俺の黒歴史

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
奏斗(かなと) 41歳 会社員
莉子(りこ) 41歳 奏斗の妻
唯(ゆい) 15歳 奏斗の娘

■台本

リビング。

唯「そういえばさ、お父さんとお母さんって、幼馴染だったんだよね?」

奏斗「んー? ああ、そうだな」

莉子が歩いてくる。

莉子「あなた。何言ってるのよ。高校の時に一緒のクラスになったのが切っ掛けでしょ」

奏斗「えー? そうだったか? 小学校の夏休みに海に一緒に行っただろ」

莉子「……誰と勘違いしてるの?」

奏斗(かなと)「あれ?」

唯「まさか、お父さん、二股かけてた?」

奏斗「そんなわけないだろ! 小学生だぞ」

莉子「……まあ、仮に二股かけてたとしても、小学校のときだから時効ってことにしてあげるわ」

奏斗「いやいや。そもそも、お前の話だと、小学校のときは出会ってないってことになるんだろ? それなら二股は無理だろ」

莉子「……まあ、そうね。じゃあ、当時付き合ってた子、とか?」

奏斗「いや、そんなはずはないんだけどなぁ」

唯「ねえ、高校の時のお父さんって、どうだったの?」

奏斗「ん? まあ、普通だったぞ。普通過ぎて、クラスじゃ目立たなかった方だ」

莉子「……はあ。あなた、何言ってるのよ」

奏斗「え?」

莉子「あなた、結構、有名人だったじゃない。いい意味でも、悪い意味でも」

奏斗「ええ? そ、そうだったか?」

莉子「確か、全国読書感想文のコンクールで、3年連続金賞とかもらってたでしょ」

奏斗「……あー、言われてみるとそんなこともあったようななかったような……」

莉子「忘れたの? 学校にも取材きてたじゃない」

奏斗「……そうだったか?」

唯「ねえ、お母さん。悪い意味の方は?」

莉子「お父さんはね、文系の成績は凄くいいのに、運動がビックリするくらいダメでね。確か、100メートル走も小学生に負けて、泣いてたじゃない」

奏斗「はああ? んなわけねーだろ。いくら俺でも小学生に負けるかっての」

莉子「記憶から消したい気持ちもわかるけどね。あと、喧嘩でも小学生に負けてたよね」

奏斗「おい、話を盛るなよ」

莉子「はいはい。そういうことにしておいてあげるわ」

唯「お父さんはお母さんになんてプロポーズしたの?」

奏斗「え? プロポーズなんてしてないよな? 母さんが父さんに惚れてたんだよ」

莉子「……はあ。男って、ホント見栄っ張りよね。それとも記憶が混じっちゃったのかしら?」

奏斗「どういうことだよ?」

莉子「大学卒業した時、私は遠くの会社に就職が決まって、あんたが行かないでくれ、俺が養うからって泣いて止めたんじゃない」

奏斗「……いやいやいや。それはない」

莉子「あら、ごめんなさい。子供の前でバラされたら、居心地悪いもんね」

莉子が行ってしまう。

奏斗「本気にするなよ」

唯「えー、でもすごくお父さんっぽいエピソードだったよ」

奏斗「……そうか? あんなの全部、お母さんの作り話だぞ」

唯「ホントに? お母さんの話の方がリアルっぽかったけど。……もしかして、お父さん、自分の思い出の記憶をいいふうに書き換えたんじゃないの?」

奏斗「はははは。そんな馬鹿なことあるわけないだろ」

場面転換。

物置を掃除している奏斗。

奏斗「ごほごほごほ……。ったく、埃っぽいな。おーい! 今年は、物置は掃除しなくていいんじゃないか?」

遠くから莉子の声がする。

莉子「何言ってるの! 毎年そう言ってるじゃない。今年は絶対に掃除して!」

奏斗「はあ……。年末に大掃除するなんて、誰が言い出したんだ、まったく」

ガサガサと整理を始める奏斗。

段ボールを見つける。

奏斗「なんだ、この段ボール?」

段ボールを開ける奏斗。

奏斗「……あれ? これ、俺の? ノートなんてなんで取ってあるんだ?」

ペラペラとノートをめくる音。

奏斗「えーと……」

ここからノートに書かれている物語の内容。

奏斗の声「俺はなんの変哲もない高校生。だけど、それは表の顔で、裏の顔は実は違う。学校内の様々な事件を解決する、高校生探偵だ」

莉子の声「ねえ、奏斗。今日はどんな依頼がきてるの?」

奏斗の声「こいつは俺の幼馴染で、助手の莉子。小学校の頃、二人で海に出掛けて、莉子が溺れたのを俺が命をかけて助けたときから、俺に惚れてるみたいだ」

莉子の声「奏斗、聞いてるの?」

奏斗の声「ああ。すまない。今日の事件は体育の教師が女子生徒にセクハラしてるって件だ」

莉子の声「それは許せないわね。どうやって調査するの? ……私が囮になる?」

奏斗の声「馬鹿言うな。お前の身体に触らせるわけないだろ」

莉子の声「奏斗……」

奏斗の声「証拠はそろえてある。あとはあいつに突き付けるだけだ」

莉子の声「気を付けてよ。前みたいに逆上して襲い掛かってくるかもしれないだから」

奏斗の声「ははは。心配するなよ。この前だって、余裕で勝てただろ?」

莉子の声「うん……。そうだったね」

奏斗の声「今回も俺が勝つ」

莉子の声「……うん。信じてるからね」

パンと、ノートを勢い良く閉じる音。

奏斗「はあ、はあ、はあ……。こ、これ……高校の時に書いてた小説だ。なんで、俺の黒歴史がこんなところに? ……まさかあいつ」

奏斗が段ボールにノートを仕舞い、奥の方へ置く。

奏斗(N)「……どうやら、娘の言う通り、俺は思い出の記憶を書き換えていたようだ。よりによって、黒歴史である自分の小説の内容と。しかもノートがここにあるってことは、妻にも見られているということだ。……くそ。恥ずかしい。俺は一体、このあと、妻と娘にどんな顔をして会えばいいんだろうか……」

終わり。

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