【オリジナルドラマシナリオ】鬼の住む島①

【オリジナルドラマシナリオ】鬼の住む島①

人物表

温羅   (23)  温羅一族の王子
阿曽   (22)  村長の娘
難波 宿禰(25)  吉備地方の氏族

猿鬼   (14)  流れ者の傭兵
新羅   (25)  温羅一族の生き残り
空羅   (25)  温羅一族の生き残り

円    (23)  村の男

賢狼   (?)  神の一族 狼の化身
狼    (8)  賢狼の子供

おばあさん(65)  阿曽の世話役

その他

○  シーン1
ナレーション「この国が、日本と呼ばれるようになる、遥か以前の話。大和という一つの国が統一を目指して、動き始めていた」

タイトルコール『鬼の住む島』

○  シーン2
 製鉄所。
 轟々と火がうねりを上げている。
 温羅が鋼を金槌で打っている。
 そこに新羅がやってくる。

新羅「長。鋼の出来を見て欲しいのですが」

 手を止めて鋼を見る温羅。

温羅「……うん。いい出来だ。これなら、どんな土も掘り起こせる、立派な鍬になる」
新羅「長。差し出がましいとは思いますが、そろそろ村を離れてはいかがでしょうか? 船も完成していることですし」

  そこに空羅がやってくる。

空羅「余計なお世話だぞ。新羅」
新羅「……(ため息)空羅」
空羅「いつ出発するかは、長である温羅が決めることだ」
新羅「空羅はお気楽でいいですね。……長。あなたは一族の運命を背負っています。それをお忘れなく」
温羅「……ああ」

  キジの黄がバサバサと羽ばたく音。
  温羅たちの前に降り立つ。

空羅「お? 黄じゃねえか。どうした?」
黄「(甲高く鳴く)」
温羅「なにっ!」
新羅「どうしたのですか?」
温羅「村が賢狼に襲われているそうだ」
新羅「賢狼に? 何故です?」
温羅「分からない。皆はここに残ってくれ」

  走り出す温羅。

新羅「待ってください、長。危険です!」
空羅「長! 忘れ物」
温羅「え?(立ち止まる)」
空羅「丸腰で戦う気か? ほら、草薙!」

  草薙の剣を温羅に向かって投げる。

温羅「(受け取って)行ってくる(走る)」
新羅「空羅! あなたって人は!」

  温羅の足音が遠くなっていく。

○  シーン3
 村の人々が悲鳴をあげて逃げ惑っている。
 その後ろでは賢犬が声を高らかに吠えている。
  そんな賢狼の前に一人の女性が立ちはだかる。

阿曽「賢狼様、お待ちください。どうして村を襲うのです?」
円「阿曽、ここは危険だ。逃げよう」
阿曽「……円様。いいのです。私は村の長として、逃げるわけにはいきません」
円「……しかし」

  賢狼が吠えるのを止め、ジッと阿曽を睨みつける。

賢狼「なぜ村を襲うのか、だと?」
阿曽「私たちの村と、あなたたち狼の一族は長年、共に生きてきたではありませんか」
賢狼「……そうだ。貴様らと我々は、この地で生を共にしてきた。お互い領地には干渉せず、災害があれば協力もしてきた」
円「そうだ。なのに何故、村を襲う?」
賢狼「ふざけるなっ! 先に裏切ったのは貴様ら人間の方ではないか」
阿曽「……鋼の件ですか? 確かに元になる鉄を取るために山を削ります。ですが、それ以上に木を植えて……」
賢狼「違う! そのことではない」
阿曽「では、なぜ……?」
賢狼「ほう……。知らないフリをするか。我が一族を……。息子を殺しておいて、そんな言葉を発するか」
阿曽「息子を殺し……? そんなはずはありません。何かの間違いです」
賢狼「黙れ! 手違いがあったとしても息子が殺されたのは事実。お主らもそれ相応の覚悟を見せなければ納得がいかん」
円「なにっ!」
阿曽「……生贄を差し出せってことですか?」

