【フリー台本】不思議な館の亜梨珠 環境の違い

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「……あら、今日は随分とラフな格好をしているのね。仕事ではないのかしら?」

亜梨珠「……そう。今日は休暇を取っていて、その帰りというわけだったのね。それしにも、休暇なのに仕事をするなんて、随分と熱心なのね」

亜梨珠「……ふふっ。今日、休暇だったの忘れてただなんて、あなたらしいわね。それなら、予定をキャンセルしてもよかったのに」

亜梨珠「え? 悪いと思った? ふふ、そういうところも、あなたらしいわね」

亜梨珠「それじゃ、休暇中に来てくれたあなたのためにも、良い話を聞かせてあげるわ」

亜梨珠「……と言っても、ほとんどのお話をしてしまったから、特にこれといった話があるわけではないのだけれど」

亜梨珠「……そうね」

亜梨珠「あ、そうだ。あなたは、オオカミに育てられた少女の話を知っているかしら?」

亜梨珠「オオカミに育てられたということで、言葉はもちろん、人間らしい生活をしていなかったという話ね」

亜梨珠「これは、当然の話だと思うわ。日々の過ごし方によって、人の生活は変わってくるわ」

亜梨珠「……昔で言えば、貴族の子供と奴隷の子供では生活は全然違っていたはずよ」

亜梨珠「……あとは、都会に住んでいる場合と、田舎に住んでいる場合でも、生活は違っていることもあるんじゃないかしら」

亜梨珠「そんなことを揶揄する言葉で、お里が知れるなんて、ものがあるのを知っているかしら?」

亜梨珠「でも、この、お里が知れるという言葉は、言う人間の価値観によるものなのよね」

亜梨珠「つまり、都会に住んでいる人が揶揄できるのは、都会での話になるってことよ」

亜梨珠「都会に住んでいるから、その成果にまだ馴染めていない人に対して、お里が知れる、なんて上から目線で言えるの」

亜梨珠「これが逆に、都会に住んでいる人が田舎で生活すれば、生活が合わなくて、他の人たちから異端のように見られてしまうわ」

亜梨珠「何が言いたいかというと、人はその環境に適した生活をしているのだから、お里が知れる、なんてことは意味がない言葉なんじゃないかって、私は思うのよ」

亜梨珠「ふふ。前置きが長くなってしまったけれど、今日は、その生活の違いによる話をするわね」

亜梨珠「これはとある学校の話よ」

亜梨珠「そのクラスには、富豪の子供と、極貧な生活をしている子供がいたの」

亜梨珠「お金持ちの子供は、他の子供たちに色々と奢ったり、ゲームを貸したりして、クラスでも人気者だったわ」

亜梨珠「だけど、反対に貧乏な生活をしている子供は、学校が終わった後に遊びに誘ってもいつも断ったり、ゲームなんかも持っていないから、他の子供たちと話が合わないということもあって、クラスでは孤立している状態だったの」

亜梨珠「そんな貧乏な生活をしている子供に、お金持ちの子供は、なにかとバカにするような発言をいていたようね」

亜梨珠「まるで、口癖のようにお里が知れるとバカにしていたみたい」

亜梨珠「そんなあるとき、その学校の修学旅行が海外に決まって、クラスの子供たちは喜んでいたようね」

亜梨珠「本当はその貧乏な生活をしている子供は修学旅行に行かないと考えていたようだけれど、その子の親が周りに頭を下げてお金を工面したり、周りの人たちもその子が修学旅行に行けるように、寄付したりして、参加できるようになったわ」

亜梨珠「そして、修学旅行の当日。飛行機に乗って海外へと旅立ったわ」

亜梨珠「ところが、その飛行機は墜落し、ある場所に不時着したの」

亜梨珠「そこは誰一人住んでいない無人島」

亜梨珠「最初の頃は、すぐに救助が来ると思い、子供たちや先生は楽観的に過ごしていたの」

亜梨珠「お金持ちの子供は多くのおやつを持ち込んでいたようで、それを他の子供に配っていたようね」

亜梨珠「もちろん、貧乏な子供には渡さなかったのだけれど」

亜梨珠「でも、そんな生活が3日経ち……一週間が経つと、みんなは徐々に不安に駆られていったの」

亜梨珠「お金持ちの子供も、食べものを渡すことをしなくなり、自分だけで食べていたわ」

亜梨珠「非常食もなくなり、みんなが絶望している中、元気な人間が一人だけいたの」

亜梨珠「そう。貧乏な生活をしていた子供よ」

亜梨珠「その子は、普段から食費を浮かせようと山に山菜を取りに行ったり、魚を釣りに行ったり、山でキャンプをしたりしていたみたい」

亜梨珠「だから、この環境はその子に結構、合っていたみたいなの」

亜梨珠「その子だけが、残っている食料で食いつなぐのではなく、新たに食べ物を採ってこられる存在だったのよ」

亜梨珠「この先は言わなくても想像つくわよね?」

亜梨珠「周りの子供たちは、手のひらを返して、その貧乏な生活をしていた子供をもてはやしたの」

亜梨珠「今まで、ずっとクラスでは孤立していて、意地悪をされていたのに、今度は誰もがその子をもてはやしたわ」

亜梨珠「そんな状態でも、その子は慢心することなく、全員に対して平等に接したの」

亜梨珠「もちろん、あのお金持ちの子供にも、ね」

亜梨珠「そのお金持ちの子供は、なんとか貧乏な子供に取り入ろうとご機嫌をうかがっていたの」

亜梨珠「だけれど、その態度が、周りの子供たちには気にくわなかったのでしょうね」

亜梨珠「周りの子供たちは、そのお金持ちの子供をイジメ始めたわ」

亜梨珠「お金持ちの子供は、今まで、お金の力でなんでも快適に過ごしていたから、基本的な運動能力も他の人から見たら、劣っていたということもあったのが大きいわいね」

亜梨珠「そして、そのお金持ちの子供がミスをするたびに、こう言われたの」

亜梨珠「金持ちは、金がないとなんにもできないな。金持ちに生まれたから、そんなんだよ、ってね」

亜梨珠「これはお里が知れると言われているようなものね」

亜梨珠「……どうかしら?」

亜梨珠「このお話は住む環境によって、人というのは生活が違うものであって、例え、自分と生活が違ったとしても、バカにできるものではないというお話ね」

亜梨珠「……そして、もう一つ」

亜梨珠「環境によって、人はいつでもすぐに掌を返すことができる……」

亜梨珠「人って怖いってお話」

亜梨珠「あまり、こういうことは起こらないとは思うけれど、あなたも注意した方がいいわよ」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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