憎悪するほど愛してる

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
昌行(まさゆき)
優美(ゆみ)
啓子(けいこ)
医者

■台本

病室内。

弱弱しく心電図の音が響く。

啓子「……昌行さん。優美のこと、お願いしてもいい?」

昌行「当たり前だろ」

啓子「優美……。ごめんね」

優美「嫌だよ、お母さん! お願いだから死なないで」

啓子「……幸せに……なってね」

ピーっと心電図の音が響く。

優実「いやあああああああ!」

昌行「……啓子」

場面転換。

昌行の家。

時計の針がチッチッチと鳴る音。

昌行「……あいつ、何やってんだ」

そのとき、ガチャっと玄関のドアが開く音。

昌行「あ、帰ってきた!」

昌行が玄関まで駆けていく。

昌行「おい! 優美! 何やってたんだ、こんな時間まで!」

優美「こんな時間って、まだ9時じゃん」

昌行「まだ、じゃなくて、もうだ! 大体、遅くなるなら、連絡入れろって言って……」

優美「はいはい。わかったわかった」

昌行「いい加減にしろ!」

優美「……」

昌行「お前のこと、心配してるってわからないのか!?」

優美「いいよ。別に心配してくれなくても」

昌行「な、何言ってんだ!」

優美「ウザいんだよね、そういうの」

昌行「っ!?」

パンと、昌行が優美の頬を叩く。

優美「痛いなぁ。あんた、何様!?」

昌行「俺はお前の父親だぞ!」

優美「違うよ」

昌行「っ!」

優美「もういいじゃん。お母さん、死んだんだからさ。さっさと再婚でもすれば?」

昌行「……お前がいるのに、できるわけないだろ」

優美「だーかーら。そういうのがウザいっていうんだよね。あんたの偽善に、私を巻き込まないでくれる?」

昌行「……父親が娘を心配するのが、そんなにいけないことなのか?」

優美「普通だと思うよ。本当の父親ならね」

昌行「……」

優美「あ、そうだ。私、高校卒業したら、就職するから」

昌行「は? お前、大学、どうするんだよ!」

優美「行くわけないじゃん」

昌行「金なら心配ないって言ってるだろ」

優美「違う違う。あんたから早く遠ざかりたいだけ」

昌行「……優美」

優美「晩御飯、食べてきたから。もう寝るから」

歩き出し、ドアを開けて部屋に入っていく優美。

昌行「……」

場面転換。

啓子の遺影の前でお酒を飲む昌行。

昌行「……啓子。ごめん。やっぱり、俺なんかが、父親の代わりなんてむりだったんだ」

お酒をグイっと飲む昌行。

昌行「優美が何を考えているのか、さっぱりわからない。……あいつ、大学行かないってさ」

はあーとため息をつく昌行。

昌行「お前なら、こんなとき、なんて言うんだろうな」

もう一度、グイっとお酒を飲む昌行。

昌行「……俺。もう、あいつのこと……優美のこと……子供だって思うの、無理かもしれない……」

場面転換。

優美の部屋。

昌行のつぶやきが聞こえている。

優美「……ようやく、か」

場面転換。

昌行の家のリビング。

時計の針のチッチッチという音が響く。

昌行「はあ……。今日もか」

すると突然、昌行の携帯に着信が入る。

昌行「お。さすがに今日は連絡してきたか?」

通話ボタンを押す昌行。

昌行「もしもし、優美か。連絡するにしても……。え? す、すぐに行きます!」

場面転換。

病院の病室。

昌行が走ってくる。

昌行「優美! 大丈夫か!?」

優美「……あのさ、大騒ぎしないでくれる? ちょっと貧血起こしただけだから」

昌行「倒れたって聞いたぞ! ……それに、お前、俺に黙ってバイトなんかして……」

優美「言ったら、反対したでしょ?」

昌行「当たり前だ」

優美「だから言わなかったの」

昌行「……」

そこに医者がやってくる。

医者「……患者のお父さんですね?」

昌行「あ、先生。娘は大丈夫なんですか?」

医者「……ちょっと、こちらに来てくれますか?」

場面転換。

別室。

医者「――というわけです」

昌行「……そうですか」

場面転換。

昌行の家。

啓子の遺影に向かっている昌行。

昌行「啓子。俺さ、もう疲れたよ。……ごめんな。お前との約束、破ることになるよ」

場面転換。

昌行の家。

ガチャリと玄関のドアが開く。

優美「(小声で)たただいま……」

靴を脱ぐ優美。

優美「あれ? 今日は来ないな。……さすがに呆れたかな」

廊下を歩く優美。だが、すぐに立ち止まる。

昌行「……優美」

優美「きゃあっ! なっ! なに!?」

昌行「ごめん……。ごめんな」

優美「ちょ、ちょっと。包丁なんて持って、何する気?」

昌行「うわああああああ!」

優美「きゃあああ!」

ドスっと包丁が優美のお腹に刺さる。

優美「ううっ!」

ドサリと倒れる優美。

昌行「……さようなら、優美」

携帯で電話を掛け始める昌行。

場面転換。

病室。

優美「はっ!?」

医者「気付きましたか」

優美「え? ここは……?」

医者「手術は成功しました。拒否反応もないですし、大丈夫でしょう」

優美「えっと、あの……」

医者「あなたの父親から手紙を預かってます」

優美「……いりません。私を刺した人のなんか。それより、逮捕されました?」

医者「父親のおかげで、あなたは助かりました。感謝してあげてください」

手紙を優美の膝の上に置いて、医者が立ち去る。

優美「……手紙?」

手紙を開いて読み始める。

※以降、手紙の内容。

昌行の声「突然、ごめんな。あんなことして。怖がらせたよな。……実はお前の肝臓に癌が見つかったんだ。しかも、末期の。医者にさ、完全移植しかないって言われて……。だから、父さんのを使って貰うことにした。黙っててごめん。でもさ、言ったら、お前、受け取らないだろ? だから、黙ってやった。……お前が黙ってバイトやってた気持ちが、今なら少しわかるよ。そうそう、完全移植には脳死状態じゃないとダメみたいでさ……。闇ルートで薬を手に入れたんだけど……実はちょっと、飲むのが怖いんだ。だけど、優美のことを思えば、そんなの吹き飛んだよ。……ごめんな。お前に父親らしいこと、全然できなかった。だから、せめて、父さんの肝臓を受け取ってくれ。……あと、お前のこと、一人にしちゃうのが、心残りだ。でも、お前のことだから、一人でもしっかり生きてくれるって信じてる。俺はお前の本当の父親じゃなかったけど、ずっとお前のことは本当の子供だと思ってる。これからも、ずっと優美のこと、見守ってるからな」

ポタポタと涙が落ちる音。

優美「……どうして? どうしてよ! 私こそ、何もできなかった! お父さんに……何も。だから、せめて、お父さんには幸せになって欲しいって思って……。私さえいなければいいって……。うあああああ!」

場面転換。

病院前。

医者「退院おめでとうございます」

優美「ありがとうございます」

医者「……これから、一人で大変だと思いますが、頑張ってください」

優美「大丈夫です。お母さんとお父さんが、見守っててくれますから」

終わり。

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