■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
光莉(ひかり)※子供時代と兼ね役
井原 征二(いはら せいじ)※子供
井原 征二(いはら せいじ)※青年
祐奈(ゆうな)
おじさん
■台本
セミの鳴き声が響く。
祐奈「あー。暑い―」
光莉「祐奈、はしたないよ。ちゃんとボタン閉めなさい」
祐奈「はいはい。どうせ、私は光莉みたいにお上品じゃありませんよーだ」
光莉「お上品って……。普通でしょ」
祐奈「それより、エアコン付けて。エアコン」
光莉「んー。でも、ほら、今日って結構、風あるし、もう少し窓開けておかない?」
祐奈「えー? 光莉ってエアコン嫌いだっけ?」
光莉「そういうわけじゃないけど……」
風鈴の音がする。
祐奈「あれ? 風鈴の音? いい音だね」
光莉「でしょ、でしょ?」
祐奈「でも、風鈴なんて、この部屋にあったっけ……って、え? これなに?」
光莉「なにって、風鈴だよ」
祐奈「いやいやいや」
場面転換。
ガラガラとドアを開ける音。
征二「こんにちはー」
おじさん「おお、征二くん、いらっしゃい。久しぶりだな」
征二「御無沙汰してます。……光莉、います?」
おじさん「いるよ。おーい! 光莉―! 征二くん、来たぞー」
光莉の声「……今、行くー」
階段を降りてくる音。
征二「よお、光莉。元気そうだな」
光莉「まあね。それにしても、珍しいね、こんな時期に来るなんて」
征二「ふふふ。今年は自信作が出来たんだ。見ろ!」
ガサガサと風鈴を取り出す音。
風鈴の音が鳴る。
おじさん「ほお。井原征二の新作の風鈴か」
征二「これから、量産に入るから、いの一番で持ってきたんだ。どうだ?」
光莉「ありがとう。嬉しい」
征二「よし、じゃあ、入れ替えて……」
光莉「でも、ごめん。受け取れない」
征二「くそー! 今年もダメかぁ」
光莉「だから、言ってるでしょ。私はあの風鈴を入れ替えるつもりはないって」
征二「ううー。それは俺のプライドが許さない。絶対に、光莉が入れ替えたいって思う風鈴を作ってくるからな。……あ、おじさん。ってわけで、すいませんが、この風鈴、貰ってくれませんか?」
おじさん「毎年すまんな。店に飾らせてもらうよ」
征二「それじゃ、もう行きます。……じゃあな、光莉」
光莉「うん。征二も、頑張ってね」
征二「ああ」
征二がドアを開けて行ってしまう。
光莉「……」
場面転換。
ドアを開ける音。
光莉「ごめん、お待たせ。今、飲み物出すね」
祐奈「ちょちょちょ! 光莉! い、今のって、まさか、井原征二?」
光莉「え? 祐奈、知ってるの?」
祐奈「当たり前じゃん! ガラスの貴公子、井原征二! 風鈴の流行りの火付け役でしょ!」
光莉「へー。征二って、そんなに有名なんだ?」
祐奈「ね、ね、ね! どういう関係なの?」
光莉「別に。小学校のクラスメイトだった……くらいかな」
祐奈「いやいやいやいや。そんなんで、わざわざ、新作を届けに来ないでしょ。ホントのこと言いなさい! 付き合ってるんでしょ?」
光莉「……付き合ってないから」
祐奈「ま、話したくないなら別にいいけどさ。それよりも、なんで、新作の風鈴を断ったの?」
光莉「新しい風鈴を受け取ったら、あの風鈴と入れ替える約束だから……」
祐奈「あの風鈴って……あれ? えー、いいじゃん。あんなのよりも、井原征二の新作の風鈴だよ? 断然、そっちにするべきでしょ」
光莉「……ううん。私は、あの風鈴は入れ替えるつもりはないよ」
祐奈「えー? なんで?」
光莉「……」
祐奈「なんか、理由があるんでしょ? 聞きたい! 聞きたい―!」
光莉「……はあ。仕方ないわね。……あれは小学校の夏休みだったんだけど……」
回想。
光莉と征二が小学生の頃。
光莉と征二が歩いている。
光莉「ふふふ。キレ―!」
征二「なんだよ、自画自賛か?」
光莉「いいでしょ。ホントに綺麗なんだから。それより、征二はなんで、コップなの?」
征二「え? ガラスで作る物といえばコップだろ」
光莉「えー。もっと、色々あるじゃない。ガラスの置物とかさ」
征二「どうせ、作るなら、よく使うものにしたほうがいいだろ。自分で作ったコップで麦茶飲むとかサイコーだろうなぁ」
光莉「なにそれ、おじさんくさーい」
征二「うっさいな! それより、光莉は風鈴なんて作ったって、夏しか飾れねーじゃねーか」
光莉「いいじゃない。夏だけでも」
風鈴の音が響く。
光莉「いい音でしょ?」
征二「……ん? その風鈴、少し形変じゃないか?」
光莉「ええー! そんなことないよ」
征二「いや、ほら、ここ……」
光莉「きゃっ!」
風鈴が地面に落ちて割れる音」
光莉「あっ!」
征二「あ……」
場面転換。
ガラガラとドアが開く音。
征二「あ、あの、おじさん……。光莉、いる?」
おじさん「ああ、いるぞ。おーい! 光莉―! いつまでも泣いてないで降りて来い! 征二くん来たぞ」
トボトボと階段から降りてくる音。
光莉「……なに?」
征二「光莉、その、ごめん」
光莉「……もういいよ。別に」
征二「あの、これ! 代わりってわけじゃないけど……」
風鈴の音が鳴る。
光莉「……それって」
征二「ふ、風鈴」
おじさん「あはははは。コップに、金属つけて、風鈴か。味があっていいな」
征二「……やっぱり、こんなのいらないよな?」
光莉「ふふふ。ありがとう。貰うわ」
征二「ホントか?」
光莉「うん」
回想終わり。
光莉「それから、すぐに征二はガラス細工の体験入学をしたところに修行に入ったの。で、毎年、新しい風鈴を作っては、持ってくるってわけ」
祐奈「へー。なるほどねぇ」
光莉「で、いつも、あのコップで作った風鈴を返せって言ってくるの。……なんか、恥ずかしいみたい」
祐奈「でも、なんで、入れ替えないの? 今の征二くんの風鈴の方がいいでしょ?」
光莉「ふふふ。祐奈はわかってないわね。この風鈴は井原征二が初めて作った、ガラス製品だよ? それに、私の為だけに作った、世界に一つだけの風鈴……。断然、こっちの方が、価値があると思わない?」
祐奈「あー、確かに」
光莉「……それにさ、これがあれば、毎年、征二は私のところに来てくれる……ってわけ」
祐奈「おー、光莉さんは悪女ですなぁ」
光莉「あははは。……でもね、入れ替えない一番の理由は……」
風鈴の音が響く。
光莉「いい音色でしょ?」
祐奈「確かに」
終わり。