鍵谷シナリオブログ

贅沢な嫉妬

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
アニメ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ジャック
ジェイムズ
店主

■台本

ジャック(N)「あいつは天才だった。俺がどんなに努力しようとしたところで、追いつけない。……追いすがるのがやっとだ。そんなあいつは、俺に対して、いつも苦笑しながら言う……」

ジェイムズ「お前が羨ましいよ」

ジャック(N)「バカにしている。俺を見下している。そう思うだけで、憎悪が溢れ出す。だからこそ、俺はどんなに絶望的でも、歩む足を止めないのだ」

場面転換。

ドアが開き、店にジャックが入って来る。

店主「よお、ジャック。調子はどうだ?」

ジャックがテーブルの上にドンと戦利品を置く。

ジャック「鑑定頼む」

店主「おお。こりゃまた大量に持ってきたな。どれどれ」

袋を開けて、中をごそごそと漁る店主。

店主「なぬ! お前、これ! スノードラゴンのカギ爪じゃねーか。しかも、レアものの!」

ジャック「ああ。それ、レアものだったのか」

店主「はあ……。まったく。お前ってやつは。大体、スノードラゴンを一人で狩ったなんていったら、大抵は村の英雄に祭り上げれるくらいなんだぞ」

ジャック「興味ない。それに、英雄なら、もう既にいる。村だけじゃなく、世界のな」

店主「ジャック……。ジェイムズは別格だ。稀代の天才。いや、史上最高、空前絶後の素質だ。そんなやつと比べるのはよせ」

ジャック「おやっさんはさっさと鑑定して、金だけ出してくりゃいい」

店主「ったく……。世の中、どうしようもないことは、どうやっても覆らない。割り切った方が楽だぞ」

ジャック「……」

場面転換。

ジャックが剣の素振りをしている。

ジャック「ふっ! ふっ! ふっ!」

回想。

店主「ったく……。世の中、どうしようもないことは、どうやっても覆らない。割り切った方が楽だぞ」

回想終わり。

ジャック「……わかってるさ。わかってるけど……」

ジェイムズ「よお、ジャック。精が出るな」

ジャックが素振りを止める。

ジャック「……ジェイムズ」

ジェイムズ「聞いたぜ。一人でスノードラゴンを狩ったんだってな。すげえじゃん」

再び、素振りを始めるジャック。

ジャック「ふん。お前なんか、10歳で倒してただろうが」

ジェイムズ「まあ、そりゃそうだけどさ。大抵の人間は10人が束になっても勝てないんだ。それを一人で勝つっていうのはすげー……」

ビュンと剣をジェイムズに向けるジャック。

ジャック「嫌味か?」

ジェイムズ「……違うよ。本気でそう思ってるんだ」

ジャック「……ふん」

再び素振りを始めるジャック。

ジェイムズ「前にさ、俺、お前に羨ましいって言ったことあるだろ?」

ジャック「……」

ジェイムズ「あのとき、お前は怒ったけどさ。俺は今でもその想いは変わらない」

ジャック「ふざけるな。俺なんかの、何が羨ましいって言うんだ? 俺が持ってるいる者で、お前が持っていないものなんて、何もないだろ」

ジェイムス「……そんなことはないさ」

ジャックが剣を地面に叩きつける。

ジャック「俺にあって、お前にないものなんて、なにがある!? 俺は、お前に追いつこうと必死に努力してきた! だが、それがどうだ!? お前に追いつくどころか、背中さえ、見えない!」

ジェイムズ「それなんだ」

ジャック「なにがだ?」

ジェイムズ「お前は会うたびに強くなっている。見違えるほどな」

ジャック「それでも、お前の足元に及ばない」

ジェイムズ「ジャック。そこだ。そこなんだよ」

ジャック「……」

ジェイムズ「俺は天才だと言われ続けてきた。実際、そうなんだろう。みんなができないことも、俺は容易にできる」

ジャック「……」

ジェイムズ「だがな。俺のピークは15までだ。それ以降は、俺は全く強くなっていない」

ジャック「……そう、なのか?」

ジェイムズ「ああ。……極めてしまったんだろうな。10年以上、足掻いてみたが、ダメだった。どうやっても今以上には強くなれないんだ」

ジャック「……」

ジェイムズ「だからさ。だから、お前が羨ましいんだ。これからも強くなれる、お前が」

ジャック「それでも、お前に届かなくても、か?」

ジェイムズ「強くなる。それが、身を震わせるほど楽しいことはお前だってわかってるはずだ」

ジャック「……」

ジェイムズ「俺は強くなりたい。今よりも。それができる、お前が本当に、狂おしいほど羨ましいんだ」

ジャック「ふん……。そんなのは贅沢な嫉妬だ」

ジェイムズ「……俺から言わせれば、俺みたいになりたいなんて思う方が、贅沢な嫉妬だ」

ジャック「……」

ジェイムズ「……」

ジャック「ふっ。ふふふふ」

ジェイムズ「あはははあははは」

二人が大笑いする。

場面転換。

ジェイムズ「じゃあな。これからも強くなってくれ。……もしかしたら、お前への嫉妬に負けて、お前を殺しに来るかもしれないけどな」

ジャック「ああ。そのときは返り討ちにしてやる」

ジェイムズ「……楽しみだ」

ジャック「じゃあな」

ジェイムズ「ああ」

ジェイムズが去っていく。

ジャックが剣を手に取り、素振りを始める。

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

モバイルバージョンを終了