この広い世界のどこかで

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
遊星(ゆうせい)
沙奈(さな)
母親
父親

■台本

赤ちゃんポストの前。

赤ん坊「おぎゃあ! おぎゃあ!」

沙奈「……ごめんね。……良い人に育てて貰ってね」

場面転換。

沙奈の家の庭。

木の上でみかんを取ろうとしている遊星。

遊星「うーん……。もうちょっと……」

沙奈「こらー! 何やってるの!」

遊星「あ、見つかっちゃっ……」

ボキッと木の枝が折れる音。

遊星「うわあ!」

ドサと地面に落ちる音。

遊星「うう……」

沙奈がやってくる。

沙奈「……」

場面転換。

沙奈の家の中。

遊星「いてて……」

沙奈「全く……。なんで、みんな、みかん泥棒なんてやるのかしら?」

遊星「……」

沙奈「ほら、氷。頬に当てなさい。少し腫れてるわよ」

遊星「あ、ありがとう……」

沙奈「凄く痛いところとか、気持ち悪いとかない?」

遊星「う、うん。大丈夫」

沙奈「帰ってからも、もし、気持ち悪くなったりしたら、すぐに病院に行くのよ」

遊星「あの……」

沙奈「ん?」

遊星「おばさん、優しいんだね」

沙奈「ぷっ! あはははは。なあに? 急に? 怒られないように機嫌取ってるのかしら?」

遊星「えっと、今、僕の学校で、おばさんの所からミカンを取るっていうのが流行ってるんだ」

沙奈「……それで、しょっちゅう来るのね。でも、なんでミカンなんか取るの? 今なら、ミカンなんて安いし、親に言えば買って貰えるのに」

遊星「……肝試しなんだ」

沙奈「どういうこと?」

遊星「おばさん、凄く怖いから、おばさんからミカンを取ったら凄いって言われてて」

沙奈「ふーん。……私、そんなに怖いかしら?」

遊星「学校だと、鬼のような人って言われてるよ」

沙奈「はあ……。子供って残酷よね」

遊星「……ごめんなさい」

沙奈「あなたが謝ることじゃないわよ。でも、ミカンを盗もうとしたことは悪いことね」

遊星「ごめんなさい」

沙奈「はい。よく言えました」

遊星「……」

沙奈「あなた、今、何歳?」

遊星「え? 10歳」

沙奈「そう……。あの子も、真っ直ぐに育ってくれていると良いんだけど」

遊星「あの子って?」

沙奈「私ね、10年前に子供を捨ててるのよ」

遊星「え?」

沙奈「その頃はね、私、凄く貧乏だったのよ」

遊星「そうなの? こんなおっきい家に住んでるのに?」

沙奈「ここは愛人に買ってもらったものなの」

遊星「愛人?」

沙奈「ふふ。あなたにはまだ早いわ。気にしないで。とにかく、お金に余裕が出来たから、子供を戻してもらおうとしたのよ」

遊星「ダメだったの?」

沙奈「ええ。もう引き取られた後でね。引き取り先を教えてほしいって頼んだんだけど、断られちゃってね」

遊星「……子供捨てたこと、後悔してる?」

沙奈「んー。どうだろうなぁ。正直、10年前は、自分が食べていくのもギリギリだったから。下手したら、子供にかなり辛い思いをさせちゃってたと思う。そう考えたら、ちゃんとした家に引き取られた方が、あの子も幸せだったと思う」

遊星「……子供に会いたい?」

沙奈「そうね。会いたくないって言ったらウソになるわ。……でも、いいの。世界のどこかであの子が元気でいてくれる。それだけで、私は十分幸せだわ」

遊星「いいなぁ」

沙奈「ん? なにが?」

遊星「僕のお母さんも、僕のこと、それくらい好きでいてくれればいいのに……」

沙奈「……お母さんと何かあったの?」

遊星「うん。夏休みの自由研究で、みんなで家系図を作ろうってなったんだけど、お母さんが戸籍なんとかっていうのを、取って来るのを忘れたんだ」

沙奈「……あらら」

遊星「僕だけ自由研究、できなくて……。それで友達からからかわれるようになったんだ」

沙奈「……それで、うちのミカンを盗んで、みんなと仲直りしようとしたの?」

遊星「……うん」

沙奈「お母さんのこと、嫌いになった?」

遊星「……僕、お母さんに大嫌いって言っちゃったんだ。それで、お母さん泣いちゃって……」

沙奈「……ちゃんとお母さんと話してみて。それでごめんなさいって言ってあげて。そしたら、きっと仲直りできるはずだから」

遊星「うん! わかった! じゃあ、おばさん、ありがとう!」

沙奈「あ、ちょっと待って」

遊星「なに?」

沙奈「はい、これ」

遊星「……ミカン。いいの?」

沙奈「これで友達とも仲直りしなさい」

遊星「ありがとう!」

遊星が歩き出すが、立ち止まる。

遊星「あ、そうだ! ねえ、おばさんの子供、なんて名前?」

沙奈「……名前はわからないけど、背中に桜の花びらみたいな痣があったわ」

遊星「わかった! じゃあ、僕、おばさんの子供を探してみるよ!」

沙奈「ふふ。期待しないで待ってるわ」

場面転換。

ガチャリとドアを開ける音。

遊星「ただいま」

すると母親と父親がやってくる。

母親「お帰りなさい……」

遊星「あれ? お父さん? 随分と早いね」

父親「あ、ああ……」

ガバッと母親が遊星を抱きしめる。

母親「……ごめんね。戸籍謄本、取って来なくて」

遊星「ううん。僕もごめんなさい。お母さんのこと、大嫌いだなんて言って」

母親「……」

遊星「僕、お母さんのこと、大好きだから」

母親「う、うう……ありがとう。もう少ししたら、ちゃんと話すから」

遊星「?」

父親「よし! 久しぶりに一緒に風呂入るか!」

遊星「うん! 入る!」

場面転換。

お風呂の中。

父親が遊星の背中を洗っている。

父親「随分と背中、大きくなったなぁ」

遊星「そう?」

父親「ああ。……子供はすぐに大きくなるんだなぁ」

遊星「えへへ。お父さんより大きくなれる?」

父親「ああ、すぐだよ。……って、あれ?」

遊星「どうしたの?」

父親「背中の痣、無くなってるな」

遊星「痣?」

父親「桜の花みたいな痣があったんだよ」

遊星「ふーん。あ、そうだ。今日ね、優しいおばさんに会ったんだ」

父親「へー。どんな人だったんだ?」

遊星「すごく優しくて、話してて安心できて……お母さんみたいな人だった!」

終わり。

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