳……。獣の……」
店主「ほら、ミケやんも」
高山「おお、そうだな」
ポンという音がする。
朔「ね、猫耳……」
店主「ほら、お嬢ちゃんもさ」
朔「あ、あの……この店って……」
店主「んん? ミケやんから聞いてないの? この店は人間に化けてる動物がゆっくりできるための店だよ。ポンちゃんはタヌキで、ゴンちゃんはキツネだ。だから、嬢ちゃんも気にすることなく、本性だしちゃいなよ」
高山「そうだそうだ。こういうところで発散してだな。会社では隠しておくんだぞ。絶対に、人間に自分が化け猫だってバレないようにしないとダメだからな」
朔「(小声で)私……人間なんですけど」
終わり。