■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
キース
姫
女の子
男(6人)
■台本
キース(N)「俺は小さい頃から神童と呼ばれ、もてはやされてきた」
男1「キースは凄いな。まだ10歳だというのに、剣の腕前は街で一番だ」
男2「まさか、戦術の才能まであるとは。キースは将来、有名な軍師になれそうだな」
キース(N)「……そう。俺は昔から、なんでも人よりも上手くできた。逆に他の人がなんで出来ないのかが、不思議なほどだった」
男3「天才にはかなわないな」
男4「さすがキースだ。お前と戦えただけで光栄だよ」
キース(N)「天才も大人になれば、タダの人。そういう言葉があるが、俺には当てはまらなかった。年が16になった頃、俺は史上最年少で、王女の近衛兵にまで上りつめた。まさに順風満帆だった」
ニーナ「ねえ、キース。喉が渇いたわ。お茶を持ってきてくれない?」
キース「姫。私は近衛兵で、付き人ではありません」
ニーナ「なによ、冷たいわね。まあいいわ。誰からにお茶を用意させるから、一緒に飲みましょ」
キース「……姫。私は姫のお友達ではなく、近衛兵です」
ニーナ「えー。近衛兵っていっても、ずーっと立ってるだけじゃない。少しは私とお話でもして、私を楽しませなさい、給料ドロボーさん」
キース「……泥棒ではなく、近衛兵です」
ニーナ「もう、固いわね。せっかく、年が近いんだからさ。少しくらいおしゃべりしてくれてもいいでしょ」
キース「……はあ。1時間だけですよ」
ニーナ「わーい! さすがキース。大好きだよ」
キース「……」
キース(N)「しばらくの間は、そんな平穏無事な生活が続いていたが、隣国が侵攻して来てからは、状況が一変した」
ニーナ「どうして? キースは私の近衛兵なんでしょ?」
キース「今は国の有事です。これ以上の敵の進行を防ぐためにも、私が指揮をとらなくてはなりません」
ニーナ「……」
キース「大丈夫です。こんな戦争、すぐに終わらせて、すぐに戻ってきますから」
ニーナ「……ホント?」
キース「ええ。約束です」
キース(N)「初めての戦場。正直に言うと、挫折を覚悟していた。……いや、期待していた。何をやっても上手くいく。それは平和な世界だからこそ、であって、本物の戦場では思った通りにはいかない。……そう思っていたのだが……」
男5「さすがキース隊長。あんたのおかげで、連戦連勝だ。このままいけば、侵攻を止めるだけじゃなく、逆にあっちの国に攻め込めるんじゃないのか?」
キース「……さあな。興味ない。俺は王の命令に従うまでだ」
キース(N)「勝ち続ける戦に飽き始めた頃、王は俺に、隣国への侵攻を命令してきた。命令があれば、従うだけ。どうせ、すぐに終わる。姫の元に戻るのが半年遅くなるだけだ」
男5「おい、キース隊長。本当に、この作戦でいくのか?」
キース「不服か?」
男5「……別にそこまで焦らなくていいだろ。この作戦だと、確かに早く終わらせることができるが、多くの兵を国に入れちまうことになるぞ」
キース「いつも俺達に戦いを任せて、国でふんぞり返っている騎士団に、たまには仕事をさせてやらないとな。腕も錆びつくだろ」
男5「まあ、キース隊長がそういうなら、従うまでだけどよ……」
キース「よし、行くぞ」
キース(N)「結論を言うと、俺の立てた作戦は成功した。しかし、予想外のことが起こった。俺が思った以上に、王国の騎士団は脆弱で、脆かった。敵の小隊は王国の城にまで攻め登り、城に大きな被害を出した」
キース「……」
侍女「……姫は、最後までキース様の名をおっしゃっていました。すぐに助けに来てくれると」
キース「……」
キース(N)「敵が城に攻め登った際に、姫が犠牲となった。……騎士団の団長は責任をとらされて処刑され、俺がその後釜に任命されたが、断った」
ノックの音の後、扉が開く音。
兵士1「失礼します、キース様。王から手紙をお預かりしてます」
キース「城に戻る気はない。何度もこんな山奥に来ないでくれ。俺のことはもう放っておいてくれ」
兵士1「今、王国は隣国との戦争により、存続が危ぶまれております。どうか、そのお力をお貸しください」
キース「無理だ。帰ってくれ。俺はもう、戦なんてできない」
キース(N)「姫の亡きあと、俺は逃げるように城から出て、山奥で隠居生活に入った。それから40年が経ち、王国は滅び、それからも様々な国から、仕えてほしいと打診があったが、全てを断った。……いや、断るしかなかった。また失敗することを考えると足が震えた。俺にはもう、新しい一歩を踏む勇気も気力もなくなっていた」
場面転換。
女の子「キースおじいちゃん、こんにちは」
キース「おお、来たか。座りなさい。今日も授業を始めるぞ」
キース(N)「いつの頃からか、俺の元に読み書きを教わりに子供たちが来るようになった。残りの人生、これくらいしかやれることはない。……そう思っていた」
勢いよくドアが開く。
女の子「キースおじいちゃん! 村が! 村が山賊に襲われてるの!」
キース「なんだって!?」
女の子「キースおじいちゃん、助けて!」
キース「……な、なにを言ってるんだ。私がどうにかできるわけがない」
女の子「お父さんに聞いたよ! キースおじいちゃん、昔、すごい人だったって」
キース「……それはもう40年以上も昔のことだ」
女の子「お願い! 助けて! お父さんが!」
キース「む、無理だ……できるわけがない」
女の子「お願い! お願い!」
キース「……無理だよ。今更、戦いなんて……。もし、また失敗したら、私は……」
女の子「うわーん! お父さーん!」
キース「……」
場面転換。
山賊の声と、逃げ惑う人々の声が響く。
山賊「金目のものと、食料だ! 根こそぎ持って行けよ!」
キース「うおおおおお!」
山賊「なんだ、このジジイは?」
キース「はああ!」
山賊「なっ!」
キースが山賊を切り伏せる。
キース「……やれた。……と、そんなばあいではないな。おい! 男たちは俺のところに集まれ! 態勢を整える!」
キース(N)「40年ぶりの戦。ひょしぬけするほど、簡単に勝利することができた」
女の子「キースおじいちゃん、すごい!」
キース「……」
女の子「ねえ、キースおじいちゃん。どうしてこんなに凄いのに、ずっと山奥に閉じこもってたの?」
キース「ずっと怖かったんだ。失敗することがね」
女の子「怖い? キースおじいちゃん、こんなに強いのに?」
キース「俺は強くなんてないんだ。強いって言うのは、何度も失敗して、それでもすぐに立ち上がって一歩を踏み出せる人のことを言うんだ」
女の子「……失敗してもいいの?」
キース「ああ。失敗した後の一歩は、重くて怖いものだと思っていた。だが、踏み出してみると軽い物なんだな」
女の子「ふーん」
キース「そんなことに気づくのに、40年もかかってしまったよ……」
終わり。