■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
真
真(大人)
父親 ※真(大人)と兼ね役
母親
■台本
真(N)「将来の夢はなんですか? 小学生の頃、よく聞かれた質問だ。でも、その頃の……小学生の僕は全くイメージができなかったか。あの頃は、大人になる日が来るなんて現実的ではなかったんだ。だから、そのときは、大人がなんでこんな質問をしてくるのか、わからなかった。……でも、今はわかる。父さんが贈ってくれた、あの言葉の意味も」
場面転換。
真が小学生の頃。
バリバリとお菓子を食べている音。
真「あ、お菓子、無くなっちゃった。まだ、残ってたかな?」
ガチャリとドアが開く。
父親「なんだ、真。昼間っからダラダラ過ごして。宿題やったのか?」
真「うるさいなぁ。父さんこそ、仕事は?」
父親「うっ! き、今日は休みなんだよ」
真「……早く次の仕事見つけないと、お母さんに家から追い出されるよ」
父親「……真。ちょっと、隣に座りなさい」
真「……なに?」
立ち上がって、父親の隣に座る。
父親「真は将来、何になりたいんだ?」
真「んー。別に」
父親「夢はないのか?」
真「将来のことなんてわからないよ。だって、ずーーーっと先の話でしょ」
父親「あのな、真。時間なんてものは、すぐに過ぎ去っていくんだ。真だって、あっという間に父さんの年になるんだぞ。このままダラダラ過ごしてたら、父さんみたくなるぞ。それでもいいのか?」
真「……父さんみたいにはなりたくないけど、大丈夫だよ。僕、いざとなったらやるんだから」
父親「はあ……。そういうところばっかり、俺に似たな……。いいか、真。母さんみたいな人は滅多にいないんだぞ。このままじゃ、父さんよりも、もっと惨めな未来になるに決まってる」
真「……僕は、母さんみたいな口うるさい人とは結婚なんかしないよ」
父親「いや、しない、じゃなくてできないんだよ。とにかく、今から頑張らないと、父さんよりも悲惨な未来になるぞ」
真「はいはい。中学生になったら本気出すよ」
父親「……」
場面転換。
真が歩いている。
真(大人)「よお、真」
真「……ん? 父さん? ……何してんの? こんなとこで?」
真(大人)「はは。父さん、か。親子だもんな。そっくりに見えるのは当たり前か」
真「……何言ってんの?」
真(大人)「いいか、真。俺は未来のお前だ」
真「……いやいや。意味わかんない。父さんでしょ?」
真(大人)「……帽子の下を見ても、父さんだと思うか?」
バッと帽子を取る。
真「……あっ! は、ハゲてる……」
真(大人)「父さんは剥げてたか?」
真「う、ううん……」
真(大人)「……未来のお前は剥げてるんだ」
真「そ、そんな……」
真(大人)「それより、真。お前、このままじゃ、ヤバいぞ」
真「ヤバい?」
真(大人)「お前の未来、つまり、今の俺は悲惨な状態だ」
真「……」
真(大人)「だけど、今から頑張れば間に合う! やるんだ!」
真「……中学生になったら本気だすよ」
真(大人)「そうだな。俺も小学生の頃はそう思ってたよ。だけどな、やらなかったんだよ。中学生になっても、高校生になっても。ずっと、本気を出さずにこんな年になっちまった」
真「……ね、ねえ、ホントにおじさんは、未来の僕なの?」
真(大人)「まあ、疑うのもわかる。じゃあ、予言しよう。今日、帰ったら、お前は父さんから1000円の小遣いを貰える」
真「ええー。ないない、ぜーったいない! 父さんが1000円持ってたら、自分で使うよ」
真(大人)「じゃあ、もし、1000円もらったら、その金で参考書を買え。いいな?」
真「……貰えたらね」
真(大人)「よし、約束だぞ」
場面転換。
ガチャっとドアが開く。
真「ただいまー」
父親「おお、真、おかえりー!」
真「どうしたの、父さん。随分、機嫌がいいね」
父親「いやあ、パチンコしたら勝っちゃってさー」
真「父さんがパチンコ? したことないじゃない」
父親「んー。なんか、急にやりたくなってな。ってことで、ほら、1000円」
真「え?」
父親「今まで、お小遣いやってなかっただろ? たまには、な」
真「……ほ、ホントだった」
場面転換。
カリカリと勉強をしている音。
真「うーん。わかんないなー。あー、もう、止めた!」
ドサッとベッドに寝転がる。
真「……でも、あんなのにはなりたくないしなー」
ガバッと起き上がり、再び勉強を始める。
場面転換。
父親・真・母親「カンパーイ!」
母親「パパ、正社員採用、おめでとう」
父親「あははは。最近、真も頑張ってるからな。俺も頑張らなきゃって、な」
真「僕も、もっともっと頑張るよ!」
場面転換。
真が歩いている。
真(大人)「よお、真」
真「あ、未来の僕!」
真(大人)「よくやったな。未来は良くなってきてるぞ」
真「ホント?」
真(大人)「ああ。この調子で頑張れ」
真「……」
真(大人)「どうした?」
真「……ホントはね、僕、もっと遊びたいんだ。ゲームもしたいし、友達の家にお泊り会もいっぱいしたいんだ」
真(大人)「そっか……」
真「もう勉強、止めたいんだ」
真(大人)「なあ、真。今回は頑張ってみないか?」
真「今回は?」
真(大人)「俺は今、未来からタイムマシンで過去に来てるんだ」
真「うん」
真(大人)「もし、お前が俺の年になって、それでも後悔するなら、お前が過去に戻って、小学生のお前に、もっと遊べって言うんだ」
真「……今回は頑張って、それでも嫌だったら、勉強を止めろって、僕に言えってこと?」
真(大人)「そうだ」
真「……うん。わかった。今回は頑張ってみる。だけど、嫌だったら、僕に勉強やめるように言うからね」
真(大人)「ああ、それでいい」
場面転換。
真(N)「あれから40年以上が経った今、未だにタイムマシンが完成したという話は聞かない」
場面転換。
真「父さん、荷物はこれで最後?」
父親「ああ。……それにしても、お前から家をプレゼントされるとは思わなかったな」
真「まあ、大企業の社長としては、少しくらいは親孝行しないとね。周りの目が痛いし」
母親「ホントに立派になったわね」
廊下を歩く音。
真「この段ボール、ここでいいの?」
父親「ああ。隅っこに置いていてくれ。あとで俺がしまう」
真「わかったー」
段ボールを置く真。
真「……随分と古い段ボールだな。中身はなんだろ?」
段ボールを開ける音。
真「……禿げのカツラ? 宴会芸にでも使ったのか……あっ!」
真(N)「将来の夢はなんですか? 子供の頃によく聞かれた質問だ。小学生の頃は将来なんて、ずーっと先のことだと思っていた。だけど、時間なんてすぐに過ぎ去っていく。確かに、あの頃は辛かった。もっと遊びたいと思っていた。だけど、今は、父さんい感謝している」
終わり。