  低く唸り声をあげる賢狼。

阿曽「生贄を差し出せば許していただけるのですか?」
賢狼「少なくても息子を殺した人間を見つけるまでは待ってやる」
阿曽「分かりました。それでは私を殺してください」
円「阿曽! ……何を言ってる」
阿曽「その代り、すぐに村から立ち去っていただけますね」
賢狼「……いい覚悟だ。せめて苦しまぬよう、一撃で仕留めてやる」
円「ま、待て! 賢狼」

  賢狼が牙を剥き、阿曽に迫りくる。

阿曽「(つぶやくように)……温羅様」

  高い金属音が響き、そして、沈黙。

阿曽「……あっ、温羅様」

  賢狼の牙を、剣で防いでいる温羅。

温羅「阿曽、大丈夫か?」
阿曽「私は生贄なんです。もう覚悟は決まってます。だから……」
温羅「話は聞こえていた。だが、阿曽がそんなことする必要はない」
阿曽「でも……」
温羅「賢狼よ、聞いてくれ。必ず真相は確かめる。だから生贄なんて無意味なことは止めてほしい」
賢狼「……」
温羅「ここで阿曽を殺しても、息子は生き返らない」
賢狼「なるほど……。確かに貴様の言うことは正しい」
温羅「では、この場は引いていただきたい」
賢狼「……正しいからといって理性を抑えられるものでもない」
温羅「引いてくれないのか?」
賢狼「人間風情が! 我と対等のつもりか」
温羅「あなたとは戦いたくない。だが、大切なものを守るためなら仕方がない」
賢狼「神の一族と人間の格の違いを思い知らせてやる」

  獰猛な声をあげる賢狼。

温羅「阿曽。下がって」
阿曽「でも……」

  その場に、新羅と空羅がやってくる。

新羅「ここは長の言う通りに……」
空羅「そうそう。心配いらないって」
阿曽「新羅様、それに空羅様も……」
温羅「うおおお」

  温羅が賢狼に向かって走る。
  温羅と賢狼の戦いが繰り広げられる。

阿曽「すごい。賢狼様と互角……」
空羅「やっぱり長は飛び抜けてるよな。いくら鋼の武器を使ってるっていってもよ」
阿曽「鋼の武器……ですか?」
新羅「我々の創る鋼には、特別な力が宿っています。持つだけで、使う者の身体能力を何倍にも引き上げることができます」
空羅「今、長が持っている草薙は、さらに特別だからな」
新羅「神々の一族はもちろん、鬼に堕ちた者だって斬ることができます」
阿曽「鬼に堕ちた者? どういうことです?」
温羅一族の男「おーい。新羅、空羅」
空羅「あっ、みんな」

  温羅一族の男たちが走ってくる。

温羅一族の男「長は? 無事か?」
新羅「(ため息)まったく。皆さんは鍛冶場で待つように言ったはずですよ」
温羅一族の男「数人置いてきたから火は落ちないさ。それに、お前らに言われたくない」
新羅「わ、私は長を守るのが役目ですから」
温羅一族の男「俺たちも同じだ。長に何かあったら取り返しがつかないからな。いざとなったら俺たちも戦うさ」
空羅「あっ、鋼の武器持ってきたのかよ? 長に怒られるぞ」
温羅一族の男「怒られるくらいで、長の命が救えるなら何回だって怒られるさ」
空羅「鬼に堕ちたって知らねえぞ」
新羅「(呆れて)皆さん心配しすぎです。見てください。決着ついたみたいですよ」

  賢狼が低いうなり声をあげて、倒れる。
  肩で大きく呼吸をする温羅。

賢狼「ぐうう……。殺せ」
温羅「できれば、このまま山に帰ってほしい」
賢狼「ふざけるな。人間の情けは受けん」
温羅「必ず真相を確かめることを約束する。だから、この場は引き下がってくれないだろうか?」
賢狼「……我を愚弄する気か」

  その時、草むらから狼が出てくる。

狼「母上!」
賢狼「出てくるでないっ!」
温羅一族の男「長、もう話し合いは無理だ。弱っている今なら、鋼を使わなくても賢狼と子供を始末できる」
温羅「何を馬鹿なことを……」
賢狼「……奪うと言うのか……(怒り狂って)我が子を! 再び!」

