■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
剛志(つよし)
菜緒(なお)
祖父
男性
社員
店主
■台本
ボーンボーンと古い時計が鳴る音。
祖父「この時計はね、おじいちゃんが働いて初めて給料をもらったときに、初めて買ったものなんだ」
剛志「へー。じゃあ、凄い古いものなんだね」
祖父「そうだよ。ずーっと大切に使ってきたんだ。だから今も現役で動いているんだ。だが、それも限界かもなぁ」
剛志「それじゃ、俺が働いて、給料をもらったら、おじいちゃんに新しい時計をプレゼントするよ」
祖父「あははは。そうかそうか。楽しみにしてるよ」
場面転換。
心電図の音。
その音は途切れ途切れで弱弱しい。
医者「親族の方はお別れの言葉をかけてあげてください」
剛志「じいちゃん。なんでだよ。初給料で時計買ってやるって約束だっただろ……」
祖父「……」
心電図の音がピーと鳴る。
剛志「……じいちゃん」
場面転換。
剛志の部屋。
古い時計の音がボーンボーンと鳴る。
菜緒「うわっ! ビックリした。なに、これ?」
剛志「何って、時計だよ」
菜緒「それはわかるんだけど、随分変わった時計だね」
剛志「おじいちゃんの形見なんだ。古いけど、まだ使えそうだから引き取ったんだ」
菜緒「……ちゃんと動くの?」
剛志「動かなくなったら、さすがに処分するさ」
菜緒「……それでなくても剛史は時間にルーズなんだから。この時計を信じて遅刻、なんてことしちゃダメだよ?」
剛志「わかってるって。ちゃんとこれとは別に目覚まし時計を使うさ」
菜緒「それでも遅刻するから心配してるんだよ。試験遅れて単位落とした、なんていったら目も当てられないわ」
剛志「気を付けるって。俺もそこまでバカじゃねーよ」
場面転換。
剛志の部屋。
ボーンボーンと古い時計が鳴る。
剛志「うわっ! ビックリした。……なんで、こんな時間に時計が鳴るんだ?」
ボーンボーンと古時計が鳴る。
剛志「はあ……。目が覚めちまったな。結構早いけど、試験あるし、もう大学行くか」
場面転換。
大学の休憩室。勉強してる剛史。
カリカリとノートに文字を書いている。
剛志「えーと、試験範囲はここまでだな」
そのとき、携帯が着信し、通話ボタンを押す剛史。
剛志「もしもし?」
菜緒「あ、剛史!? 早く家を出て! 電車止まっちゃったって!」
剛志「もう大学だから大丈夫だよ」
菜緒「え? 嘘でしょ! 剛史が早く大学行くなんて……」
剛志「どんだけだよ。それより、お前も急げよ」
菜緒「はいはい。まさか剛史に言われるなんてね」
ビッと通話を切る。
剛志「あの時計のおかげだな。……ありがとう、じいちゃん」
場面転換。
剛志の部屋。
ボーンボーンと古い時計が鳴る。
剛志「うわっ! ビックリした! ……ホント、この時計って、鳴るタイミングがわかんねーな。今日は会社の面接なんだから、もう少し寝かせてくれよ」
ボーンボーンと時計が鳴る。
剛志「はいはい。わかったよ。早く出るよ」
場面転換。
道を歩く剛史。
剛志「やっぱ、早く出過ぎだよなー。面接まで1時間あるぞ。……しゃーねー。喫茶店で時間潰すか」
場面転換。
喫茶店の中。
コーヒーをすする剛史。
剛志「ふう。緊張が和らぐなぁ」
男性「緊張することが何かあるのかい?」
剛志「あ、すみません。うるさかったですか?」
男性「いやいや。この時間に、君みたいな若い人がコーヒーで一服してるのが珍しくてね、つい話しかけてしまった」
剛志「あ、そうだったんですか。いや、俺、9時から、面接があるんですよ。それで、こうやって心を落ち着かせていたんです」
男性「ほう。今は8時前だが、1時間以上も前から来てたというわけか」
剛志「はは。当日は何があるかわかりませんからね。早く着くに越したことはないじゃないですか。重要な日に遅刻するのは不味いですから」
男性「へー。若いのに、リスクヘッジが出来てていて感心だな。うちの若いやつらにも見習ってほしいものだ。奴らやいつも平気で遅刻してくるからな」
剛志「まあ、ギリギリまで寝てたいって気持ちはわかりますけどね」
場面転換。
会社の廊下。
ドアの向こうから声がする。
社員「次の方、どうぞ」
剛志「はい!」
コンコンとノックをする。
社員「どうぞ」
剛志「失礼します」
ドアを開ける剛史。
剛志「あっ!」
男性「おっ!」
社員「社長、知り合いですか?」
男性「ふふ。まあな。どうぞ、座って」
剛志「は、はい、失礼します」
椅子に座る剛史。
場面転換。
剛志の部屋。
ボーンボーンと古時計が鳴る。
菜緒「この時計を引き取ってからよね。剛志が遅刻しなくなったの」
剛志「んー。そうか?」
菜緒「うん。ここぞって重要なときは、絶対に遅刻しなくなった」
剛志「……じいちゃんが見守っててくれたのかも」
菜緒「え?」
剛志「なーんて、冗談だよ」
菜緒「……剛志のおじいちゃん。今までありがとうございました。これからは私が剛志を見ていきますので、もう大丈夫です」
剛志「おいおい、勝手に何言ってんだよ」
菜緒「あ、明日だけはお願いします!」
剛志「だから、大丈夫だって」
菜緒「結婚式に遅刻したら絶対に許さないからね」
剛志「わ、わかってるよ……」
場面転換。
剛志の家。
菜緒「ねえ、剛志。新婚旅行の件なんだけど……」
剛志「パスポートだろ? 大丈夫。申請してあるから」
菜緒「あれ?」
剛志「どうした?」
菜緒「時計、止まってる」
剛志「……ホントだ」
場面転換。
時計屋。
店主「おやおや。随分と古い時計だね」
剛志「……直りそうですか?」
店主「直るもなにも、ただ、ネジを巻けばいいだけじゃろ」
ネジを巻く音と、時計のチッチッチという秒針の音。
店主「な?」
剛志「……あの、このネジって、どのくらいの間隔で巻かないといけないんですか?」
店主「ん? そりゃ、毎日巻かないと。古いんだし、すぐ止まっちまうぞ?」
剛志「……」
店主「どうかしたかい?」
剛志「いえ、何でもないです」
場面転換。
時計を抱えて道を歩く剛志。
剛志「……じいちゃん。本当にずっと俺を見守ってくれてたんだな。……ありがとう。でも、もうホントに大丈夫。これからは自分の力でちゃんと時間を守るよ」
終わり。