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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
昌義(まさよし)
圭介(けいすけ)
子供1~3
男子生徒×2
教師

■台本

昌義(N)「俺は特別な人間だ。小さい頃から、確信していた。俺が本気を出せば、凡人……いや、人間たちは、俺に元にひれ伏すだろう。本気を出せば、だが。そう。俺は、単に本気を出していないだけだ。だから、まだ、結果というか、周りを驚かせるようなことはしていない。なんていうか、この世界は本気を出すに値しないというか、今は力を溜めているだけなのだ」

場面転換。

昌義がよろよろと歩いている。

昌義「はあ、はあ、はあ……」

教師「ほら、昌義。もうすぐだ、頑張れ」

昌義「はあ、はあ、はあ……」

教師「ゴール。最後までよく頑張ったな」

昌義「はあ、はあ、はあ、はあ……」

チャイムが鳴る。

教師「よーし、授業は終わりだ。早く着替えて、次の授業の準備しろー」

生徒たち「はーい」

昌義「はあ、はあ、はあ、はあ……」

圭介「まーくん、お疲れ。今回はリタイアしないでゴールできたじゃん」

昌義「はあ、はあ、はあ。うるさいな。あっち行け」

圭介「おいおい。なんで不機嫌なんだよ。……もしかして、順位を気にしてるのか? マラソンは自分との勝負なんだからさ。気にすんなって」

昌義「はあ、はあ、はあ、だから、うるさい……っての!」

圭介「人には得手不得手があるんだからさ」

男子生徒1「いやいや、昌義に得意なことなんてあるのかよ?」

男子生徒2「なんの才能もないよな、昌義は」

昌義「……」

男子生徒1「あれじゃね? 才能がないっていう才能なんじゃね?」

男子生徒2「あははは。そりゃすげー才能だな。その才能で、昌義に勝てる奴はいねーな」

圭介「おい、お前ら、いい加減にしろって」

男子生徒1「うっ!」

男子生徒2「じょ、冗談だって。さ、行こうぜ。次の授業が始まっちまう」

男子生徒1「そうだな」

男子生徒たちが行ってしまう。

圭介「あんなの、気にすんなよ」

昌義「……」

昌義(N)「くそ、忌々しい。俺が本気出せば、あんな奴ら、秒で黙らせることができるのに。……けど、本気出すのも面倒くさいしな。くそ、くそ、くそ! もっと、簡単に俺の力を示せるところはないんだろうか。俺に合った場所なら、絶対に俺は輝けるはずだ」

場面転換。

昌義が歩きながら、小箱を開けている。

昌義「おっ! ラッキー! 激レアカード出た! ふふっ! やっぱり俺は神に愛された人間だぜ」

遠くから子供の声が聞こえる。

子供1「あっ! やられたー!」

子供2「へへっ! 俺の勝ちー」

昌義「なにやってんだ? あ、まさか、ギャザ王やってんのか? ……どれどれ」

場面転換。

子供2「もう一回! もう一回、勝負してくれよ」

子供1「何回やっても同じだって。俺に勝てるわけねーだろ」

子供3「今度は俺と勝負してくれよ」

昌義「……はあ。どんなもんかと思ったら、随分と低レベルだな」

子供1「なんだよ、あんた?」

昌義「いや、通りすがりのデュエリストだよ」

子供1「なんだよ、兄ちゃんもギャザ王やんのか? なら、勝負しろよ!」

昌義「ふっ! いいぜ。かかって来いよ」

場面転換。

昌義「はい、これで終わり」

子供1「うわー! 負けたー」

子供2「すげー! しかもノーダメだ」

昌義「ふふふふ。これが真のデュエリストだ」

子供1「もう一回! もう一回勝負して!」

昌義「いいだろう、かかってきな」

昌義(N)「今、流行りのギャザ王はトレーディングカードゲームだ。この手のゲームは、手持ちのカードがものを言う。今まで、カードに小遣いを全振りしてきた俺が、小学生なんかに負けるわけがない。財力が違うのだ。しかも、戦略も稚拙とくれば、もはや、負ける要素を探す方が難しい」