  賢狼が吠え、温羅に襲いかかる。

阿曽「温羅様!」
新羅「長!」
空羅「長ぁ!」
温羅「むっ……」
温羅一族の男「長、危ない!」

  男が飛び出し、賢狼の頭に剣を突き立てる。

賢狼「ぐ……、う……」
狼「母上!」
賢狼「逃げ……るのだ」
狼「母上、母上ぇぇぇ!」

  賢狼がガクリと倒れ、絶命する。

狼「(温羅を睨んで唸る)」
温羅「頼む。山に帰ってくれ。……母親の分まで生きるんだ」

  狼が遠吠えを上げて、走り去っていく。

温羅「……くそっ」
温羅一族の男「あ……、ああっ。俺……」
温羅「(駆け寄り)大丈夫か!」
空羅「しっかりしろ。気を強く持て!」
新羅「駄目です。……鬼に……堕ちる」
阿曽「え?」
温羅一族の男「う……ううっ。か、体が熱い」
温羅「諦めるな! こらえろ!」
温羅一族の男「ぐぅ……ああっ!」
阿曽「(呆然として)体が……青くなって……」
新羅「長。無理です。鬼に堕ち始めたらもう止められません」
阿曽「どういうことですか?」
空羅「鋼は神の金属って呼ばれるほど凄い力を持ってる。けど、その力を使って生き物を殺すと……」
新羅「天罰が下るのです」
阿曽「……」
新羅「鋼に宿る力が体に侵食し始め、理性や感情を奪っていく。それで、ただ暴れるだけの化け物となります。それが……鬼」
空羅「こいつ。さっき、長を守る為に鋼の剣で賢狼を殺しちまった……」
阿曽「……そんな」
温羅一族の男「ぐ……、ぐがああああ!」
阿曽「でも、温羅様を助ける為に仕方なく……」
空羅「ダメなんだよ……」
新羅「理由は関係ないんです。鋼で生き物を殺すと誰であろうと鬼へと堕ちる」
温羅一族の男「お……長。は、早く。俺の意識が……残って……いる……うちに」
温羅「く、くそ……」
阿曽「どうしたらいいんですか?」
新羅「鬼に堕ちてしまったら殺すしかありません。放っておいたら村人まで襲うようになりますからね」
温羅一族の男「長! 早く!」
温羅「……わかった」

  温羅が剣を抜き、構える。

阿曽「温羅様の剣も鉄ですよね?」
空羅「大丈夫だ。あの剣……草薙だけは特別なんだ。純粋な、清流のような澄んだ心で斬った場合、鬼に堕ちないんだ」
新羅「逆に言うとあの剣以外では鬼は斬れません」
空羅「……長、辛そうだな」
新羅「鬼に堕ちたといは言っても、一族の者ですからね。仕方ありません」
温羅「……すまない」

  温羅が温羅一族の男を斬る。
  一族の男が倒れる。

温羅「……」
阿曽「……温羅様」

○  シーン4
  松明の火が、細々と燃えている。
  その松明を持った、円がコソコソと歩いている。
  立ち止まり、扉をノックする。

円「宿禰様。私です。円です」
宿禰「……入れ」
円「はい」

  円が扉を開けて、部屋の中に入る。
  そして、宿禰の前に座る。

円「いかがだったでしょう?」
宿禰「見事なものだ。鋼とやらは、たいそうな力を持っているようだな」
円「鋼のおかげで、農作物の収穫量も随分と増えました」
宿禰「神の眷属と互角……いや、それすら凌駕する力。ぜひとも欲しい」
円「あの……うまくいった暁には……」
宿禰「分かっている。あんな小さな村などくれてやる。私の目的は大和を我が手中に収め、王となることだからな」
円「ありがとうございます」
宿禰「で? 子供とはいえ、よく神の眷属を殺すことができたものだな。お前も鋼の武器を使ったのか?」
円「いえ……。賢狼の一族とはいえ、しょせん子供。眠らせてから、青銅の槍で一突きでした」
宿禰「……ほう。眠った状態では神通力も使えぬか」
円「……そのようで」
宿禰「円。お主はなかなか使える。どうだ? 私の部下にならないか?」
円「……私ごときが無理でございます。私は、あの村さえもらえれば……」
宿禰「ふん。つまらぬ男だな。あんな小さな村で満足するなど」
円「……」
宿禰「まあ、よい。下がれ。夜が明け次第、すぐに行動を起こす。準備を急げ」
円「はっ。失礼します」

