鍵谷シナリオブログ

相互理解

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
博士
助手
佐藤隆史(さとう たかし)
田中浩一(たなか こういち)

■台本

博士「人間と動物の最大の違いは何だろうか? それは……言葉を話すということだ。言葉。つまりコミュニケーション能力が発達しているということだ。だから、私はこう考える。しっかりとコミュニケーションを取れば、人は理解し合える。そのコミュニケーションとは、相手の経験を共有することだ。そこで、私はある実験を行ったのだ」

場面転換。

博士「どうだ? アンケートの結果はまとめられたかね?」

助手「はい。ばっちりです」

博士「被験者になりそうな子はいたか?」

助手「はい。佐藤隆史くんと、田中浩一くんですね。なんと、お互いがお互いのことを嫌いと書いてます」

博士「ほうほう。それは今回の実験にうってつけじゃないか」

助手「はい。そう思います」

博士「それじゃ、さっそく、面接をしてみよう」

場面転換。

博士「佐藤君。これは絶対に、他の人には話さないから、正直に話して欲しい」

隆史「……」

博士「あと、実験に手伝ってくれたら、謝礼も払うつもりだ」

隆史「……何を話せばいいんですか?」

博士「この前書いてくれたアンケートあっただろ? あれで、どうして嫌いな人に田中君って書いたんだ?」

隆史「……僕、一人っ子なんです」

博士「……ああ、そうみたいだね」

隆史「両親も仕事で忙しくて、いつも一人なんです」

博士「……ふむ」

隆史「学校でも友達がいなくて……ずっと一人です」

博士「なるほど。それで?」

隆史「そんなとき、あいつ……田中君が言ったんです。羨ましいって」

博士「羨ましい? なぜだ?」

隆史「さあ。知りません」

博士「なるほど。じゃあ、自分が嫌だと思っているところを羨ましいと言われたことが嫌いの原因だと?」

隆史「それだけじゃありません」

博士「ほう?」

隆史「田中君は6人兄弟なんです」

博士「そうみたいだね」

隆史「それで、学校でも人気者です」

博士「ふむ」

隆史「……田中君は僕と正反対……僕が持ってないものを持っているくせに、僕を羨ましいって言ったんだ!」

博士「……」

隆史「何を考えてるか分からない……。だから、僕は田中君が嫌いなんです」

博士「ふむ。答えてくれて、ありがとう」

場面展開。

博士「……じゃあ、実験に協力してくれるんだね?」

浩一「ああ。小遣いくれるなら、なんでもするぜ」

博士「まずは質問に答えてほしい。君は佐藤君に羨ましいと言ったそうだね。これはなぜだね?」

浩一「へ? ああ、それは、あいつが一人だから」

博士「もう少し詳しく教えてくれ」

浩一「あー、いや、ほら。俺ってさ、兄弟多いし、学校でも友達が多いんだよね」

博士「ああ。そう聞いている」

浩一「それってさ、裏を返せば、いっつも誰かと一緒ってこと。一人になれないんだ」

博士「……ふむ」

浩一「だからさ、純粋に一人でいられるあいつが羨ましいなって思っただけ」

博士「なるほど。では、なぜ、嫌いな人に、その佐藤君の名前を書いたんだ?」

浩一「だってさー、自分が恵まれた状態なのに、それを理解してねーんだもん。だから、イライラすんの。恵まれてるくせに、自分は不幸なんだって感じがさ」

博士「……ありがとう。これは有意義な実験になりそうだよ」

場面転換。

浩一「交換生活?」

博士「ああ。そうだ」

隆史「えっと、どういうことですか?」

博士「そこまで難しく考えなくていい。ただ単に、お互いの生活を交換するだけだ。……つまり、田中君には佐藤君の家で暮らしてもらい、佐藤君には田中君の家で暮らしてもらう。これは双方の御両親にも許可を得ている」

浩一「そんなんでいいのか?」

博士「ああ。1ヵ月間、お願いするよ」

隆史「……わかりました」

浩一「俺も、いいぜ」

場面転換。

博士「ふふふ。お互いの生活をすることで、相手のことを理解する。これで、二人のお互いの印象は正反対になるはずだ」

助手「はい」

博士「結果を見ることなく、成功を確信してるのだ」

場面転換。

博士「……どうかね? 二人の一日の感想のレポートは?」

助手「田中君、佐藤君、共に良好ですね。快適な生活だと書いてますね」

博士「ふむ。実に楽しそうでよかった。羨ましいと思う部分を経験することで、お互いを理解することができる」

助手「はい」

博士「だが、ここからが大変になってくるはずだ。……一週間後、というところか」

場面転換。

博士「どうかね? 一週間経ったわけだが」

助手「はい。田中君、佐藤君、共にもう止めたいと言ってきました」

博士「そうだろうそうだろう。最初は、無いものねだりを経験して、楽しかっただろうが、数日もすると、大変な部分も見えてくる。そうすれば、相手の苦労もわかり、さらに理解が深まるはずだ」

助手「はい」

博士「では、もう一週間だけ続けてもらって、結果を見ることにしよう」

場面転換。

博士「どうだね? 実験が終わったあとの二人のレポートは? どちらも、相手への見方が変わったと書いてあるだろう? 相手のことを嫌いではなくなった……いや、好きになったはずだ」

助手「……こちらが二人のレポートです」

博士「ふふ。どれどれ……」

ぺらりとページをめくる音。

博士「……こ、これは何かの間違いではないのか?」

助手「……間違いありません」

博士「なぜだ? なぜ、お互い、嫌いな人の欄が、お互いの名前を書いてあるのだ?」

助手「……」

博士「理由は? 理由は聞いたのか?」

助手「はい……」

回想。

隆史「いつも人と一緒にいて、平気なんて、やっぱり、何考えてるかわからないです」

回想。

浩一「……ずっと一人でいて、生活できてるなんて、やっぱ、あいつヤバいよ。何考えてるかわからなくて、怖ぇ」

回想終わり。

助手「……だそうです」

博士「く、くそ! 相互理解はやっぱり無理なのか!?」

終わり。

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