■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
隆司(りゅうじ)
藍那(あいな)
医師
看護師
■台本
ピッピッピと心電図の音が響く。
隆司「……」
ガチャリとドアが開く。
医師「こんにちは、隆司君。調子はどうかね?」
隆司「今日は大分、気分が良いですよ」
医師「そうか。それはよかった。でも、油断してはいけないよ。君の場合は、体調が一気に急変するんだから」
隆司「はい。わかってます」
医師「それじゃ、さっそく、血液検査のため、少し血を貰うよ」
隆司「はい」
腕をまくって差し出す音。
隆司「そういえば、先生……。今日はその……」
医師「ん?」
隆司「いや、その……預かり物がないかなって」
医師「……ああ。ごめんごめん。今日も藍那君から、ボイスレターを預かっているよ」
隆司「先生、わざとやってません?」
医師「いやいや。身体というのはね、精神状態にも大きく影響を受けるんだ。だから、血液を採る際にも、なるべく、同じような状態で採りたいんだよ」
隆司「……別に、藍那からのボイスレターが来てるって知ったくらいで、体に影響なんてないですよ」
医師「本当にそうかな?」
隆司「……」
医師「それじゃ、採血するよ」
場面転換。
ピッと言うボタンを押す音。
藍那の声が流れてくる。
藍那「隆司君、おはよー。……これを聞くのはお昼くらいだから、こんにちは、かな? 体調の方はどう? 私は最近、すっごく、体調いいんだ。もしかしたら、面会できるかも。……まあ、隆司君の体調が良ければって感じなんだけどね。私さ、一回でいいから、隆司君と外を散歩してみたいな。窓から見る風景だけじゃなくて、外の世界を隆司君と一緒に歩いてみたい。毎日、ずーっと、そんなことばっかり考えてるよ。隆司君は毎日、何して過ごしてるのかな? あ、そうそうそういえば、この前ね……」
藍那の話が徐々にフェードアウトしていく。
場面転換。
隆司「こんにちは。……あ、いや、これを聞くのは夜だろうから、こんばんは、かな? 俺の方も調子はいいよ。歩けるくらい。面会のことは先生にも相談してみるよ。多分、直接は無理かもしれないけど、アクリル板越しなら、許可してくれるんじゃないかな。でも、二人とも、体調がよくなれば、きっと外の散歩も許して貰ると思うよ。……前にさ、藍那は数千万人に一人の確率でかかる、この病気にかかったことを、人生最大の不幸だーって言ってたよね? まあ、確かに俺も一時期は、そう思ってた。でもさ、今はこう思うよ。この病気のおかげで、藍那に出会うことができた。俺はこのことは、人生最大の幸せだって思ってる。だから、総合的に見たら、バランス取れてるかなって思うんだ。ああ、そうだ。この前、言ってた……」
隆司の話声が徐々にフェードアウトしていく。
場面転換。
藍那「隆司君、ありがとー! 先生に相談してくれたんだね。来月の検査の結果がよかったら、面談オッケーだって。やったね! 来月の面談に向けて、頑張らないと! ……って、私は何を頑張ればいいんだろ? ちゃんと寝てればいいのかな? って、それだと全然、頑張ってるように見えないよねー。とにかく、体調を崩さないように気を付けないとね。あ、そうだ。お花の差し入れありがと。直接は見たり、触ったりはできないけど、ケースに入れてもらったから、毎日見てるよ。……あとさ、もらったお花の花ことばを調べたんだけど……。あ、いや、なんでもない。今のは忘れて。そうそう、昨日さ……」
藍那の話し声が徐々にフェイアウトしていく。
場面転換。
隆司「あー、いや、その……。花ことばは、気にしないで。その……あんまり意識してなかった。……でも、まあ、その、花ことばごと受け取ってくれてもいいけど。……ごほん。あ、えっと、面会の件、俺も聞いたよ。俺も頑張って検査クリアする。……って、確かに、どう頑張ればいいのか、わからないよね。まあ、寝てるしかないのかな? 頑張って。あとは、瞑想とかしてみるのもいいかも。精神と体は繋がってるんだってさ。だから、精神力が高まれば、体もきっとよくなるよ。時間だけはいっぱいあるから、今日からめちゃめちゃ瞑想してみるよ。……こんなに瞑想してたら仙人になれそう……」
隆司の話し声が徐々にフェードアウトしていく。
場面転換。
藍那「あははは。仙人って! 仙人になったら、山に住めそうだよね。よし! 私も仙人目指して、瞑想しようっと。ねえ、仙人になったら、どこの山に住む? お勧めの山は……」
藍那の話声が徐々にフェードアウトしていく。
場面転換。
隆司「いやいや。目的変わってるから! 仙人になるのが目的じゃないでしょ! でも、仙人になったら住む山かぁ。考えたことなかったな。藍那はどんな山に住みたい? 俺は……」
隆司の話し声が徐々にフェードアウトしていく。
場面転換。
藍那「おはよう、隆司君。今日もいい天気だね。今日、ご飯に少しだけ、ハンバーグが出たんだ。すっごく美味しかったよ。隆司君の方はどんなご飯出たの?」
場面転換。
隆司「あれ? なんか、元気ないね。どうかした? 飯はこっちは、いつも通りだったよ。でも、面会を考えると、薄味の飯も我慢できるかな。そうそう、藍那の方は、検査はどう? 面会の日なんだけど、なにする? アクリル板越しだけど、一緒にゲームとかしてもいいらしいよ。藍那はゲームとかしたことある? 俺はさ……」
隆司の話し声が徐々にフェードアウトする。
場面転換。
藍那「おはよう、隆司君。今日は借りて来た本を読んだんだ。あんまり長い時間読めないから、童話とかなんだけどね。隆司君は本とか読む?」
場面転換。
隆司「……藍那、大丈夫? 話すのも辛いのかな? ……俺は本って言ったら、漫画くらいしか読まないよ。童話は子供の頃に読んだ以来かな。藍那は何の童話が好きなの? 俺は結構、花咲かじいさんとかが好きなんだよね……」
隆司の話声がフェードアウトしていく。
場面転換。
ピッピッピッピと心電図の音が弱弱しくなっている。
周りが騒がしく対応している。
隆司「はあ……はあ……はあ……」
看護師「先生、脈拍が弱まっています!」
医師「隆司君、しっかりしろ! 気持ちを強く持つんだ! 藍那くんと面会するんだろ?」
隆司「せ、せん……せい」
医師「なんだい?」
隆司「俺が……死んだら……」
医師「縁起でもない! しっかりするんだ」
隆司「今までの……ボイスから……藍那に……ボイスレターを……送り続けて……」
医師「ダメだ! しっかりしろ! 隆司君! 隆司君!」
隆司「……藍那。……ごめん」
ピーという心電図が止まる音。
医師「……」
看護師「最後。隆司君……藍那さんと同じこと、言ってましたね」
医師「……ああ。唯一の救いとしては、隆司君が最後まで気づかなかったことか」
看護師「あっちで、面会できますかね?」
医師「ああ。きっとな。きっと、二人で外を自由に散歩するさ」
終わり。