料理漫画の展開のように
- 2023.07.04
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
美香子(みかこ) 17歳
綾里 達人(りょうり たつひと) 10歳
誠治(せいじ) 17歳
女の子1~2 17歳
■台本
美香子(N)「明日は2月14日、バレンタインデー。片思いの女の子にとっては一年で一番大切な日であり、勝負の日なのだ」
場面転換。
学校の廊下。
美香子が女の子友達と歩いている。
女の子1「ねえ、美香子は今年、どうするの?」
美香子「え? なにが?」
女の子2「誠治くんに、チョコ渡すのかって、話」
美香子「い、いや。別に私は……」
女の子1「そんなこと言って。このまま告白できないで終わってもいいの?」
美香子「……」
女の子2「渡すだけ渡してみたら? その反応を見て、告白するか決めればいいじゃない」
美香子「……そっか。うん、そうだよね。今年は頑張って、チョコをあげてみようかな」
女の子1「うん、それがいいよ!」
場面転換。
家のキッチン。
美香子「ってことで、やっぱりあげるなら、手作りがいいよね。……えっと、まずは買ってきたチョコレートを湯煎で溶かして、と」
スマホを見ながら、チョコを作り始める美香子。
だが、その時、バンとドアを開けて、達人が入って来る。
達人「美香子姉ちゃん、そんなんじゃダメだよ!」
美香子「え? 達人くん?」
美香子(N)「綾里達人くん。隣に住んでる、小学生の男の子。両親が飲食店を経営していて、時々、そこでお手伝いをしているらしい」
達人「好きな人にチョコをプレゼントするんだろ?」
美香子「え? なんで、それを?」
達人「明日はバレンタインデーで、そんなにチョコを大量に買ってるのを見れば、誰だってわかるって」
美香子「うっ! そっか……」
達人「どうせ、渡すなら手作りでって思って、そんなにチョコを買ってきたんでしょ?」
美香子「ははは……。そこまでお見通しか」
達人「でもさ、美香子姉ちゃん。それって、本当に手作りって言えるのかな?」
美香子「え?」
達人「結局それって、市販のチョコを溶かして、ただ形を変えただけじゃん」
美香子「えっと……。まあ、そうかもしれないけど……」
達人「手作りっていうなら、これから作らないと!」
ドン、ザラザラザラとテーブルの上に豆が置かれる音。
美香子「こ、これって……」
達人「カカオ。チョコレートの原料さ」
美香子「いや、でも、私、カカオからチョコレートを作る方法なんて知らないよ」
達人「大丈夫。僕がしっかりと教えるから」
美香子「ホント!?」
達人「ああ。本当の手作りのチョコレートなんて、美香子姉ちゃんくらいしか用意してないよ。貰った相手はこう思うね。『俺のためにここまで時間をかけて本物を作ってるれるなんて』って」
美香子「そうだよね! じゃあ、まずはどうすればいいの?」
達人「豆の選定から。形が良い奴と匂いが強い奴を選ぶんだ」
美香子「ええー。面倒くさい」
達人「あのねぇ。そういう手間が良い料理を作る条件なの」
美香子「そ、そうだよね。わかった。頑張る」
場面転換。
美香子と達人がカカオ豆の選定をしている。
美香子「お、終わったー!」
達人「ふう。2人で3時間か。まあ、まずまずだね。じゃあ、次は……」
美香子「えー、次もあるの?」
達人「当たり前だろ。っていうか、ここからが本番なんだから」
美香子「げー……」
達人「次はカカオ豆をローストする」
美香子「ローストってことは焼くの? うちに、器具とかないけど」
達人「大丈夫。今は、小型のカカオ豆焙煎器っていうのが売ってるんだ。こういうやつね」
美香子「……カカオ豆もそうだけど、どこにそんなの持ってたの?」
達人「これに、カカオ豆を入れて、中火でゆっくりと焼いていく」
美香子「……無視された」
