今から本気出す
- 2022.08.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
健一(けんいち)
美奈子(みなこ)
男子生徒1~2
母親
■台本
健一(N)「俺には何となく、確信していることがある。それは、俺は特別な人間ということだ。別にトップクラスのアスリートになれるとか、眠っている特殊な能力があるとか、そんなことじゃない。ただ、大体のことは人よりもできるってくらいの、地味な特別感だ。今までは特に本気を出そうと思ったことは無いから、目立った成績を出したことはない。だけど、もし、本気を出そうと真剣に思うようなことがあれば、きっと、俺は凄いことになる。そう確信している。……後は、俺が本気になれるようなことが見つかればいいだけなのだ」
場面転換。
教室内。
美奈子「はい。これでホームルームは終わり」
教室内が一気に騒がしくなる。
美奈子「あ、みんな。最近、町で見回りが多くなってるから、町に行かないで真っすぐ帰るのよ。もし、補導なんてされたら、内申点は覚悟しなさいね」
男子生徒1「相変わらず、美奈子先生は怖いこと言うなぁ。……なあ、健一。今日、何か用事ある?」
健一「いや、なにも」
男子生徒1「帰りにゲーセン寄ってかね?」
健一「……今、先生から寄り道するなって言われたばかりだろ」
男子生徒1「いやいや。んなこと真面目に聞く奴いねーって。それより、またレーシングゲームしようぜ。今日勝てば、俺、10連勝だし」
健一「いや、今日は真っ直ぐ帰る」
男子生徒1「えー、なんでだよ」
健一「……用事があるんだよ」
男子生徒1「無いって言ったじゃん」
健一「……」
場面転換。
ガチャリとドアが開き、健一がドカッと椅子に座る音。
健一「あーあ。つまらねーな。何にもする気起きねー。……本気になれること、早く見つからねーかな」
場面転換。
学校の教室内。
美奈子「いい!? もうすぐ、体育祭よ!」
男子生徒2「なっちゃん、なんでそんなに気合入ってるの? どうせ、今年もうちは最下位だって」
バンと教壇を叩く美奈子。
美奈子「そんなんだから、いつもダメなのよ! 気合よ! 気合を入れるの!」
男子生徒2「んなこと言われもなー」
美奈子「それに! テストの方も! クラスの点数平均が他のクラスと比べて、ダントツに低いの!」
男子生徒2「それも、今更じゃん」
美奈子「あー、もう! だから、なんとかしなさいって言ってるの! このままじゃ、また教頭に怒られるのよ!」
男子生徒2「無理無理。なんとかなるレベルじゃないって」
美奈子「……ふーん。じゃあ、こういうのはどう? テストで良い点取るのと、体育祭で活躍した人は、先生がほっぺにキスしてあげるわ!」
健一「っ!?」
男子生徒2「いや、それ、セクハラだから」
美奈子「なんでよ!?」
場面転換。
健一の部屋。
バンと勢いよくドアが開く。
健一「うおおおお! 今から本気出す!」
場面転換。
健一の部屋。
カリカリと勉強している音。
ガチャリとドアが開く音。
母親「健一―。ご飯よー」
健一「部屋に持ってきてくんない? 勉強、手が離せないんだよね」
母親「あら、あんたが勉強してるなんて珍しいわね」
健一「……」
真剣に勉強をする健一。
場面転換。
グラウンドを走る健一。
健一「はっ、はっ、はっ!」
男子生徒1「おーい、健一!」
立ち止まる健一。
健一「はあ、はあ、はあ……。なんだよ?」
男子生徒1「いやいや。こっちの台詞。なんで急にグラウンドなんて走ってるんだよ?」
健一「……体力づくりだよ」
男子生徒1「……なんで?」
健一「最近、体力落ちてきたのと、太ってきたんだよ」
男子生徒1「……ふーん」
健一「なんだよ、その顔」
男子生徒1「いや、美奈子先生の言ったこと、真に受けたのかなって心配してたんだよ」
健一「ばっ! そんなわけねーだろ!」
男子生徒1「あっそ。ならいいんだけど。じゃあ、頑張れよ」
健一「ちょっと待ってくれ」
男子生徒1「ん?」
健一「……バスケの練習、付き合ってくれねーか?」
男子生徒1「……」
場面転換。
健一の部屋。
カリカリと勉強する音。
健一「ふふふふ。わかる。わかるぞ! 今まで全く分からなかった問題が解けるぞ! 今なら過去最高点……いや、クラスで一番が取れそうだ!」
場面転換。
学校の教室内。
美奈子「はい。それじゃ、テスト、始め!」
周りが一斉にテストの問題を解き始める。
場面転換。
体育館。
ガヤガヤと生徒たちで賑わっている。
男子生徒1「あーあ、体育祭、めんどくせー」
健一「よっ! ほっ!」
男子生徒1「なにやってんだ?」
健一「お前も、ストレッチしておいた方がいいぞ」
男子生徒1「随分と気合入ってるな」
健一「当たり前だろ。今日の日のために3ヶ月、死ぬ思いで頑張ってきたんだからな」
男子生徒1「まっ、死なない程度に頑張れや」
場面転換。
教室内。
美奈子「みんな。体育祭、頑張ったわね。先生、嬉しいわ。バスケは一回戦負けだったけど、頑張ったのは、先生知ってるから!」
健一「……」
美奈子「そして、テストの結果も出たわよ!」
健一「っ!?」
美奈子「それじゃ、お待ちかねの、先生のキスを貰える人は……」
健一「……ごくり」
美奈子「ダラララララ……ジャン! 昌義(まさよし)くん!」
健一「なっ!」
美奈子「昌義くんは、3教科で95点取ったのと、体育祭はバレーチームを優勝に導いてくれました!」
健一「ちょっ! 先生! 俺は!?」
美奈子「え? 健一くん? えーっと……健一くんは……。前回のテストからプラス15点で体育祭はバスケチームかぁ。……うん! 頑張った! 頑張ったけど……先生のキスには、ちょっと届かないかな」
健一「……」
健一(N)「俺はこの3ヶ月間、本気で頑張った。……だけど、それは3ヶ月頑張った分しか結果が出なかった。本気さえ出せば、俺は凄いと思っていたのは、どうやら幻想だったらしい。人生ってやつは一瞬だけ頑張ってみてもダメみたいだ」
終わり。
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