■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
大誠(たいせい)
真宮寺 琥太郎(しんぐうじ こたろう)
智治(ともはる)
杏(あん)
■台本
大誠(N)「長年の恨み。俺はずっと復讐の機会を伺っていた。……いや、復讐のために生きて来たと言ってもいい。ようやく……ようやく、チャンスが訪れた。そして、そのための準備もしてきたつもりだ。そう。今こそ復讐を遂げるべき」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
大誠「……やあ、智治君。久しぶり」
智治「なんだ、大誠か。お前は来ないと思ってたけどな」
智治「はは……。せっかくの演劇部の同窓会だもん。そりゃ来るよ」
智治「ふーん。けど、お前、ほとんど幽霊部員だったじゃん」
大誠「……」
杏「ねえ、智治―。なにしてんのよ。早くさきの話の続きしてよー」
智治「うお! 杏、お前飲みすぎだって!……じゃあ、大誠、お前も入れよ。居場所ねーかもしれねーけど」
大誠「前園さん、久しぶり」
杏「んー? 誰―?」
智治「あはははは。そりゃ、覚えてねーよな。杏と会ったのは2、3回じゃねえのか」
杏「こんな辛気臭い奴、演劇部にいたっけ?」
大誠「……」
智治「あれだよ、ほら、小春の彼氏」
杏「小春? ……ああ、あのドブスかー」
大誠「っ!」
智治「おいおい、死んだ奴の悪口は言うもんじゃねーぞ。まあ、ドブスなのは合ってるけど。げはははは」
大誠「……」
車が止まる音。そして、ドアが開く。
琥太郎「すいません。風林荘って、どこかわかりますか?」
智治「あん? 風林荘なら、ここだけど……。誰だ、あんた? 今日は俺達の貸し切りのはずだけど」
琥太郎「あ、ここがそうなんだ……。なるほどなるほど。……ああ、すみません。私、真宮寺琥太郎といいます。ちょっと取材させていただきたくて」
智治「取材? 俺達に? なんで?」
琥太郎「ああ、いえ、取材したいのは風林荘、そのもの……つまり、建物の取材です」
智治「なら、明日以降にしろよ。とにかく、今日は俺達の貸し切りだからさ」
琥太郎「ああ、いえ、実は、人がいるときじゃないと意味がないんです」
智治「はあ? なんだよ、そりゃ」
琥太郎「実は、私、探偵をしてまして。風林荘に事件の匂いがして、来たと言うわけです」
大誠「……え? 探偵?」
杏「へー、探偵だって、面白ーい! ねえ、話聞かせてよ」
琥太郎「ええ、もちろん、いいですよ」
智治「しゃーねーな。じゃあ、入れよ」
琥太郎「……お邪魔します」
大誠「……」
場面転換。
杏「あははははは。ざっこ!」
智治「事件解決したことないって、それ、探偵って言えねーじゃん」
琥太郎「お恥ずかしながら」
智治「ショボさ加減なら、大誠と同じだな」
大誠「……」
琥太郎「そういえば、今日は貸し切りと言ってましたが、3人だけですか?」
智治「いや、後から5人くらいくるかな」
琥太郎「では、全員揃ったら、改めて紹介してもらえませんか?」
智治「いやいや。もういいよ。無能な探偵にはお帰りいただいて。今日は俺達だけで楽しむから、部外者がいると盛り下がるからさ」
琥太郎「そうですか……。残念です。せっかく、初の事件解決ができるかと思ったのですが……」
智治「……事件解決ってなんだよ。俺達、別に事件なんて起こしてねーよ」
琥太郎「ああ、いえ。これから起こる事件ですよ」
杏「これから?」
琥太郎「ええ。これからやってくる5人プラス、ここにいる3人全員が事故に見せかけられて殺される事件です。ああ、いえ、犯人は逃れるので、7人ですかね」
大誠「……」
智治「おいおいおい、どういうことだよ?」
琥太郎「ああ、いえ、すみません。あくまで可能性の話です。私なら、完全犯罪が出来るなって思っただけですから」
智治「その話、ちょっと詳しく教えてくれよ」
琥太郎「いやあ、あくまで私がやるならって話ですからね。犯人がその方法を使うかわかりませんよ」
智治「良いから、早く話してくれよ」
杏「私も聞きたい」
大誠「……」
琥太郎「おほん。えっと、まず、この家に暖炉がありますよね」
智治「ん? ああ、あるな」
琥太郎「最近の人たちは暖炉なんてものをあまり使いません。ですが、物珍しいので、使ってみようとなる確率は高いです」
