鍵谷シナリオブログ

英雄になれなかった男

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、童話、シリアス

■キャスト
太郎(たろう)
お静(おしず)
おばあさん
男1~2
鬼1~2
鬼の大将
ナレーション

■台本

ナレーション「昔々、あるところに、体が大きくて、乱暴で、村の人たちからも嫌われている男がおったそうじゃ」

おばあさん「こりゃ! 太郎! また、うちの桃を盗みおって!」

太郎「うるせーな! いいだろ、たくさん生ってるんだからよぉ」

おばあさん「そういうことじゃない! おじいさんが丹精込めた桃をタダで持って行くのがダメなんじゃ!」

太郎「ふーん。じゃあ、ぶっ飛ばして欲しい奴を言えよ。俺がぶん殴ってきてやるからよ。それで、この桃の代金にしてやるよ」

おばあさん「そんな人、いるわけないじゃろうが!」

太郎「……じゃあ、桃、返すよ、ほら」

おばあさん「かじった後じゃないか!」

太郎「しゃーねーだろうが。試食だ試食!」

おばあさん「お前なんか、鬼に食べられちまえばいいんだ!」

太郎「……」

場面転換。

男1「よお、太郎。今日こそは観念してもらうぞ」

太郎「はあ。まったく、毎回毎回、懲りねえなぁ」

男2「うるせー! お前を倒せば、村長から報奨金が出るんだ! 覚悟しろ!」

太郎「しゃーねーなー」

バキ、ボコ、ドカっと太郎が男たちを殴る音。

男1「く、くそぉ……」

男2「うう……」

太郎「じゃあ、また、財布はいただいておくぜ」

男1「こ、今度は絶対に負けないからな!」

太郎「お前らさあ、絶対、報奨金の額よりも俺に取られた金の方が多いぞ」

男2「金の問題じゃねえ。お前を倒して、男を上げるんだ」

太郎「はっ! くだらねー」

歩き去る太郎。

場面転換。

歩いている太郎。

太郎「さてと。懐も温まったし、なんか、美味いもんでも食うか」

ピタリと立ち止まる太郎。

太郎「……ババアに桃の代金でも払いに行くか」

場面転換。

おばあさん「いらん!」

太郎「なんでだよ。人がせっかく、金を払うって言ってんのに」

おばあさん「どうせ、ろくでもない金じゃろ。そんなの受け取れんわ!」

太郎「金は金だろ」

おばあさん「お金は必死に働いて、ようやく得られるものじゃ。悪いことをして得たお金なんか貰ったら、バチが当たるわ!」

太郎「けっ! んなこと言っても、お前らは俺を働かせてくれねーじゃねーか」

おばあさん「お前のような乱暴者、雇えるわけないじゃろうが!」

太郎「……どうしろってんだよ」

場面転換。

川辺。

顔を洗う太郎。

太郎「ふう。イライラしたときは、顔を洗うのが一番だな」

そこに、お静がやってくる。

お静「あ、いたいた。太郎」

太郎「ん? なんだ。ババアの娘じゃねーか」

お静「お静よ」

太郎「なんか用か?」

お静「桃の代金、貰おうと思って」

太郎「ババアはいらねーって言ってたぞ」

お静「受け取れないって言っただけでしょ。お母さんが受け取れないなら、私が受け取る」

太郎「いいのか? 汚れた金だぜ?」

お静「お金はお金でしょ?」

太郎「はは。お前とは話が合いそうだな。ほら!」

金を投げて寄越す太郎。

お静「ん。確かに。……」

太郎「用事は済んだんだろ。行けよ」

お静「ねえ、太郎。こんなこと、いつまで続けるの?」

太郎「あん?」

お静「人から物を奪うなんて、ずっと続けられないでしょ? 年を取って、力が弱くなったらどうするつもり?」

太郎「そんときゃ、野垂れ死ぬさ」

お静「それで満足なの?」

太郎「……」

お静「変わりたいと思わないの?」

太郎「どうしようもねーだろうが。いくら、俺が、心を入れ替えました、なんて言っても誰も信じねー」

お静「そうね」

太郎「だから、しょうがねーんだ」

お静「言葉では信用は得られない。行動で示さないと」

太郎「……どうやってだ?」

お静「……あそこの離れ小島に、鬼の集団がいることは知ってる?」

太郎「知らない奴はいねーだろ。村の奴らも、いつ、自分たちが襲われるかってビクビクしてるしな」

お静「……鬼を退治すれば、村の人たちはあなたのことを見直すと思う」

太郎「はあ? なに言ってんだよ。んなこと、無理に決まってんだろ」

お静「そう。なら、いいわ。無理強いすることではないからね」

歩き出すお静。

太郎「……本当に、生まれ変われるんだよな?」

立ち止まるお静。

お静「……生まれ変わる前に、死んでしまうかもしれないけどね」

太郎「へっ! どうせ、このまま野垂れ死にする運命なんだ。当たって砕けろってな」

場面転換。

海辺。

太郎「じゃあ、行って来る」

お静「……」

お静も船に乗る。

太郎「お、おい! なんで、お前も乗るんだよ?」

お静「私がけしかけたんだもの。見届けてあげるわ」

太郎「危険だぞ」

お静「あなたよりはずっと安全だわ」

太郎「ちっ! 勝手にしろ」

場面転換。

船が島に到着する。

太郎「さてと、行ってくるわ」

お静「……待ってるから」

太郎「帰ってこれないかもしれねーけどな」

歩いて行く太郎。

場面転換。

鬼の城の中。

太郎「おらおらおらおらー!」

鬼「うわあああ!」

太郎が鬼を蹴散らしながら進んで行く。

場面転換。

鬼の大将「よお。偉く暴れてくれたな。お前一人で、こっちはほぼ全滅だ」

太郎「……」

鬼の大将「よし、行くぜ」

太郎「うおおお!」

場面転換。

鬼の大将「はあ、はあ、はあ」

太郎「はあ、はあ、はあ……」

鬼の大将「あははははは! お前、本当にやるな。気に入ったぜ」

太郎「……気に入った?」

鬼の大将「お前の勝ちだ。何が望みだ?」

太郎「……村を襲うことはしないでくれ」

鬼の大将「……いいぜ。元々、狩りでなんとかなるくらいだからな」

そんなとき、鬼が走って来る。

鬼「ボス! 変なガキが、動物を引き連れて攻めてきた!」

鬼の大将「な、なんだと!」

太郎「……」

場面転換。

村。

歓声が沸き上がる。

村人たち「桃太郎! 桃太郎! 桃太郎!」

場面転換。

村の外れ。

太郎「……」

お静「村でお祭りやってるわよ。参加しないの?」

太郎「……生まれ変わり損ねたな」

お静「そうね」

太郎「あーあ。鬼はほとんど、俺が倒したんだけどなぁ。誰も信じねえ」

お静「……そうね。でも……私の中では、あなたは英雄よ」

太郎「ふん……」

ナレーション「昔々、桃から生まれた桃太郎が鬼を退治しました。それは、長い長い間、英雄のお話として、語り継がれましたとさ。めでたしめでたし」

終わり。

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