■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
七葉(ななは) 17歳 高校生
美菜(みな) 17歳 読モ
美希(みき) 17歳 高校生
女生徒1~2 17歳 美希のクラスメイト
カメラマン 34歳
■台本
七葉(N)「私には憧れている人がいる。その子はいつも自信満々で、気が強くて、時々、意地悪を言ってくるような子だ。でも、私にはわかってる。本当は凄く優しい子なんだって。私はその子に憧れて、近づきたくて、頑張って、ようやくここまで来ることができた。今、私は美菜という名前で読者モデルをやっている」
場面転換。
スタジオ。七葉(美菜)が、プロのカメラマンに写真を撮られている。
七葉(美菜)は読者モデルで、今は新作の服を着ての撮影。
カメラマン「はい、オッケーです」
七葉「ありがとうございました」
カメラマン「美菜ちゃん、最近、また良くなってきたね。なんていうか、自信が増したっていうか」
七葉「本当ですか!? 嬉しいです」
カメラマン「何かあったとか? 例えば恋……とか?」
七葉「あははは。違いますよ。私はただ、憧れの人に近づけるように、いつも努力してるだけですよ」
カメラマン「へー。今やトップ読モの美菜が憧れる人かぁ。興味あるな。誰?」
七葉「ふふふ。秘密です」
場面転換。
学校内。
昼休み内の教室。
周りは騒がしい中、七葉は一人、ポツンと机に座っている。
七葉「……」
そこに美希と女生徒1、2がやってくる。
美希「七葉、何やってるのよ?」
七葉「あ、美希ちゃん」
美希「お昼、一人で食べるくらいなら、こっちの教室に来なさいって言ってるでしょ?」
七葉「……あ、でも。毎日は迷惑かなって」
女生徒1「そうだよ、美希。わざわざ、根暗ちゃんを誘う必要ないじゃん」
女生徒2「そうそう。どうせ、来てもほとんどしゃべらないんだしさ」
美希「別に嫌なら、来なくてもいいけどね」
七葉「い、嫌なんかじゃないよ」
美希「なら、来ればいいじゃない。あんた、友達いないんだからさ」
七葉「……ありがと」
女生徒1「ホント、美希ってお人よしだよね」
七葉(N)「私が憧れているのは、美希ちゃんだ。本当に可愛くて、自信に溢れていて、実は優しい。そんな美希ちゃんのようになりたくて、私は頑張ってきたのだ。読モをやってるときは、美希ちゃんをイメージしてキャラ作りをしている。美希ちゃんになりきることで、陰気な私が読モなんて出来てるんだと思う。美希ちゃんは私の恩人なのだ」
場面転換。
美希(N)「私には憧れている人がいる。その人は綺麗で、自信たっぷりで、明るくて、そして優しい。いつか、私もああいうふうになりたいって思っている」
休み時間の教室内。
女生徒1「ねえ、美希。なんで、あの根暗ちゃん……七葉だっけ? をそんなに気にするの?」
美希「……根暗だから、かな」
女生徒2「なにそれ?」
美希「私たちの学校って、1年から2年になるときにクラス替えないじゃない?」
女生徒1「変わってるよねー」
美希「で、今は9月。2年になって半年近く経つのに、友達の一人もいないのよ、あの子。そんな子、他に知ってる?」
女生徒1「あー、うん。確かに誰でも一人くらいは友達いるもんだよね」
美希「別に、あの子が友達作りたくなくて一人っていうなら、良いのよ」
女生徒2「まあ、友達欲しそうにしているよね。いつも」
美希「でも、どうしていいのかわからない。ただそれだけなのよ」
女生徒1「でもさ、だからって美希が友達になってあげる必要はないんじゃないの?」
美希「あの子、意外と根は明るい子だと思うのよね。そうだとしたら勿体ないと思わない?」
女子生徒2「美希は七葉と友達になりたいの?」
美希「正直に言うとね、どうでもいいのよ」
女子生徒1「え? そうなの?」
美希「私はね、ずっと憧れてる人がいるの。その人みたいになりたいなって思ってるんだ」
女子生徒2「へー。そんなの初めて聞いた」
美希「……その人ならさ、きっと七葉を放っておかないって思う。だから、私はあの子を放っておけない……」
場面転換。
美希(N)「あれはちょうど1年前くらいだっただろうか……」
アパレルショップ内。
美希「……なによ、好きな人が出来たって。もう、ムカつく。絶対に見返してやるだから! ……あ、この服、良い感じ」
美希が手を伸ばすと他の人も一緒のタイミングで手に取る。
美希「あっ!」
美菜「あ……」
美希「……わ、私の方が先でしたよ」
美菜「そうですね。どうぞ」
美希「……どうも」
美希が歩き出そうとする。
美菜「あの……」
美希「なんですか? やっぱり譲れないとか?」
美菜「いえ、どうしたのかなって」
美希「え? ……あ、ヤダ。もしかして、涙の痕ついてる?」
美菜「はい」
美希「……でも、あなたもついてますよ、涙の痕」
美菜「え? あっ……。お揃いですね」
美希「私は男にフラれたの。あんたは?」
美菜「私は……モデルの応募に落ちちゃって。これで30回目なんです」
美希「ええ? そんなに応募してるの? 凄いね」
美菜「そんなことないですよ。私なんか、全然です」
美希「ううん。凄いよ。普通、そこまで落ちたら諦めちゃうもん」
美菜「……ただ、諦めが悪いだけですけど」
美希「それでも続けられるっていうのは武器だと思うよ」
美菜「……ありがとうございます。実はもう辞めようかなって思ってたんです」
美希「頑張りなよ。勿体ないって。あんた、可愛いんだから」
美菜「そんな! 美希ちゃんの方がずっと可愛いですよ。だから、きっとすぐにもっといい人が現れます」
美希「あはははは。ありがと。あのさ、あんた、もっと自分に自信持ちなよ。一般人なんかに負けるわけないってさ」
美菜「そこまでは思えないですけど、自信持てるように頑張ってみます」
美希「うん、頑張って!」
美希(N)「その日から、何気なくファッション雑誌のモデルに目が行くようになった。そしたら、徐々に、あの子を目にするようになった。そしたら、あれよあれよと、あの子の人気が上がっていき、ついにはトップ読モって言われるようになっていた。今のあの子の笑顔からは自信が満ち溢れている。そして、明るくて優しい笑顔。いつの間にか、あの子は私の憧れになっていた……」
場面転換。
放課後の教室。
ガラガラとドアが開いて、女子生徒1が入ってくる。
女子生徒1「あれ? 美希、まだ残ってたの?」
美希「あー、うん、ちょっとねー」
女子生徒1「また、その雑誌見てるの? 飽きないの?」
美希「……憧れの人が載ってるからね」
女生徒1「あ、そう言えば、そんなこと言ってたね。どの人? 美希が憧れてるのって」
美希「この人」
女生徒1「えーと、美菜って子?」
美希「そう。私の憧れの人」
終わり。