大誠「……」
琥太郎「使い慣れてない人にとって、思わぬ事故というものは起こりやすいです。酔っていれば特に」
杏「でもぉ。面倒くさいって使わないかもしれないじゃん」
琥太郎「そうですね。ですが、犯人が使うと言って火を起こそうとしたとしても、止めようとまではしないと思いませんか?」
大誠「……っ!」
杏「確かに」
琥太郎「そして、あらかじめ、そこに積んである薪に細工をしておくんです」
智治「細工って? どんな?」
琥太郎「簡単ですよ。湿らせておくんです。そうすれば、不完全燃焼を起こし、一酸化炭素が発生します」
大誠「!」
琥太郎「で、煙突の出口を何かで塞いでおけば、全員は知らぬ間にあの世に直行です。しかも酔っていれば尚更、気付きづらい」
智治「けどよぉ。それだと、犯人が生き残ったら、そいつが犯人っていうようなもんじゃないのか?」
琥太郎「ああ、いえ。そうはなりませんね。なぜなら、ここに来なかったことにすればいいだけですから」
智治「は?」
琥太郎「ここに来たと言う痕跡さえ消せばいいわけです。で、後から警察には、用事があってその日は行けなかったと言えばいいだけですから。しかも、アリバイにもなります。まず、犯人のリストからは外されるでしょう」
大誠「……っ!」
智治「じゃ、じゃあ、暖炉は使わせねーよ! それでいいんだろ?」
琥太郎「ああ、いえ。今のはあくまで一例です。ざっと中を見せてもらったところ、同じような仕掛けが出来そうなところが4つほどありました」
智治「ぜ、全部、教えてくれ」
琥太郎「……仕方ありませんね」
場面転換。
琥太郎「という感じです」
智治「へー。凄いな」
杏「探偵みたい」
大誠「……俺、ちょっと買い出しに行って来るよ」
琥太郎「ああ、では私も手伝いますよ。ご馳走してもらってばかりじゃ悪いですから」
大誠「……」
場面転換。
山道を歩く2人。
大誠「あの……真宮寺さんは、さっきのトリック、すぐに思いついたんですか?」
琥太郎「ああ、いえ、トリックなんていうのはパターンがありますから。それを、それぞれの場所や条件で当てはめるだけです」
大誠「そうなんですか……」
琥太郎「どうかしましたか?」
大誠「例えばですけど、さっきのトリックを長年かけて考えてた犯人からしたら、やるせないだろうなーって思って」
琥太郎「逆に言うと、私はこういうことを15年以上、ずっと考えてきたんですよ。そういう点で言うと、そこまで理不尽ではないと思いますが」
大誠「まあ、そうですよね……」
琥太郎「とはいえ、あまりいないのですかね?」
大誠「なにがですか?」
琥太郎「トリックを思いついたとしても、実際に実行に移す人です。私は今まで、このような状況のところへよく行くのですが、実際に事件が起こったことがないのです」
大誠「……」
琥太郎「はあ……。早く、事件を解決して、探偵として名を上げたいのですけどね」
大誠「はは……」
琥太郎「ちゃんと、犯人に対しての決め台詞も用意してるんですけどね」
大誠「決め台詞、ですか?」
琥太郎「復讐を果たしたところで、充実するのは一瞬のこと。その後は後悔しか生まれない。それに、あなたを想う人というのは絶対にいます。復讐よりも、目を向けるべきところはあるはずです。あなた自身が幸せになる。それが、一番の復讐になるはずです……というものです」
大誠「……身に沁みますね」
琥太郎「残念ながら、犯人に言えたことはないのですがね」
大誠「……そういえば真宮寺さんは、今まで、行った場所で同じようにトリックを説明したりしませんでした?」
琥太郎「え? よくわかりましたね。実はそうなんですよ。その場にいる人たちが興味津々で聞いて来るのでついつい、話してしまうんです」
大誠「やっぱり……」
琥太郎「それがなにか?」
大誠「……これからも、続けてください」
琥太郎「……」
大誠「それと、これだけは言わせてください。例え、一件も事件を解決していなかったとしても、あなたは最高の探偵です」
琥太郎「……は、はあ。ありがとうございます」
大誠(N)「こうして俺は、道を踏み外さずに済んだ。これからは、小春を想いながら、小春が歩めなかった人生をしっかりと生きようと思う。この変わった、誰も知らない名探偵に感謝しながら」
終わり。