■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
寛二(かんじ)
母親
父親
田中
アナウンサー
看護師
クラスメイト
■台本
アナウンサー「田中選手、優勝おめでとうございます」
田中「ありがとうございます」
アナウンサー「どうですか? これで3連覇となりますが、勝ち続けるコツはなんでしょうか?」
田中「そうですね……。実は勝つためのコツなんて単純なんです」
アナウンサー「といいますと?」
田中「努力……頑張るしかないんですよ、勝つためには。僕が世界一になれたのは血と汗の結晶なんですよ」
アナウンサー「なるほど。実に田中選手らしいコメントでした」
場面転換。
テレビを見ている、寛二。
寛二「……血と汗の結晶」
場面転換。
寛二が走っている。
寛二「はっ! はっ! はっ!」
場面転換。
リビング。
父親がリビングに入って来る。
父親「ふわー。おはよー……」
母親「もう、午後よ、あなた。いくらお休みの日だからって、もう少し寛二を見習ったら?」
父親「ん? その寛二はどこいった?」
母親「ランニングよ」
父親「ランニング? なんで?」
母親「世界一になるって張り切ってるのよ」
父親「……なんの世界一だ?」
母親「さあ? でも、凄くやる気があるみたいだから、あんまり口は出さないようにって思って」
父親「まあ、体力があるにこしたことはないしな」
ガチャリとドアが開く音。
寛二「た、ただいまー……」
母親「あら、凄い汗。随分頑張ったのね。すぐに着替えなさい。風邪ひくわよ」
寛二「うん。……あ、でもその前にバケツない?」
母親「バケツ? あるけど……」
母親がバケツを獲りに行く。
父親「寛二。頑張ってるみたいだな」
寛二「うん。僕、世界一になるんだ!」
父親「そうか。頑張れよ」
寛二「世界一になるには、血と汗の結晶なんだ!」
父親「お? そんな言葉、どこで覚えてきたんだ?」
母親がバケツを持って戻って来る。
母親「ほら、この前の田中選手のインタビューよ」
父親「ああ、なるほど」
母親「はい、寛二、バケツ」
寛二「ありがと」
バケツを持ってリビングを出ていく寛二。
母親「何に使うのかしら?」
父親「部屋でも掃除するんじゃないのか?」
場面転換。
寛二の部屋。
服を絞っている寛二。
寛二「んー! んー! ……ダメだ。服を絞っても汗が出てこない。……汗が足りないのかなぁ?」
場面転換。
サウナ内。
寛二「はあ、はあ、はあ……」
父親「寛二がサウナに行きたいって言うなんて珍しいな」
寛二「汗が……いっぱい……かけるから」
父親「ん? あれか? 今、流行りの整うってやつか?」
寛二「とにかく、汗がかきたいの」
場面転換。
父親と寛二が歩いて来る。
父親「はー、さっぱりした」
母親「随分と長かったわね」
寛二「はー、いっぱい汗かいたよ」
母親「ちょっと! タオル、びちゃびちゃじゃない! 絞ってこないとダメじゃない」
母親がタオルを持って行ってしまう。
寛二「あー! ダメ―!」
場面転換。
寛二「……で、出来た! 汗の結晶! ……つ、次は血かぁ……。絵具やトマトジュースじゃダメかなぁ?」
場面転換。
寛二「はあ、はあ、はあ……」
母親「ちょっと! 寛二! 包丁持って、何やってるの!?」
寛二「ちょ、ちょっとだけ、切りたいだけなんだ」
母親「何言ってるのよ!」
場面転換。
寛二「はあ、はあ、はあ……」
チキチキとカッターの刃を出す音。
寛二「ちょっとだけ。ちょっとだけ、指をカッターで切るだけなんだ」
チキチキという音。
寛二「はあ、はあ、はあ……。ダメだ。怖くてできない……」
場面転換。
看護師「それじゃ、採血するね」
寛二「は、はい……」
看護師「ちょっと、チクッとするよ」
寛二「……」
看護師「はい、リラックスして」
寛二「……」
看護師「うん。オッケー。よく頑張ったわね」
寛二「あ、あの!」
看護師「どうしたの? 気分悪くなっちゃった?」
寛二「少しだけでいいんで、今、取った僕の血を下さい!」
看護師「……え?」
場面転換。
リビング。
ドアが開く音。
寛二「ただいま!」
母親「ちょっと、寛二! 今日の健康診断で、あんた、変なこと言ったんだって? 先生から連絡があって……」
寛二「大丈夫! もう、それは解決したんだ」
母親「え?」
寛二「注射した後に貼る、布があるから!」
母親「……?」
場面転換。
寛二「……やった! ついにできた! 血の結晶! これで、血と汗の結晶ができたんだ! これで僕は……世界一だ!」
場面転換。
ピピ―と笛が鳴る。
クラスメイト「へへっ! 悪いな、寛二。俺の勝ちだ」
寛二「……うう。どうして?」
場面転換。
リビング。
ドアが開き、父親が入って来る。
父親「ふわー。おはよー……」
母親「もう、午後よ」
父親「……ん? 寛二は? ランニングか?」
母親「いや、まだ寝てるわよ」
父親「……」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
父親「寛二―。ランニング、どうした? 世界一になるために頑張るんだろ?」
寛二「もう、いいよ」
父親「……なんでだよ?」
寛二「血と汗の結晶を作っても、世界一になんかなれないんだ」
父親「……?」
終わり。