■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
宮田 光喜(みやた こうき)
麻田(あさだ)
真下(ました)
田辺(たなべ)
田中(たなか)
玲香(れいか)
■台本
社内。
カタカタとキーボードを叩く音が鳴り響く。
光喜「……希望。それは諦めない者の前にだけ現れる光。だから俺は、決して希望を諦めない。どんなに絶望が続いたとしてもそれは希望へと続く道なのだ。そう。止まない雨はないのだから……」
麻田「宮田。そういうのは心の中で思うことであって、口に出すものじゃないぞ」
光喜「え? ……俺、口に出してました?」
麻田「うーん。なかなか、極まって来たな。体が意識についてきていない証拠だな」
光喜「大丈夫ですよ。たとえ、意識が飛んだとしても、コードを書く手は止めません」
麻田「うむ。それでこそ、宮田だ。だが、そのせいで、多くのバグを生み出したことも忘れるなよ」
光喜「麻田さん……」
麻田「どうした?」
光喜「いっそ死にたいです」
麻田「お前、さっき、希望を捨てないとかいってなかったか?」
そのとき、ガタンと田中が倒れる。
田中「む、無念……。みんな。後は頼んだぞ……」
真下「田中―! 寝るなー! 寝たら死ぬぞ!」
麻田「田中が逝ったか。まあ、6日連続徹夜だからな」
光喜「……あれ、完全に白目向いてますよね? 逆に寝ないと死ぬのでは……?」
麻田「いや、田中が寝て死ぬのは、俺達だ」
光喜「!?」
光喜が田中の頬をぺちぺちと叩く。
光喜「田中さん! 起きてください! 死ぬなら、リリース後にしてくださいよ!」
麻田「……お前も鬼だな」
田辺「……宮田」
光喜「どうしました、田辺さん」
田辺「俺、リリース乗り切ったら、転職するんだ」
光喜「変な死亡フラグを立てるのは止めてください」
真下「……くそ、手、手が震える。アレが切れた……」
麻田「ほら、レッドプール」
真下「あざっす」
貰ったレッドプールを飲み干す真下。
真下「ぷはー! 目が醒め……ない」
麻田「まあ、あれだけ飲めば免疫が付くだろうなぁ」
光喜「あー。俺も、コーヒー程度じゃお茶濁しにもなりませんね。だから、俺、ペンで太もも刺すようにしてるんですよ。痛みで目を覚ますんです」
麻田「うむ。そのセリフを笑顔で言われると、恐怖を感じるな。お前は既に変態の域に達している」
光喜「麻田さんはすごいですよね。どんなに徹夜を続けても、壊れないですもんね」
麻田「俺はデスマーチを明けた後に、社長からケツに鞭を入れてもらうという報酬が約束されている。それを考えれば、どんな地獄だろうと、俺は耐えられるのさ」
光喜「……麻田さんが、社内で一番の変態ですよね。……って、それはそうと、社長はどこ行ったんですか? こんなデスマーチの最中に」
麻田「出張だよ」
光喜「え? いつの間に行ったんですか?」
麻田「お前が座ったまま、白目で痙攣してたときだよ」
光喜「あー。なるほど。気付かなかったわけです」
田辺「ふふふふ。まだだ。まだ終わらんよ」
光喜「そうですねー。朝までに終わるかも怪しいもんですよ」
麻田「いや、そういう意味で言ったんじゃないと思うぞ」
田辺「うおおおおおお! はああああああ!」
田辺が物凄い勢いでキーボードを打ち始める。
光喜「おおっ! 田辺さんが覚醒した!」
麻田「いや、待て! あいつ、コードの内容が全部、hujikojujiko(ふじこふじこ)になってるぞ!」
光喜「ちょっ! 田辺さん! 壊れるのはまだしも、タスクを増やさないでください!」
田辺「うおおお! 何人たりとも、我の道を塞ぐやつはゆるさーん!」
光喜「うわっ! 田辺さん、暴れないで!」
田辺「うっ!」
ドサリと田辺が倒れる。
麻田「……田辺。お前の死は無駄にはしない」
光喜「……これで、3人になってしまいましたね」
麻田「いや……。真下が座ったまま逝ってる」
光喜「……幸せそうな顔してますね」
麻田「大切な何かが切れたんだろうな」
光喜「……麻田さん」
麻田「なんだ?」
光喜「この世に希望ってあると思いますか?」
麻田「……いいか。宮田。さっき、お前も言っただろ。希望というものは、最後まで捨てなかったやつの前にしか現れないんだ。諦めるな。諦めたらそこで……」
光喜「それ以上は言わなくて大丈夫です」
麻田「……言わせろよ」
光喜「だが断る」
麻田「うわ、自分だけ、ズルいぞ」
光喜「あはははは」
麻田「ふふふふふ」
光喜「さあ、やりますか」
麻田「ああ。面白くなってきた」
場面転換。
朝。
光喜「うおおお!」
エンターを勢いよく押す光喜。
麻田「やったか!?」
光喜「はい! 無事、リリースされました!」
麻田「よっしゃー!」
光喜「よ、ようやく……ようやく寝れますね」
麻田「ああ……」
光喜「今回も、辛い戦いでした」
麻田「だが、俺達はやり遂げた」
光喜「はい……」
麻田「止まない雨はない。そうだろ?」
光喜「希望は最後まで捨てない者の前に現れる、でしたね」
麻田「ふふふ……」
光喜「ははは……」
そのとき、勢いよく、バンとドアが開く。
玲香「諸君、ご苦労だった! 無事、リリースに漕ぎつけたようだな」
光喜「あ、社長、お帰りなさい」
玲香「よくやったな、宮田」
光喜「……社長」
玲香「麻田もな」
麻田「お礼は鞭に込めてください」
玲香「正直に言って、私は感動している。私がいない中、よくやってくれたな」
光喜「……まさか、社長の口から、そんな台詞を聞けるとは思ってませんでした」
玲香「ふふふ。そんな頑張ったお前たちに、私からご褒美を出そう」
光喜「え? ボーナスですか?」
玲香「新しい仕事だ!」
社内が静まり返る。
光喜「俺はそのとき思った。この世には希望なんてなく、絶望しかないのだということを。そして、止まない雨が存在するということを」
麻田「……宮田。そういうのは心の中で思うことであって、口に出すものじゃないぞ」
終わり。