【フリー台本】不思議な館のアリス 善意

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「おや? 今日は随分と機嫌がよさそうですね。なにかいいことがあったのですか?」

アリス「……そうですか。電車で席を譲って、お礼を言われたんですね」

アリス「ふふ。そういう小さいことでも感謝されるというのは嬉しいですよね」

アリス「それにしても、そういう小さいことでも、人の為にできることをするというのはなかなかできないものです」

アリス「凄いと思いますよ」

アリス「ふふふ。まあ、確かに、そういう方が増えれば、今とはまた違う世の中になっていたでしょうね」

アリス「ただ、良い人というは諸刃の剣なのですよ」

アリス「何事もバランスが必要ということです。良いことでも、極端すぎるとそれは必ずしも良い、というわけではなくなるというわけです」

アリス「あなたは残酷な人というと、どんな人を思い浮かべますか?」

アリス「独裁者? 悪人? サイコパス? 色々と思い浮かべると思いますが、子供が残酷というのは思いついたでしょうか?」アリス「子供というのは純粋です。純粋だからこそ、残酷になれるのです」

アリス「子供の頃、様々な遊びをしたことがあると思いますが、周りに昆虫を使って遊んでいるのを見かけたことはありませんか?」

アリス「もしくは、あなた自身、昆虫を使って遊んだこともあるかもしれません」

アリス「ただ、そのときは、昆虫に対して可哀そうなどという感情は無かったと思います」

アリス「とても、残酷なことを……そして、それを面白いから、どうなるか知りたいという興味からやってしまう。残酷という感情が形成される前だからこそ、笑って、虫の命を奪うことができるのです」

アリス「この話は純粋ということで起こる話ですが、良いこと、に対しても起こりえる話なのです」

アリス「……これはある、辺境の街の神父のお話です」

アリス「その神父はとても、厳格でしたが、正義感が強く、純粋で弱いものに対しては支援を惜しまなかったそうです」

アリス「そのため、神父は街の中で、住民に慕われ、頼りにされていました」

アリス「いつしか、神父は住民たちからの推薦により、町長になったそうです」

アリス「町長になった神父が力を入れたのは法の整備です」

アリス「正義感の強かった神父は、法の穴を潜り抜けて不正をしていた者たちを厳罰に処すために、法の抜け穴を塞ぎ、法を犯した者に対しての罰も厳しいものにしました」

アリス「それでも、一般の人たちからの人気は下がることはなく、逆に人気が高まったそうです」

アリス「ですが、世の中の悪人というものは、どうやっても法だけで縛ることはできません」

アリス「どんなに完璧だと思われる法だったとしても、必ず抜け道を見つけ出したり、そもそも、バレないように工作するようになったりしました」

アリス「神父は悩んだそうです」

アリス「法の下で裁くことができない者たちを野放しにしていることに、罪悪感さえ覚えるようになりました」

アリス「そして、神父は決意します。法で裁けないのであれば、自分が裁くべきだと」

アリス「神父は様々な権力や私財を使い、法で裁けないものを、裏で裁いていきました」

アリス「その甲斐があってか、その街では犯罪はおろか、どんな小さな悪ささえする者がいなくなったそうです」

アリス「その街には、悪人はいなくなりました。……裏で、人々を葬り去った神父以外は」

アリス「その街の長い歴史で、数多く人の命を奪った極悪人がいたそうですが、その神父が奪った命は、その10倍以上だったそうです」

アリス「どうですか?」

アリス「あなたはこの話を聞いて、どう思ったでしょうか?」

アリス「良い人が一番の悪人になってしまったという話です」

アリス「例え、そこに悪意がなかったとしても、犯した罪は罪だと思います」

アリス「……え? その神父はその後、どなったか、ですか?」

アリス「それはあなたの御想像にお任せします」

アリス「今回のお話はこれで終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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