■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
誠(まこと)
美奈(みな)
巧也(たくや)
加代(かよ)
母親
アナウンサー
クラスメイト
姉
■台本
誠(N)「夏になると、今でもふと思い出す。透き通るような白い肌に、触っただけで壊れてしまいそうな儚げな雰囲気。……そして、妙に気になる尖った八重歯。あの子は今、どこで何をしているのだろうか」
場面転換。
誠が小学生の頃。
リビング。
テレビの音が流れている。
そして、シャコシャコと歯を磨く音。
母親「誠。いつまで歯、磨いてるの? 早くしないと学校、遅刻するわよ」
誠「ちょっと、待って。もう少し」
シャコシャコと歯を磨く音。
姉「……誠はなんで、必死になって歯を磨いてんの? いつもは2分くらいしか磨かないのに」
母親「ほら、昨日、餃子食べたじゃない。それでよ」
姉「はあ? 昨日の夜でしょ? いくらなんでも、臭わないでしょ」
母親「私も、そう言ったんだけどね」
シャコシャコと歯を磨く音。
そこにテレビのニュースが流れる。
アナウンサー「朝のニュースです。昨晩、聖将(せいしょう)総合病院で、輸血用の血液が大量に紛失していることが見つかり、関係者は……」
母親「あら、また」
姉「ん? 何が?」
母親「ほら、この前も輸血用の血が足りないって、輸血を募ってたじゃない」
姉「ああ、あったね、そんなこと」
トタトタと誠が歩いて来る。
誠「お母さん。大丈夫かな?」
母親「どれどれ?」
誠「はー!(息を吐く)」
母親「うん。全然、大丈夫。歯磨き粉の匂いしかしないわよ」
誠「よかったー」
姉「誠も口臭なんて気にするなんて、随分と色気づいたじゃない」
誠「餃子だからだよ」
姉「ん? なにそれ? ……ってか、あんた、腕、腕!」
誠「え? ……あー、また皮むけてる」
母親「昨日は日差し強かったからね」
姉「あんたは、夏になるといつも真っ黒になるわよね。口臭よりも日焼けを気にしたら?」
誠「姉ちゃんは、全然、日焼けしないね」
姉「そりゃ、あんたほど、外に出ないし、なにより、日焼け止めをしっかり塗ってるからね」
誠「日焼け止め?」
姉「今の日焼け止め、凄いのよ。ぬっとけば、全然、紫外線を通さないんだから」
誠「ふーん」
母親「ほら、誠。遅刻するわよ」
誠「あ、そうだった!」
ドタドタと走り出す。
場面転換。
誠が美奈に走り寄る。
誠「おーい、美奈ちゃん!」
美奈「あ、誠くん。おはよう」
誠「おはよう」
美奈「……」
誠「ど、どうしたの?」
美奈「……誠くん、昨日、餃子食べたでしょ?」
誠「うっ!」
美奈「……今日はあんまり、近づいて欲しくないな」
スタスタと美奈が歩いて行く。
誠「うう……お母さんの嘘つき」
クラスメイト1「あ、美奈ちゃん、おはよ」
クラスメイト2「おはよー」
美奈「おはよう」
誠「……」
場面転換。
グラウンドでサッカーの授業。
ボールを蹴る音。
誠「ゴール!」
クラスメイト1「おお、誠が、また得点入れた!」
女子生徒「誠くん、すごーい!」
誠「……」
クラスメイト1「どうした? 嬉しそうじゃないな」
誠「いや、その、いつも美奈ちゃんって、外でやる体育には出ないなって思ってさ」
クラスメイト1「なんだよ? 美奈ちゃんに活躍見て貰いたかったってか?」
誠「いや、その……」
クラスメイト1「しゃーないよ。美奈ちゃん、肌が弱いらしいから。日が強い日は傘さしてるくらいだし」
誠「夏は海とかに誘っても、無理だよね?」
