今から本気出す

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
健一(けんいち)
美奈子(みなこ)
男子生徒1~2
母親

■台本

健一(N)「俺には何となく、確信していることがある。それは、俺は特別な人間ということだ。別にトップクラスのアスリートになれるとか、眠っている特殊な能力があるとか、そんなことじゃない。ただ、大体のことは人よりもできるってくらいの、地味な特別感だ。今までは特に本気を出そうと思ったことは無いから、目立った成績を出したことはない。だけど、もし、本気を出そうと真剣に思うようなことがあれば、きっと、俺は凄いことになる。そう確信している。……後は、俺が本気になれるようなことが見つかればいいだけなのだ」

場面転換。

教室内。

美奈子「はい。これでホームルームは終わり」

教室内が一気に騒がしくなる。

美奈子「あ、みんな。最近、町で見回りが多くなってるから、町に行かないで真っすぐ帰るのよ。もし、補導なんてされたら、内申点は覚悟しなさいね」

男子生徒1「相変わらず、美奈子先生は怖いこと言うなぁ。……なあ、健一。今日、何か用事ある?」

健一「いや、なにも」

男子生徒1「帰りにゲーセン寄ってかね?」

健一「……今、先生から寄り道するなって言われたばかりだろ」

男子生徒1「いやいや。んなこと真面目に聞く奴いねーって。それより、またレーシングゲームしようぜ。今日勝てば、俺、10連勝だし」

健一「いや、今日は真っ直ぐ帰る」

男子生徒1「えー、なんでだよ」

健一「……用事があるんだよ」

男子生徒1「無いって言ったじゃん」

健一「……」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、健一がドカッと椅子に座る音。

健一「あーあ。つまらねーな。何にもする気起きねー。……本気になれること、早く見つからねーかな」

場面転換。

学校の教室内。

美奈子「いい!? もうすぐ、体育祭よ!」

男子生徒2「なっちゃん、なんでそんなに気合入ってるの? どうせ、今年もうちは最下位だって」

バンと教壇を叩く美奈子。

美奈子「そんなんだから、いつもダメなのよ! 気合よ! 気合を入れるの!」

男子生徒2「んなこと言われもなー」

美奈子「それに! テストの方も! クラスの点数平均が他のクラスと比べて、ダントツに低いの!」

男子生徒2「それも、今更じゃん」

美奈子「あー、もう! だから、なんとかしなさいって言ってるの! このままじゃ、また教頭に怒られるのよ!」

男子生徒2「無理無理。なんとかなるレベルじゃないって」

美奈子「……ふーん。じゃあ、こういうのはどう? テストで良い点取るのと、体育祭で活躍した人は、先生がほっぺにキスしてあげるわ!」

健一「っ!?」

男子生徒2「いや、それ、セクハラだから」

美奈子「なんでよ!?」

場面転換。

健一の部屋。

バンと勢いよくドアが開く。

健一「うおおおお! 今から本気出す!」

場面転換。

健一の部屋。

カリカリと勉強している音。

ガチャリとドアが開く音。

母親「健一―。ご飯よー」

健一「部屋に持ってきてくんない? 勉強、手が離せないんだよね」

母親「あら、あんたが勉強してるなんて珍しいわね」

健一「……」

真剣に勉強をする健一。

場面転換。

グラウンドを走る健一。

健一「はっ、はっ、はっ!」

男子生徒1「おーい、健一!」

立ち止まる健一。

健一「はあ、はあ、はあ……。なんだよ?」

男子生徒1「いやいや。こっちの台詞。なんで急にグラウンドなんて走ってるんだよ?」

健一「……体力づくりだよ」

男子生徒1「……なんで?」

健一「最近、体力落ちてきたのと、太ってきたんだよ」

男子生徒1「……ふーん」

健一「なんだよ、その顔」

男子生徒1「いや、美奈子先生の言ったこと、真に受けたのかなって心配してたんだよ」

健一「ばっ! そんなわけねーだろ!」

男子生徒1「あっそ。ならいいんだけど。じゃあ、頑張れよ」

健一「ちょっと待ってくれ」

男子生徒1「ん?」

健一「……バスケの練習、付き合ってくれねーか?」

男子生徒1「……」

場面転換。

健一の部屋。

カリカリと勉強する音。

健一「ふふふふ。わかる。わかるぞ! 今まで全く分からなかった問題が解けるぞ! 今なら過去最高点……いや、クラスで一番が取れそうだ!」

場面転換。

学校の教室内。

美奈子「はい。それじゃ、テスト、始め!」

周りが一斉にテストの問題を解き始める。

場面転換。

体育館。

ガヤガヤと生徒たちで賑わっている。

男子生徒1「あーあ、体育祭、めんどくせー」

健一「よっ! ほっ!」

男子生徒1「なにやってんだ?」

健一「お前も、ストレッチしておいた方がいいぞ」

男子生徒1「随分と気合入ってるな」

健一「当たり前だろ。今日の日のために3ヶ月、死ぬ思いで頑張ってきたんだからな」

男子生徒1「まっ、死なない程度に頑張れや」

場面転換。

教室内。

美奈子「みんな。体育祭、頑張ったわね。先生、嬉しいわ。バスケは一回戦負けだったけど、頑張ったのは、先生知ってるから!」

健一「……」

美奈子「そして、テストの結果も出たわよ!」

健一「っ!?」

美奈子「それじゃ、お待ちかねの、先生のキスを貰える人は……」

健一「……ごくり」

美奈子「ダラララララ……ジャン! 昌義(まさよし)くん!」

健一「なっ!」

美奈子「昌義くんは、3教科で95点取ったのと、体育祭はバレーチームを優勝に導いてくれました!」

健一「ちょっ! 先生! 俺は!?」

美奈子「え? 健一くん? えーっと……健一くんは……。前回のテストからプラス15点で体育祭はバスケチームかぁ。……うん! 頑張った! 頑張ったけど……先生のキスには、ちょっと届かないかな」

健一「……」

健一(N)「俺はこの3ヶ月間、本気で頑張った。……だけど、それは3ヶ月頑張った分しか結果が出なかった。本気さえ出せば、俺は凄いと思っていたのは、どうやら幻想だったらしい。人生ってやつは一瞬だけ頑張ってみてもダメみたいだ」

終わり。

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