■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
本里 朱里(もとさと あかり) 24歳
マスター 41歳
遊道(ゆうどう) 52歳
田中(たなか) 34歳
司会 ※年齢、性別自由
■台本
大会会場。
司会「今年のバリスタチャンピオンシップの優勝は……本里朱里さんです」
観客たちから盛大に拍手が巻き起こる。
司会「本里朱里さん、どうぞ、壇上に」
朱里が壇上に上がり、司会の元へ歩いていく。
司会「どうですか? 優勝ですが」
朱里「ありがとうございます。ただ、あまり実感がわいてなくて……。信じられないです」
司会「なるほど。朱里さんはバリスタを目指し始めたのは高校生のときとお聞きしましたが?」
朱里「はい。そうです。喫茶店のバイトをしてたんですよ」
司会「ということは、その喫茶店で色々と教えてもらったということですか?」
朱里「えー……。そうですね……」
朱里の回想。
喫茶店内。朱里が17歳。
朱里「マスター。暇なんですけど」
マスター「だから、朱里ちゃんがもう少し、セクシーな制服を着てくれれば……」
朱里「却下!」
マスター「じゃあ、メイド服で」
朱里「店の雰囲気と合ってないじゃないですか」
マスター「閑古鳥が鳴くよりはマシだよ」
朱里「外で客引きしたらどうですか?」
マスター「それこそ、jkの朱里ちゃんの方がいいでしょ」
朱里「なら、時給上げてくださいよ」
マスター「こんな状況じゃ無理にきまってるでしょ」
コトリとコーヒーをテーブルに置くマスター。
マスター「はい。コーヒー淹れたから、休憩しよう」
朱里「……私、出勤してから休憩しかしてないんですけど」
朱里がコーヒーを啜る。
朱里「苦っ! マスター、砂糖とミルク!」
マスター「はあ。朱里ちゃんの舌は子供だね」
マスターがミルクと角砂糖の容器をテーブルに置く。
朱里「ふふふふーん♪」
朱里がミルクと砂糖をドボドボ入れる。
マスター「ああっ! せっかくのパナマ・ゲイシャがっ!」
朱里「え? これ、いいやつなんですか?」
マスター「かなりね」
朱里「マスターの淹れ方が悪いんじゃないんですか?」
マスター「バリスタ会の神童と言われた私に言う言葉かい?」
朱里「……それ、何十年前の話ですか?」
場面転換。時間経過。
マスター「朱里ちゃん、朱里ちゃん! 大変だよ!」
朱里「どうしたんですか、マスター?」
マスター「バリスタ会の重鎮が、お店に来てくれることになったんだよ!」
朱里「……断る理由を考えないと、ですね」
マスター「なんでだよ!」
朱里「だって、それでなくてもお客さんいないのに、もっと来てくれなくなりますよ?」
マスター「逆、逆! これで一発逆転を狙えるよ。高い、豆、用意しなくっちゃ」
朱里「いつも出してるやつを出さないと意味ないんじゃ……」
マスター「……いてて」
朱里「どうしたんですか?」
マスター「緊張して、お腹痛くなってきた……」
朱里「まずは、その豆腐メンタルをなんとかしないとですね……」
場面転換。時間経過。
マスター「ああ……。そろそろだ。そろそろ来ちゃうよ。どうしよう、朱里ちゃん」
朱里「いや、私に言われても……」
マスター「うう。緊張してお腹痛くなってきた。……朱里ちゃんが淹れてくれないかな?」
朱里「いや、それだと本当に意味なくなりますから」
そのとき、カランカランとドアが開いて、2人の男が入ってくる。
遊道「すみません。連絡していた遊道ですけど」
マスター「ああー! どうも、どうも、お待ちいたしました。こちらの席にお座りください」
遊道と田中が席に座る。
田中「いい雰囲気のお店ですね」
遊道「では、コーヒー2つお願いできますか?」
マスター「ははははい、かしこまりました!」
朱里「緊張しすぎですって」
マスター「朱里ちゃん、席で、先生たちの接待してきてよ」
朱里「……キャバクラじゃないんだから」
場面展開。時間経過。
マスター「ででで、できた。持って行って!」
朱里「早いですね。じゃあ、持っていきます」
マスター「ううー。もうお腹が限界! 苦情言われたら、朱里ちゃんが聞いておいて」
朱里「いやいやいや……」
マスター「お願いね」
マスターが走って行ってしまう。
朱里「もう……。ホント、豆腐メンタルなんだから……」
そのとき、袖にカップをひっかけて、コーヒーをこぼしてしまう。
朱里「あっ! ヤバい! こぼしちゃった! ……どうしよう?」
沈黙。
朱里「あ、あの、すいません。もう少々お待ちいただけますでしょうか」
遊道「ああ、大丈夫。急がなくていいですよ」
朱里「ありがとうございます」
深呼吸する朱里。
朱里「どうしよう? マスターはトイレに入ったら、40分は出て来ないし……。私が淹れ直すしかないか」
戸棚を開ける朱里。
朱里「マスター、どの豆使ってたっけ? あー、もう。適当に混ぜて作るか。カレーとかも、色々混ぜたらコクが出るって話だし」
場面転換。時間経過。
朱里「……お待たせしてすみませんでした」
遊道「はは。いいよいいよ。それじゃ、いただきますね」
田中「私も」
朱里「……」
遊道と田中がコーヒーを飲む。
遊道「んっ!」
田中「これは……」
朱里「あー、やっぱ、ダメか。適当過ぎたかな」
遊道「素晴らしい!」
朱里「え?」
遊道「こんな美味しいコーヒーは飲んだことがない」
田中「いやあ、ビックリしました」
朱里「……」
場面転換。時間経過。
店内は客で賑わっている。
朱里「マスター、コーヒー2つ、お願いします」
マスター「はいよ。……いやぁ。それにしても大反響だね。やっぱり、私の腕は凄いってことだよね?」
朱里「そ、そうですね……」
回想終わり。
壇上。
朱里「……」
司会「それでは、最後にバリスタを目指す若い人たちに一言ありますか?」
朱里「そうですね。みなさん。バリスタは奥が深くて、とても面白いです。でも、そのせいで敷居が高いって思うかもしれません。ですが、そんなことは全然ありません。まずは始めてみましょう。素人が淹れたコーヒーでも意外と美味しかったりするんですよ」
終わり。