■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
アラン 17歳
スティーブ 17歳
ロイ 17歳
スペンサー 36歳
オズワルド 57歳
■台本
アラン(N)「人間の脅威となる生物は総じてヴィランと呼ばれている。そのヴィランの被害が大きくなってきたことから、国王はヴィランを専門的に狩る、ハンターを管理、運営する協会を作った。つまり、ハンターになるためには国の許可が必要なのだ」
オズワルド「いいか、お前ら。アカデミーの卒業はあくまで、基礎的な能力が身に着いた証明するものでしかない。ここから、特別教官による訓練を受けた後の、卒業試験を潜り抜けてこそ、ハンターになれるんだからな」
場面転換。
アラン「はあ……。アカデミーの授業だけでもしんどかったのになあ」
ロイ「問題はどの教官に当たるかだよな」
アラン「どうか緩い教官に当たってくれ」
スティーブ「そもそも、卒業試験に辿り着けるかだよな」
アラン「え? どういうことだ?」
ロイ「訓練で脱落者が出る可能性があるんだよ」
アラン「嘘だろ……」
スティーブ「お願いします、神様! いい教官に当たりますように!」
アラン「うう。ここで10年分くらいの運を使ってもいいので、お願いします!」
ロイ「はあ……。神頼みって、情けないぞ、お前」
アラン「うるさいな。結局、こういうのは運なんだよ、運」
ロイ「あっそ……。じゃあ、俺は明日に備えて寝るわ」
スティーブ「組の発表は明日か。ドキドキして寝れそーにねーな」
アラン「俺も」
場面転換。
オズワルド「……以上だ。では、割り当てられた担当の教官のところへ、各自移動しろ」
ゾロゾロと生徒たちが歩き出す。
アラン「……スペンサー教官か。どんな人なんだろうな」
スティーブ「名前からして、厳しそうだよな」
ロイ「なんだよ、名前からしてって。名前は関係ねーだろ」
アラン「うるせー。お前は女性の教官だからって調子に乗るなよ!」
ロイ「ははは。別に女性の教官だからって優しいとは限らないだろ」
スティーブ「とか言って、顔がにやけてるじゃねーか」
ロイ「そりゃ、暑苦しい男の教官より、女の教官の方がやる気は出るだろ」
アラン「くそー」
ロイ「じゃあ、俺、こっちだから。頑張れよー」
ロイが行ってしまう。
スティーブ「俺も、あっちが良かった……」
そこにオズワルドがやってくる。
オズワルド「おい、お前ら、ちょっと待て」
アラン「はい、なんでしょうか?」
オズワルド「……言っとくが、スペンサーはヤバいぞ」
スティーブ「え?」
オズワルド「スペンサーと言えば、1人で100体のヴィランと戦った英雄だ。もちろん、特訓も厳しいことで有名だぞ。毎年、一人か二人、死人が出る」
アラン「……」
オズワルド「ということだから、気合入れていけよ」
オズワルドが笑いながら去っていく。
アラン「……マジかよ」
場面転換。
スペンサー「……スペンサーだ。よろしく」
生徒たちのゴクリと生唾を飲み込む音が響く。
オズワルド「いいか、お前ら! スペンサーの言うことは絶対だからな! 死んでも遂行しろ」
スペンサー「……先生」
オズワルド「スペンサーは厳しいからな。一切、妥協は許さない! 一瞬たりとも気を抜くなよ! 死ぬぞ」
スペンサー「……」
アラン「……俺、この時点で着いていける気がしない」
スティーブ「俺も……」
スペンサー「(深呼吸をして)いいか、お前ら! まずは訓練場を100周だ!」
アラン「えええー! いや、いきなり100週なんて無理ですよ!」
オズワルド「黙れ! 指示されたら死んでも遂行しろと言ってるだろ! 行け!」
生徒たちがゾロゾロと走り出す。
オズワルド「……よし」
スペンサー「……」
オズワルド「あとは頼んだぞ」
オズワルドがスタスタと歩いていく。
スペンサー「うっ」
場面転換。
スペンサー「おらおらおら! そんなんでへばってんじゃねえ! あと、素振り1000本だ!」
アラン「ひぃ……」
場面転換。
スペンサー「気を抜くなって何度言わせるんだ! さっさと動け!」
スティーブ「……うう」
場面転換。
アランとスティーブがどさりと倒れこむ。
アラン「……生きてるか?」
スティーブ「……なんとかな」
アラン「本当にヤバいくらい厳しいな」
スティーブ「ああ。訓練もつらいけど、訓練中の罵倒もキツイよな。あれで、精神をゴッソリもっていかれる」
アラン「同感」
スティーブ「そういえばさ、気づいたか?」
アラン「なにが?」
スティーブ「スペンサーって、訓練途中に時々、いなくなるんだよ」
アラン「え? そうなの?」
スティーブ「まあ、5分くらいなんだけどな。で、戻ってくるときは青ざめた顔をしてるんだよ」
アラン「……何してんだろうな?」
スティーブ「さあ……」
アラン「……今度、後をつけてみねーか?」
スティーブ「え?」
アラン「もしかしたら、何か秘密を握れるかもしれないだろ」
スティーブ「なるほど」
場面転換。
スペンサー「おらおら! なに、倒れこんでやがる! 立て、おら! 立って、走れ!」
アラン「……くっ」
スペンサー「……う」
スペンサーがこそっとその場を離れる。
アラン「よし、行くぞ」
スティーブ「ああ」
場面転換。
スペンサーが吐いている。
スペンサー「うう……。はあ、はあ、はあ」
アラン「あの、教官?」
スペンサー「あっ! なんでここに?」
スティーブ「……大丈夫ですか? 吐いてたみたいですけど」
スペンサー「……はあ。あの、これ、みんなには内緒にしてて欲しいんだけど」
アラン「なんですか?」
スペンサー「実は僕、人に厳しくするのが不得意なんだ」
スティーブ「ええー!」
アラン「でも、普段、あんなに厳しく……」
スペンサー「あれはオズワルド先生に言われて仕方なく……」
アラン「じゃあ、毎年死者を出してるって言うのは?」
スペンサー「ないない。そんなの嘘だよ」
アラン「でも、なんでオズワルド先生はそんなことを?」
スペンサー「優しすぎると生徒に舐められるからって。でも、厳しくするのは苦手で、胃が痛くなってすぐ吐いちゃうんだよ」
アラン「もう厳しくしなくていいんじゃないんですか?」
スペンサー「え?」
アラン「ばっちり、卒業試験をクリアすればいいんですよね?」
スティーブ「厳しくしなくても、みんなが訓練で技術を身に付けられれば問題ないはずです」
スペンサー「……そっか。確かにそうだよな」
場面転換。
スペンサー「いいかい。ここはこうやって対処すればいいんだ」
場面転換。
スペンサー「休むことも訓練のうちだからね。無理し過ぎはダメだよ」
場面転換。
スペンサー「いいね。そうそう。すごく良くなったよ」
アラン(N)「実はスペンサー教官は褒めて伸ばすタイプだったらしい。訓練も合理的で、無駄がない。……そして、俺たちは全員が無事、卒業試験をクリアできたのだった。スペンサー教官で本当によかった。神様に祈ったのは間違いじゃなかったようだ」
終わり。