クラスメイト1「そりゃ無理だろ。プールならいいかもしれないけど」
誠「そっか。プールならありかもね」
クラスメイト1「美奈ちゃんの水着が見たくて、必死だな」
誠「そ、そんなんじゃないよ!」
場面転換。
廊下で遊んでいる誠たち。
誠「必殺、十字斬り!」
クラスメイト1「ぐあっ!」
誠「俺の勝ちだー!」
クラスメイト1「次、俺の番! はあー! 十字……」
美奈「……」
誠「美奈ちゃん、変な顔して、どうかした?」
美奈「……私、それ、あんまり好きじゃないかな」
誠「え? そ、そうなんだ……」
クラスメイト1「おい、誠! 次、俺の番なんだから、やられる役をやってくれよ!」
誠「ごめん。俺、やめる」
クラスメイト1「はあ? ズルいぞ!」
場面転換。
ザーッと、雨が降っている。
美奈「……」
誠「あれ? 美奈ちゃん、帰らないの?」
美奈「傘、忘れちゃって……」
誠「え? でも、いつも傘さしてるよね?」
美奈「あれは日傘だから」
誠「そうなんだ?」
美奈「多分、天気雨だと思うから、このまま少し待とうかな」
誠「……ね、ねえ、よかったら、傘、入って行く?」
美奈「いいの?」
誠「うん」
美奈「ありがとう」
場面転換。
雨の中歩く二人。
誠「ね、ねえ、美奈ちゃん。夏休みなんだけど、何か予定とかある?」
美奈「え? ううん。特にないけど……」
誠「あ、あのさ、よかったら一緒にプールにでも遊びに行かない?」
美奈「プール? ふふ。いいわね。行こうかな」
誠「ホント?」
美奈「うん」
誠「えへへ。楽しみだな―。いつにしようかなー」
その時、雨が上がる。
誠「あ、雨、止んだ。てか、一気に晴れてきた」
美奈「あっ!」
誠「傘、畳むね」
美奈「ちょっと待って!」
傘を畳む音。
美奈「きゃああ!」
誠「美奈ちゃん!」
美奈「か、傘さして!」
誠「あ、う、うん!」
傘を広げる音。
美奈「ごめんね。驚かせて」
誠「……あ、肌が」
美奈「……」
誠「……大丈夫?」
美奈「誠くんには、本当のこと教えちゃおうかな」
誠「ホントのこと?」
美奈「私ね、吸血鬼なんだ」
誠「……え? まさか……。吸血鬼なら、そもそも昼に外に出られなくない?」
美奈「……」
誠「日焼けして皮がむけるなんて、よくあることだし。俺だって、ほら! よく、皮むけるんだ」
美奈「うふふふ。なーんて、冗談。ごめんね」
誠「う、うん……」
美奈「誠くん、優しいね」
誠「美奈ちゃん……」
場面転換。
大人の誠。
誠(N)「それが、美奈ちゃんに会った最後だった。急に転向が決まり、引っ越していってしまったのだ」
場面転換。
リビング。
シャコシャコと歯磨きする音。
加代「巧也、いつまで歯を磨いてるの? 早くしないと遅刻するわよ」
巧也「んー、ちょっと待ってー」
誠「あいつが、朝から必死に歯磨きするなんて、珍しいな」
加代「なんか、昨日、ラーメン食べたからだって」
誠「へー。巧也も口臭を気にする年になったか」
テレビからニュースが流れる。
アナウンサー「朝のニュースです。昨晩、東海総合病院で、輸血用の血液が大量に紛失していることが見つかり、関係者は……」
加代「あら、また」
誠「……」
巧也「お母さん、臭い大丈夫かな? はー」
加代「うん、ばっちり!」
美奈の声「巧也くんー」
巧也「あ、美奈ちゃんだ! いってきます!」
加代「行ってらっしゃい」
誠「……美奈……ちゃん?」
加代「最近、引っ越してきた女の子みたい。それから、妙に色気づいちゃって」
誠「……まさか、な」
終わり。