場面転換。

昌義「ふふ。これで30連勝」

子供1「ダメだー。全然勝てない」

子供2「やっぱ、まーさんはスゲーな」

子供3「もう、神と言っていいレベルだよね」

昌義「神? ……神か。悪くない」

子供1「ねー、まーさん、戦い方のコツを教えてよ」

昌義「いいだろう。ただし、これからは俺のことは神と呼ぶのだ」

昌義(N)「……ついに見つけた。俺が輝ける場所を。こいつら相手であれば、俺の力を存分に振るうことができる。そして、こいつらは俺を神と呼ぶ。……やっぱり、俺は特別な存在なのだ」

場面転換。

子供1「ねー、まーさん。このカード、交換してよ」

昌義「は? 交換するわけねーだろ。これを引き当てるまで、どんだけ、金使ったと思ってるんだ」

子供1「えー。神なのにケチくせー」

昌義「なんだと?」

子供1「神様なら、もっと心が広くないとダメじゃない?」

昌義「……」

子供2「そうだよ! まーさんは神様なんだろ? 神様は人に優しくないとダメだよ」

昌義「……確かに、それもそうだな。いいだろう。特別に交換してやる」

子供1「やったぁ!」

場面転換。

セミの鳴き声。

子供3「暑いねー」

子供2「マジ、ヤバい」

子供1「ねー、神様。ジュース奢って」

昌義「は? ふざけんな。なんで俺が、お前らなんかに奢らないといけないんだよ」

子供1「神の恵みってやつだよ」

昌義「……」

子供1「神様の慈悲ってやつ。俺、今、まーさんにジュース奢って貰えたら、一生、まーさんについてく」

子供2「あ、俺も!」

子供3「僕も僕も!」

昌義「……ふむ。神の威厳を保つためには、多少の恵みも必要ということか」

子供1「そうそう。そんなの俺たちじゃできないもん。俺たちに恵みを与えられるのはまーさんだけだよ」

昌義「……ちっ! しょうがねーな」

子供2「まーさん、サイコー!」

子供3「神様! 格好いい!」

場面転換。

昌義が袋を手に持って歩いている。

昌義「ふん。アイスもつけてやったと知れば、やつらの、俺への尊敬が爆上がりだな」

そこに圭介がやってくる。

圭介「よお、まーくん、何してるんだ?」

昌義「ふふ。これは神からの恵みだ」

圭介「ふーん。何してるか知らないけど、最近、何かあった? 随分、明るくなったよな?」

昌義「まあな。ようやく俺が輝けるところを見つけたのだ」

圭介「へー。そりゃよかった。友達ができたんだな」

昌義「友達ではなく、俺は神だ」

圭介「なんだそりゃ。まあいいや。なあ、そのまーくんの友達に会わせてくれよ」

昌義「ふん、いいだろう」

場面転換。

昌義「ほら、買ってきてやったぞ。ありがたく受け取れ」

子供1「ありがとう、まーさん!」

子供2「お、アイスある!」

子供3「さすが神様」

昌義「ふふふ」

子供1「あ、ねー、まーさん。俺、ポテチ食べたくなった」

昌義「はあ? なんでだよ」

子供1「甘いものの後は、しょっぱいもの食べたくならない?」

昌義「む? まあ、確かにな」

子供2「神様お願い!」

昌義「ちっ! しょうがねーな」

圭介「……」

子供1「あ、そうだ、まーさん。ついでに俺ん家から、カード取って来てくれない? 母さんに言えば、出してくれるから」

昌義「ったく。わかったよ」

子供1「さすがまーさん」

子供2「よ! 神様!」

昌義「ふふふ」

圭介「なあ、まーくん」

昌義「なんだ?」

圭介「これじゃ、神じゃなくて、パシリじゃね?」

昌義「え?」

終わり。

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