  円が部屋から出ていく。

宿禰「……鋼か。面白い」

○  シーン5
 フクロウの鳴く声。
 湖畔にぼんやりと座っている温羅。

温羅「……」

  そこに、阿曽が歩いて来る。

阿曽「眠れないんですか?」
温羅「阿曽……」
阿曽「今宵は、月が綺麗ですね」
温羅「……」
阿曽「私、この村が大好きです。捨て子だった私を拾ってくれた村長。明るく、陽気な村の人たち。……そして」
温羅「……」
阿曽「温羅様も」
温羅「……阿曽」
阿曽「この村を救ってくれて、ありがとうございました」
温羅「俺もこの村が好きだよ。遠い百済の国から落ち延びた俺たちを何も言わず受け入れてくれた、この村が」
阿曽「温羅様たちが来てくれてから、私たちは飢えることもなくなりました。本当に温羅様たちには感謝しています」
温羅「製鉄の技術は人を幸せにするための技術。俺たちの先祖はそう信じて、この技術を磨き続けてきた。だから俺は……この技術を……一族を途絶えさせるわけにはいかない」
阿曽「村を出て行かれるのですか?」
温羅「もう少し暖かくなったら、国に戻ろうと思う。一族の生き残りが他にもいるかもしれないし。……もう一度百済を復興させる。それが俺の使命なんだ」
阿曽「そう……ですか」
温羅「阿曽も……」
阿曽「え?」
温羅「一緒に……」
阿曽「村長だったお父様が亡くなった今、私が村の長です。私は……村を」
温羅「……すまない。今、言ったことは忘れて欲しい。そもそも、阿曽を危険な旅に連れていけるわけがない……」
阿曽「温羅様!」

  阿曽が温羅の胸に飛び込む。
  温羅が阿曽を抱きしめる。

阿曽「ずっと……このまま季節が止まって欲しいです……」
温羅「……」
阿曽「……温羅様」
温羅「阿曽は永遠の国というのを信じるか?」
阿曽「……永遠の……ですか?」
温羅「俺の国の伝説だよ。桃源郷と呼ばれるその国では住む人間は年をとることもなく、永遠に幸せに過ごすことができるんだ」
阿曽「桃源郷……。すてきな話ですね」
温羅「そこでは桃という果実が咲き乱れていて、甘い香りが国を包んでいるそうだ」
阿曽「モモですか? 聞いたことがないです」

  温羅が立ち上がる。

温羅「見に行こう。この村に来た時、苗を植えたんだ」
阿曽「はい」

  歩き出す、温羅と阿曽。

○  シーン6
 温羅と阿曽が、森の奥にやってくる。
 二人が立ち止まる。

温羅「これが、桃の木だよ」
阿曽「……これが」
温羅「もう実が生りはじめてる。見てごらん」
阿曽「本当に、甘い香りがするんですね」
温羅「この果実は、神の果実とも呼ばれているんだ」
阿曽「神の果実……ですか?」
温羅「桃の木は大地の力を吸収して、その力を実に宿すんだ。そうして実った桃には不思議な力が宿る」
阿曽「……」
温羅「この実に、男の爪と女の髪を埋め込むと子供が生まれるという伝説があるんだ」
阿曽「え? 子供が?」
温羅「ああ。だから、神の果実なんて呼ばれているんだよ」
阿曽「すごいですね」
温羅「……阿曽。君の髪を一本……もらえないか?」
阿曽「え?」
温羅「君の髪と俺の爪をこの実に埋め込む。伝説通りに、もし子供が生まれたら、俺の国に連れて行こうと思う。君を連れて行くことはできないけど、俺と君の子供を連れて行く」
阿曽「温羅様……」
温羅「君のことは絶対に忘れない。君との絆が欲しいんだ」
阿曽「私も絶対に温羅様のことを忘れません」

