鍵谷シナリオブログ

危険なアルバイト

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ホラー

■キャスト
敦人(あつと)
瑞希(みずき)
田代(たしろ)
男1~2

■台本

崖下に波が打ち上げる音。

瑞希「……ねえ、お願い、一緒に飛び込んで。約束でしょ?」

男1「ひいいいいいいい!」

瑞希「やっぱり、あなたも嘘つきなのね」

ドボンと海に人が落ちる音。

場面転換。

田代「基本的には、部屋にあるものは自由に使ってもらって大丈夫だから。一応、冷蔵庫の中に飲み物も入れてあるけど、足りなかったら、自分で買ってね。ここから15分くらい降りたところにコンビニあるからさ」

敦人「わかりました」

田代「あと、募集要項にも書いてあったと思うけど、君の仕事は夜の8時から翌朝の4時まで。それ以外の時間は自由だけど、その時間は絶対に寝ないように、睡眠はしっかりとっておいてね」

敦人「はい」

田代「なにか質問ある?」

敦人「あの、その仕事の内容なんですけど……」

田代「ああ。この部屋から、あの崖の上が見えるでしょ? その時間は立ち入り禁止にしてるのに、人が入って来ちゃうんだよ。そういう人がいたら、注意して」

敦人「……それだけ、ですか?」

田代「そうだよ。……あ、もし、大勢の酔っ払いだったり、ヤンキーとかみたいに、話が通じ無さそうな場合は、この電話で連絡してくれればいいから。変に注意して怪我でもしたら困るからね」

敦人「……あの」

田代「ん?」

敦人「本当に、それだけなのに……日給、2

万なんですか?」

田代「え? 足りない?」

敦人「いやいやいや! 逆です。逆。こんな楽な仕事なのに、随分と高いなって」

田代「んー。みんな、最初はそういうんだけどねー」

敦人「え?」

田代「大体の人は1週間くらいで辞めちゃうんだよ。……君は最後まで頑張ってほしいなぁ」

敦人「あ、あの……。もしかして、その……」

田代「……まあ、黙っててもどうせバレるから、言っておくか。実は……夜になると飛び込む奴がいるんだよ。崖から」

敦人「そ、それってまさか……幽……」

田代「おっと。今更辞めるなんて言わないでくれよ。まあ、滅多に現れないから、大丈夫大丈夫。はははは」

敦人「……」

田代「それじゃ、頼んだよ」

ドアを開けて田代が出ていく。

敦人「マジか。……募集要項に書いておいてくれよ」

場面転換。

動画を見ている敦人。

敦人「あはははは」

そのとき、携帯のアラートが鳴る。

敦人「おっと……時間か。そろそろ、見張らないと」

ガラガラと窓を開ける音。

すると、波の音が聞こえてくる。

敦人「……見張るだけって、確かに楽だけど……。暇だよなぁ」

場面転換。

敦人「……これは、幽霊が出なくても、結構、キツイぞ。見てるだけって、こんなに辛いのか。確かに、寝ないでくれって言うのもわかる気がする」

波の音が響く。

場面転換。

波の音が響く。

敦人「……ん? あれ? 人だ。マジで? 滅多に出ないって言ってたじゃん!」

立ち上がって、部屋を出ていく敦人。

場面転換。

崖の上。

敦人が走って来る。

敦人「あの! ちょっと!」

男2「うわああ! ビックリした!」

敦人「……よかった。幽霊じゃなさそうだ。……ここ、この時間は立ち入り禁止ですよ」

男2「あー、うん。それはわかってるんだけどさ、見逃してくんない?」

敦人「……こんなところに何の用ですか?」

男2「いや、ほら、ここに女の幽霊が出るって噂でしょ? 動画撮れないかなって」

敦人「……崖から飛び込むって奴ですか?」

男2「そうそう!」

敦人「やっぱり、幽霊出るんだ……」

男2「女の地縛霊って、ベタだけどさー。幽霊撮れたらさ、めっちゃ、再生数延びると思うんだよね。だから、お願い、見逃して!」

敦人「いやそう言われても……」

男2「あっ! 女だ!」

敦人「え?」

瑞希「……」

男2「で、で、出たーー!」

男2が走り去っていく。

敦人「……ゴクリ」

瑞希「……」

敦人が瑞希のところへ歩いて行く。

敦人「あ、あの……」

瑞希「……」

敦人「何してるんですか?」

瑞希「もう……どうでもいい」

敦人「え?」

瑞希「男なんて……みんな、嘘付き」

敦人「いや、そ、そんなことないよ」

瑞希「最初はみんな、そう言う」

敦人「あー、でも、ほら、中には違う人もいるって言うか……」

瑞希「あなたは違う?」

敦人「え?」

瑞希「……やっぱり。もういい。私一人で飛び込む……」

敦人「待って!」

瑞希「……」

敦人「な、何があったかわからないけどさ。そんなことじゃ、周りだって、自分だって傷つけるだけだよ」

瑞希「……」

敦人「そりゃ、色々あって、辛かったかもしれないけどさ。過去に縛られてても、いいことなんてないよ! 先を考えなきゃ!」

瑞希「先?」

敦人「そう。いつまでも、こんなところに縛られてたらダメだよ。心を解放して、前を向かなきゃ!」

瑞希「……口では何とでも言える」

敦人「……そ、そんなことないよ」

瑞希「私のお願い聞いてくれる?」

敦人「え? あ、う、うん……」

瑞希「じゃあ、一緒に飛び込んで」

敦人「え?」

瑞希「……ねえ、お願い、一緒に飛び込んで。約束でしょ?」

敦人「ひいいい!」

瑞希「……やっぱり、あなたも嘘つきなのね」

敦人「うっ!」

瑞希「もういいわ。私一人で飛び込む」

瑞希が崖に向かって行く。

瑞希「……さよなら」

瑞希が崖から飛び降りる。

敦人「ちょっと待って!」

敦人が走り出し、崖から飛び降りる。

敦人「うわあああああ!」

ドボン、ドボンと海に落ちる音が2回。

敦人「ぷはあっ! はあ、はあ、はあ……」

波の音が大きい。

敦人「……幽霊相手に、何やってんだ、俺」

瑞希「ねえ」

敦人「うわああ!」

瑞希「なんで、飛び込んでくれたの?」

敦人「なんでって……約束したから」

瑞希「約束守ってくれた人、あなたが始めてよ」

敦人「……これで、成仏できそう?」

瑞希「成仏? 何の話?」

敦人「いや、君って、地縛霊とかで、ずっと海に飛び込むのを繰り返してたんじゃないの?」

瑞希「……なにそれ?」

敦人「へ?」

瑞希「私はただ、飛び込みに素晴らしさをいろんな人に知って欲しくて、勧誘してただけよ」

敦人「……え?」

瑞希「ねえねえ、飛び込みって、楽しいでしょ? 君も飛び込み、やってみない?」

敦人「……勧誘の仕方、間違ってると思う」

終わり。

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