達人「ここのコツは、焙煎機を左右に回すように振ること。こうすれば、ムラができないんだ」
美香子「わー、いい香りしてきた」
達人「でしょ? で、焼きあがったら、冷ます」
場面転換。
達人「冷まし終わったら今度は殻を剥いていくよ」
美香子「うう……。これも面倒くさい―」
達人「好きな人に美味しいチョコをあげたいんでしょ?」
美香子「そっか! そうだよね! よし、頑張る!」
場面転換。
美香子「うー! やっと終わった」
達人「うん。いいね。じゃあ、次はすり鉢で粉になるまですり潰していく」
ゴリゴリとすり潰す音。
美香子「ううー。これ、結構、力いるね」
達人「頑張って、美香子姉ちゃん」
美香子「えい、えい、えい……」
ゴリゴリとすり潰していく音。
場面転換。
美香子「どう? これでいい?」
達人「うん。ばっちり! 次は湯煎しながら砂糖を入れていく」
美香子「砂糖ね。えっと、砂糖砂糖っと……」
達人「ダメだよ、美香子姉ちゃん。普通の砂糖なんて使うのは」
美香子「え? でも、うちには普通の砂糖しかないよ?」
達人「大丈夫。僕が持ってきた。和三盆糖(わさんぼんとう)」
美香子「和三盆糖?」
達人「日本で有名な高級砂糖だよ」
美香子「えええー!」
達人「美味しい料理を作るのは最高の材料が必要なのさ」
美香子「……すごい本格的になってきたなぁ」
達人「ほら、美香子姉ちゃんぼーっとしてないで。湯煎して砂糖を入れながら混ぜて」
美香子「ううー。また混ぜるの?」
場面転換。
美香子「どう? すごいチョコレートっぽくなったけど」
達人「うん。いいね。ちょっと味見してみようか」
美香子「どれどれ(ペロ)。ん! 凄い美味しい!」
達人「(ペロ)……」
美香子「どうしたの?」
達人「これじゃ、ただ、甘くて美味しいだけだ」
美香子「……それじゃダメなの?」
達人「ひねりが足りない。こんなんじゃ、勝てない」
美香子「……誰に?」
達人「……ミルクを入れてコクを出す? いや、ダメだ! 安易過ぎる!」
美香子「そ、そうかな?」
達人「はちみつ……。いや、深みが出るかもしれないけど、インパクトが足りない」
美香子「……達人くん、熱くならないで」
達人「考えろ! あるはずだ! もっと、インパクトがある甘みを出す方法が」
美香子「……」
場面転換。
美香子の寝息が聞こえる。
美香子が寝ている横で、達人が試行錯誤をしている。
ガシャンとボウルを弾き飛ばす。
達人「ダメだ! くそ!」
美香子「ふえっ! ……え? 達人くん、まだやってたの? って、テーブルの上、凄いことになってるね」
達人「どうしてもいい案が出ない……」
美香子「まあまあ、少し休憩しようよ。お母さんがスイカ買ってあるって言ってたから食べよ?」
達人「スイカ? 季節外れもいいところだね」
美香子「ははは。だから安かったんじゃないかな。甘さが足りない分は、塩をかけて甘みを追加すれば、ね?」
達人「塩で甘みを追加……。それだ!」
美香子「え? なに? 塩を入れるの?」
場面転換。
学校の校舎の隅。
美香子「せ、誠治くん、これ、バレンタインのチョコレート。手作りなんだ」
誠治「へー。凄いな。……溶けると勿体ないから、今食べてもいいか?」
美香子「うん。今食べてもらった方が嬉しい」
誠治「じゃあ、いただきます」
パクっと食べる誠治。
誠治「うっ!」
美香子「……」
誠治「なんだこりゃ、辛い!? チョコで辛いって……。いや、待て。そこから甘みが押し寄せてくる……。凄いな! あえて辛さを感じさせることで、甘さというものを引き立ててる」
美香子「う、うん。そうなんだ」
誠治「けどさ」
美香子「え?」
誠治「……普通のチョコの方が好きかな。俺は」
美香子「そ、そうだよね……」
美香子(N)「やっぱり現実は、料理漫画の展開のようにはいかないようだ」
終わり。