【フリー台本】100パーセントのパフォーマンス

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■概要
人数:2人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
響兵(きょうへい)
梨花(りか)

■台本

響兵(N)「俺にとって音楽は命……いや、人生そのものだ。俺は音楽によって生かされているといってもいい。というより、音楽をやるために生まれてきたんだ。だから、俺は音楽に嘘は付きたくない。そして、俺の音楽を聞いてくれる人に、100%のものを届けたい。俺にとって、妥協の音楽は命を奪われると同じことなんだ」

場面転換。

ドアが開く音。

梨花「響兵、大人しく座ってる?」

響兵「おお、梨花。どうだ? 人の入りは?」

梨花「んー。半分くらい……かな」

響兵「ってことは、三分の一ってところか」

梨花「あー、えっと、うん。まあ、そうともいうかな」

響兵「あんま、気を遣うなって。たとえ一人しかいなくても、俺が届ける音は同じだ」

梨花「……これだけは言っておくけど。響兵の音楽は、今までどのバンドよりも最高だからね。これはライブハウスの店長じゃなくて、一、音楽ファンとしての意見」

響兵「梨花には感謝してるよ。路地裏で歌ってる俺を見つけてくれてなかったら、俺は今でもあそこにいたと思う」

梨花「……あんたの中の最高の音楽を届ければ、きっとみんながあんたのことに気づいてくれるはずよ」

響兵「わかってる」

梨花「いい? 舞台の上で100パーセントの力を出すのよ」

響兵「梨花、いつも言ってるだろ。俺はいつでも100パーセントだ。どこでも、誰もいなくても、俺が音楽を奏でるときは、常に100パーセントなんだ」

梨花「うん、その心意気は買うんだけどね。けど……。まあ、いいわ。私はこれから会場の最終チェックするから、あんたは座ってるのよ」

響兵「……なあ、梨花」

梨花「いいから! 黙って座ってなさい! いいわね!」

響兵「わ、わかったよ。大人しくしてるさ」

梨花「今度こそ、約束だからね」

ドアを開けて、部屋を出ていく梨花。

響兵「……」

少しの静寂。

響兵「俺にとって、音楽は人生だ。だけど、音楽から見たら、俺なんて大勢の中の一人……。最高の音楽をいつでも、必ず出せるわけじゃない」

少しの静寂。

響兵「やっぱり、俺は……」

ギターを手に取り、軽く弾く。

響兵「アスリートだって、試合前にウォームアップをする。それはアーティストでも一緒だ」

ギターを思い切り弾き始める。

響兵「そう! これはあくまで、ウォームアップだ、いえぃ!」

段々と激しくなっていく演奏。

響兵「いやああああーーーほぉう!」

場面転換。

ドアが開き、梨花が入って来る。

梨花「響兵、大人しく……」

響兵「ふぉおおおおおおおお!!」

響兵による激しい演奏。

梨花「ちょ! ちょっ! あんた、なにやってんのよ!」

響兵「心配ない! ウォームアップだ!」

梨花「いや、あんた、汗、尋常じゃないわよ」

響兵「俺は音楽に妥協しない男。それは、ウォームアップでも同じだ! いつでも100パーセント! ふぉーーー!」

梨花「それだと、ウォームアップにならないでしょ! とにかく、止めなさい!」

場面転換。

ライブ会場。

パラパラとした拍手。

ヘロヘロになった響兵の声。

響兵「みんな……今日は……来てくれて……ありがとう……。それじゃ、一曲目……いくぞー……」

ヘロヘロのギターの音色。

梨花「……はあ。また、いつもと同じか」

響兵(N)「俺にとって音楽は人生そのものだ。だけど、音楽から見たら、俺はそうでもないらしい。未だに音楽の神は俺に頬絵ではくれていない……」

終わり。