■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブストーリー
■キャスト
拓(たく)
愛梨(あいり)
■台本
拓(N)「愛梨に出会ったのは、桜が咲き始めた頃のことだった」
場面転換。
道で、うずくまって泣いている愛梨。
愛梨「う、うう……」
そこに通りかかる拓。
拓「……」
通り過ぎようとするが、立ち止まる。
拓「……余計なお世話かもしれないけど、こんな遅い時間に一人でいるのは危険だぞ」
愛梨「……余計なお世話」
拓「あっそ……」
歩き出そうとする拓。
だが、愛梨のお腹が盛大に鳴る。
拓「……」
愛梨「……」
拓「……余計なお世話かもしれないけど、飯、食うか?」
愛梨「食べる」
拓「……余計なお世話じゃないんだな」
場面転換。
拓の家。
部屋の中にいる拓と愛梨。
愛梨がカップラーメンをすすっている。
拓「……あのさ」
愛梨「(食べながら)なに?」
拓「なんで、飯奢ってやるって言ってんのに、俺んちでカップ麺なんだよ?」
愛梨「こんな顔でお店に入れるわけないでしょ」
拓「こんな顔って、どんな顔だよ?」
愛梨「泣いて化粧落ちて、目が真っ赤で、顔が腫れぼったくなってるでしょ!」
拓「あっそう……」
ズルズルと愛梨がラーメンを食べる。
拓「……あのさ」
愛梨「なに?」
拓「普通、さっき会ったばっかりの男の家に入るか?」
愛梨「あんたが、ご飯奢ってくれるって言ったんでしょ?」
拓「だから、店で食べようって言ってんのに」
愛梨「それだと、食べ終わった後、行く場所ないじゃん」
拓「……っ!? おまっ! うちに泊まる気かよ?」
愛梨「遅い時間に一人だと危険なんでしょ?」
拓「いや、今の状況も、かなり危険だと思うぞ」
愛梨「……あんたが? はっ(鼻で笑う)」
拓「うわっ! 感じ悪!」
愛梨「ま、あんたに襲われたなら、それまでの女だったってことよ」
拓「全然、カッコよくないからな、そのセリフ」
拓(N)「結局、その日は、愛梨がベッドを使い、俺はキッチンの隅で厚着をして寝ることになった。……まあ、寝れなかったんだけども。そして、愛梨は次の日、あっさりと家から出て行ったのだった。……別に何かを期待してたわけじゃないけど、あまりにもあっさりしていたので、なんていうか、恩知らずって思っただけだ」
場面転換。
拓が歩いていると、後ろから愛梨が走って来る。
そして、後ろから拓に抱き着く愛梨。
愛梨「拓―!」
拓「おわあ! ビックリした!」
愛梨「あはははは」
拓「……」
愛梨「いやあ、探したよー。やっぱ、この道通るよね」
拓「……探した? なんで?」
愛梨「いや、だって、鍵ないし」
拓「鍵? なんの?」
愛梨「家の」
拓「……おい、待て。お前、その荷物って……」
愛梨「ん? 私の私物。友達のとこにおいてたったのを取りに行ってたの」
拓「おまっ! 一緒に住む気か?」
愛梨「嫌なら、出てっていいよ」
拓「なんで、俺が出てかなきゃならないんだよ!」
拓(N)「出て行くとき、あっさりしていたのは、単に荷物を取りに出て行っただけだったらしい。とにかく、愛梨に押し切られるような形で、俺たちは一緒に住むようになった……」
場面転換。
歩いている拓。
そこに愛梨が駆け寄ってくる。
愛梨「拓―」
拓「お、愛梨か。式、終わったのか?」
愛梨「結局、来てくれなかったね」
拓「……行けるわけないだろ」
愛梨「なんで?」
拓「あのなぁ。俺はお前の親じゃないんだぞ。卒業式なんかに出たら、ヘタすると通報されるだろうが」
愛梨「うーん。保護者枠で来ればいいじゃん」
拓「……保護者枠って」
愛梨「あ、そうだ。卒業のお祝いに、今日は美味しいもの食べようよ。奮発するよ」
拓「……俺が払うのに、お前が奮発するって言うな」
愛梨「あははは」
拓(N)「保護者。そう。愛梨にとって、俺は単なる保護者なのだ。今年で愛梨は成人する。そうなれば、家も借りられるはずだ。……そのときは出来るだけの支援はしてやろうと思う」
場面転換。
拓が歩いている。
拓「……お? 愛梨だ」
拓が早足で愛梨に追いつく。
拓「お疲れ」
愛梨「あ、拓」
拓「どうだった? 初出勤は?」
愛梨「……辞めたい」
拓「早過ぎだろ」
愛梨「あーあ。転職したいなぁ」
拓「早過ぎだろ」
愛梨「よし! じゃあ奮発して美味しい物を食べよう!」
拓「……はいはい。初出勤記念か」
愛梨「うーん。違うよ」
拓「え?」
愛梨「確かに、今日は記念日だけど、初出勤記念日じゃないんだなぁ」
拓「どういうことだよ?」
愛梨「あれれ? 覚えてない?」
拓「……あっ」
拓(N)「そうだ。今日は、愛梨に出会った日」
愛梨「そう。さよなら記念日」
拓「……は?」
愛梨「彼氏と別れた日なんだ」
拓「……そっか」
拓(N)「愛梨にとっては、俺と出会ったことよりも、元彼と別れたことの方が重要なことらしい」
拓「……だから、泣いてたのか」
愛梨「そゆこと」
拓「そっか。……じゃあ、美味いもん食って、パーッと忘れるか」
愛梨「ううん。忘れない。忘れたくないよ」
拓「……」
愛梨「だって、すごく大切な記念日だから」
拓「そう……だよな」
愛梨「さよなら記念日がなかったら、私の恋は始まらなかったから」
拓「え?」
愛梨「さよなら記念日は、出会い記念日でもあるからね」
拓「……」
愛梨「さよならがなかったら、拓と出会えなかった。だから、私にとってさよなら記念日はとっても大切な日」
拓「……愛梨」
愛梨「あ、どうせだったら、結婚記念日にもしちゃう?」
拓「(咽る)……ば、バカ言うなよ!」
愛梨「えー! なんで? 責任取ってくれないの?」
拓「なんの責任だよ!」
愛梨「あははは。じゃあ、今日はさよなら記念日で、出会い記念日で、付き合った記念日ってことで!」
拓「……ったく」
拓(N)「この後、俺たちは一緒に多くの記念日を迎えることになる。愛梨に振り回され続けながら」
終わり。