■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
拓海(たくみ)
悠美(ゆうみ)
和葉(かずは)
■台本
レストラン。
向かい合って食事をしている拓海と悠美。
悠美「ねえ、拓海」
拓海「ん? なんだ?」
悠美「今年で何歳だっけ?」
拓海「28だけど」
悠美「私は何歳か知ってる?」
拓海「知ってるも何も、同い年だろ」
悠美「私、30歳までに子供が欲しいって言ったの覚えてる?」
拓海「ああ、そんなこと言ってたな」
悠美「……」
拓海「……」
悠美「なんもないの?」
拓海「なにが?」
悠美「……ふーん」
拓海「……」
場面転換。
会社内。
和葉「拓海くん、ちょっと昼ご飯、一緒にいい?」
拓海「え? あー、うん。……わかった」
場面転換。
定食屋。
和葉「……何が言いたいかわかってる?」
拓海「悠美のことだろ?」
和葉「やっぱり、わかっててはぐらかしてたんだ?」
拓海「……」
和葉「悠美のこと、好きじゃないの?」
拓海「そんなわけ……ないだろ」
和葉「なら、なんで?」
拓海「……東北に転勤になった」
和葉「え?」
拓海「エリアマネージャーになるから、一応は栄転なんだけどな」
和葉「悠美も連れて行けばいいじゃない」
拓海「できるわけないだろ」
和葉「どうして?」
拓海「俺さ、あいつの派手なところが好きだったのかも。あいつは東京っていうか、最新のものがある場所で輝くやつなんだよ」
和葉「……」
拓海「連れてなんて行けないよ。あいつを」
和葉「悠美に言ったの?」
拓海「……ダメだな。俺。あいつと別れなきゃいけないのに、どうしても伸ばしちまってる」
和葉「最低だよ、ホントに」
拓海「……だよな」
場面転換。
家の中。
食事をしている、拓海と悠美。
拓海「あのさ、悠美」
悠美「なに?」
拓海「……俺と別れて欲しい」
悠美「……」
拓海「いきなりで、すまん」
悠美「……ううん。いいんだよ。私も、同じこと言おうと思ってたから」
拓海「え?」
悠美「会社の取引先の人に、結婚を前提に付き合って欲しいって言われたの」
拓海「そ、そうなんだ……」
悠美「その人さ、若いのに部長をやってて、結構、お金持ちなんだよね」
拓海「そっか……」
悠美「ほら、私ってさ、着飾って輝くタイプだから」
拓海「そうだな」
悠美「私は女として、ずっと輝いていたいから」
拓海「……俺もさ、悠美にはそうなっていてほしい」
悠美「明日、ここ、出てくね」
拓海「いや、俺が出てくよ。俺の荷物の方が少ないし」
悠美「そう? 私はあっちの人の家に転がりこんでもいいけど」
拓海「さすがにそれはやめて欲しい……」
悠美「心配してくれるんだ?」
拓海「当たり前だろ」
悠美「……私のこと、もう好きじゃなくなったのかと思った」
拓海「そんなわけないだろ」
悠美「……」
場面転換。
夜。一緒に歩いている拓海と和葉。
和葉「そういえば、まだホテル暮らしなの?」
拓海「ああ。もうすぐ転勤だと思ったら、なんか部屋探すのめんどくてさ」
和葉「ふーん。よく、1ヶ月もホテル暮らしなんてできるわね。私なら無理」
拓海「慣れれば平気だよ」
和葉「転勤、いつだっけ?」
拓海「2ヶ月後」
和葉「……そういえば、悠美のことなんだけど」
拓海「……」
和葉「多分、今日、プロポーズされるかもしれないって」
拓海「ふーん」
和葉「いいの?」
拓海「いいもなにも、あいつとは別れてるからな。文句言う資格はないだろ」
和葉「拓海くんさ、悠美のこと、ずっと輝いてほしいから別れたんだよね?」
拓海「ああ」
和葉「女ってさ、着飾るだけが輝く方法じゃないんだよ?」
拓海「……」
和葉「女が一番輝くのって、好きな人の隣にいるときなんだよ」
拓海「……ごめん」
和葉「ん?」
拓海「用事思い出した」
和葉「そっか。行ってらっしゃい」
拓海「……ありがとな」
和葉「一週間、昼飯驕りね」
拓海「わかった」
走り出す拓海。
場面転換。
ビルの入り口。
悠美がやってくる。
拓海「悪いな。急に連絡して」
悠美「あのさ。この後、食事に誘われてるんだから、手短にね」
拓海「ああ。ちょっと、ここの屋上に付き合ってくれ」
エレベーターのボタンを押す。
エレベーターのドアが開く。
拓海「5階まではエレベーターで行くから」
悠美「ふーん」
エレベーターに乗り込む2人。
場面転換。
エレベーターの中。
悠美「……今日ね、森城ビルのレストランに誘われてるんだよね」
拓海「あの展望台と一体型になってるところか?」
悠美「そうそう。あそこからの夜景は凄くきれいなんだって」
拓海「へー」
悠美「そこのレストランの触れ込みが、100万ドルの夜景だってさ」
拓海「あれ? 100万ドルの夜景って函館とか、香港とかじゃなかったっけ?」
悠美「まあ、いいじゃない。そんな細かいこと。綺麗ならさ」
拓海「そうだな」
悠美「それにね、相手の人、いつか香港の本当の100万ドルの夜景を見せてくれるんだって」
拓海「そっか……」
悠美「私に似合うと思う? 100万ドルの夜景」
拓海「ああ。すごく似合うと思う」
悠美「そっか」
場面転換。
階段を上る2人。
悠美「はあ、はあ、はあ。久しぶりに階段を上るなんて、結構、キツイわね」
拓海「そうだな。俺も、ここまでキツイとは思わなかった」
悠美「……もう、ホント、最低」
拓海「ごめんって。お、着いたぞ」
ガチャリとドアを開けて屋上に出る。
悠美「そういえば、ここの屋上に入っても大丈夫なの?」
拓海「ああ。見つからなければな」
悠美「……」
拓海「ほら、行こうぜ」
歩き出す。
そして……。
悠美「わー、綺麗」
拓海「だろ?」
悠美「……」
拓海「これでもいいか?」
悠美「え?」
拓海「俺さ、お前に、こんな夜景くらいしか用意できない。……それでもさ、俺と一緒になってくれるか?」
悠美「私ね、100万ドルの夜景じゃないと嫌」
拓海「……そっか」
悠美「だから、頑張って」
拓海「え?」
悠美「100万ドルって感じるかどうかは本人次第よ」
拓海「……」
悠美「今ね、私、凄く幸せ。だから、今、ここから見える夜景は100万ドルの価値があるの」
拓海「悠美……」
悠美「私はずっと女として、輝きたい」
拓海「ああ」
悠美「女ってね、好きな人の隣にいるときが一番輝くの。だから、私が輝けるように、ずっと拓海を好きでいさせて」
拓海「……俺もさ、ずっとお前に輝いていてほしい」
悠美「……拓海」
拓海「悠美……」
二人が抱き合う。
終わり。