○  シーン7
 製鉄所。
 轟々と火がうねりを上げている。
 鉄を打つ音が、鳴り響く。

新羅「長。夜、どこに出かけていたんですか?」
温羅「散歩さ。ちょっとした気分転換だよ」
空羅「(ニヤニヤして)阿曽ちゃんと一緒にか?」
温羅「……」

  その時、村人が走ってくる。

円「温羅さん、大変だ。村に兵士が大勢攻めてきた」
温羅「兵士……。一体、どこの?」
円「大和の国を名乗ってる。降伏しないと村を焼き払うって……。今は何とか阿曽が話し合いをしているけど……」
空羅「長、戦おう。丁度、鋼も鍛え終わってる。鋼を使えば勝てるさ」
新羅「……馬鹿なことを。また、一族から鬼を出す気ですか」
空羅「大丈夫だって。殺さなければいいんだろ? 力を見せれば逃げていくさ」
温羅「俺も、その大和の兵と話をする。皆はここに残っていてくれ」
新羅「長! いけません」
温羅「大丈夫だ。降伏さえすれば攻めてはこない」
円「こっちだ。来てくれ」
新羅「村のことは我々に関係ありません。長がそこまでする必要はないはずです」
温羅「すぐに戻る」

  円に連れられて、温羅が走っていく。

○  シーン8
 村長の家。
 宿禰と向かい合っている阿曽。

阿曽「望みはなんでしょうか?」
宿禰「そう緊張するな。我々はなにも無駄に殺しをしたいわけではないのだからな」
阿曽「小さな村を、大勢の兵で囲んでいるようなお方を信じろと言うのですか?」
宿禰「鉄に興味があるのだよ」
阿曽「鉄……ですか?」
宿禰「神の眷属と互角に渡り合える武器と聞く。それがどうしても欲しいのだ」
阿曽「鉄は人を幸せにするためのものです。人を殺すなんて……」
宿禰「今、この国には多くの豪族が存在し、それぞれ国や村を形成している。だが最近、豪族の中に他の国を滅ぼし、勢力を広げる輩が増えてきた」
阿曽「その話と鉄、どう関係あるのですか?」
宿禰「この村、今は平和だがいつ豪族の兵士が攻めてくるか分からないぞ」
阿曽「今のあなたたちのように、ですか?」
宿禰「はっはっは。気の強い女だな。(指で阿蘇の顎を上げて)……それに美しい」
阿蘇「お離しください」
宿禰「ふん、まあいい。こちらは一人も殺すつもりもないし、この村を支配するつもりもない。ただ、鉄が欲しいだけだ。鉄を使い、他の豪族の国を一つに束ね、巨大な国家を創る。争いを無くす為にな」
阿曽「その国家というものを創るために、多くの人が犠牲になるのではないですか?」
宿禰「犠牲は大勢出る。だが、それは一時だけの間だ。国家を創りあげた後は争いはなくなる」

  その時、扉が勢いよく開く。

温羅「それは違う。国をさらに大きくするために戦い続ける。人は、そういうものだ」
宿禰「ふむ。それも一理ある。戦いは続くかもしれぬ。だが、国の中では争いはなくなる。この村も配下に入れば他の国から攻められることはなくなるのだぞ」
温羅「……」
宿禰「貴様が温羅だな? 賢狼に打ち勝ったという……」
温羅「……」
宿禰「要件を言おう。こちらに鋼を作る技術を渡してもらいたい」
温羅「断る」
宿禰「……ほう」

  宿禰が、温羅の方に歩み寄る。

宿禰「(小声で)鋼と村人全員の命。どちらが大切だ?」
温羅「なっ!」
宿禰「(小声で)鋼の技術を渡せば村には手を出さん。だが、もし断れば、この小さな村は消えてなくなる」
温羅「……貴様」
宿禰「話が長くなりそうだ。こちらの砦に来てもらおう。その方が話も進むだろうしな」
阿曽「温羅様!」
温羅「大丈夫。すぐに戻ってくるよ」
宿禰「ついて来い」

  宿禰と温羅が家から出ていく。

阿曽「……温羅様」

ナレーション「しかし、温羅は数日たっても戻ってくることはなかった」

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