伝説の魔導士

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ

■キャスト
テオ
ライリー
試験官
ゴードン

■台本

山道を歩く音。

そして、立ち止まる。

テオ「……着いた」

ゴクリと生唾を飲み込む音。

テオ「よし、行くぞ……」

扉を開ける音。

テオ「……あ、あの! 僕は魔術師のテオと言います! 大魔導士、ライリー様はいらっしゃいますでしょうか!?」

テオが叫ぶように言うが、返事はない。

テオ「……いらっしゃらないのだろうか」

すると後ろでバタンとドアが自動的に閉まる。

テオ「ひゃっ!」

テオが悲鳴を上げるが、館内は静まり返っている。

テオ「……お、おじゃまします」

テオが館内を歩き始める。

場面転換。

ドアの閉まる音。

テオ「はあ……。ここにもいない。一体、どこにいるんだろ? 留守なのかな?」

そのとき、ドアが開く音がする。

テオ「……え?」

ライリー「ん?」

テオ「……あ、あの」

ライリー「うわあ! なんだ、お前はーーー!」

場面転換。

コポコポとカップにお茶を注ぐ音。

そして、トレイを持ってテオの座るテーブルに持って行くライリー。

テオの前にカップを置くライリー。

ライリー「いやあ、すまなかったね、驚かせてしまって」

テオ「あ、いえ。こちらこそ、勝手に入ってしまって、すみませんでした」

ライリー「ここにはあまり、人が来ないからな。すっかり油断してたよ」

テオ「……えっと、実は疑問に思っていたことがあって」

ライリー「なんだい?(お茶をすすって)」

テオ「ライリー様なら、様々なお城や宮殿からお誘いがあると思うのですが……」

ライリー「うむ。まあ、20年前までは凄かったな。けど、断り続けたら、今はこの有様だ」

テオ「なぜ、誘いに乗らなかったのですか?」

ライリー「テオくんと言ったか。魔術師が……いや、人間が生き

ていくために、もっとも必要なものはなんだと思う?」

テオ「え? えーと……強さ、でしょうか?」

ライリー「ははは。なるほど。まあ、確かに強ければ生きるのに不自由はないかもしれないな」

テオ「はい」

ライリー「だが、人間というものは衰えというものがある。いつまでたっても、強いままでいられる人間は存在しないだろう?」

テオ「あ、確かに……」

ライリー「いいかい。人間の世界で生きていくために、もっとも必要なのは、分を弁えることだ」

テオ「……分を、ですか?」

ライリー「ああ。身の丈を超えたことをしようとしても、しっぺ返しをくらう。世の中、そういうものだよ」

テオ「……はあ」

ライリー「これが、さっきのテオくんの質問の答えだ」

テオ「……え? いやいや、ちょっと待ってください。ライリー様は世界に名を轟かせた大魔導士ですよ。どんな好待遇でも足りないくらいだと思うのですが……」

ライリー「テオくんは勘違いをしているな」

テオ「勘違い、ですか?」

ライリー「確かに、私は大魔導士と言われている。……が、大魔導士だからと言って、一番強い魔導士とは限らない」

テオ「……どういうことですか?」

ライリー「どんなに優秀な魔導士でも、名を轟かせる前に死んでしまっては意味がない」

テオ「それはそうですけど……」

ライリー「逆に言うと、生きてさえいれば、名を轟かせる確率が上がっていく。そうだろ?」

テオ「ライリー様も、そうだったということですか?」

ライリー「ああ。私は私が臆病で凡才だと知っていた。だから、名を轟かせることができたんだよ」

テオ「……どういうことでしょうか?」

ライリー「簡単な話だ。強そうな魔物に遭えばすぐ逃げる。旅に出るときは、より強い人間と一緒にする。これを徹底してきた。……で、最終的には、あの伝説の勇者カインと一緒に旅ができたというわけさ」

テオ「……」

ライリー「カインと一緒にいれば、それだけで名が轟くからね。しかも、カインや他の仲間が強い魔物を倒してくれる。私はその補助をしていればいい。それだけさ」

テオ「……それでも」

ライリー「ん?」

テオ「それでも、凡人では勇者カインと一緒の旅なんてできないと思います! ライリー様だって、十分天才なのではないでしょうか?」

ライリー「うーん。天才ねぇ。……王都では、まだ、魔術師試験をやっているのかい?」

テオ「え? あ、はい」

ライリー「テオくんはどう? 試験クリアした?」

テオ「は、はい……。一回で」

ライリー「ほぉー。そりゃすごい。なら、テオくんの方が、私より才能は上だな」

テオ「そ、そんなこと……」

ライリー「今となっては、知らない人間も多いかもしれないが、私は六回もかかったんだよ。試験に受かるのにね」

テオ「ろ、六回? ライリー様が、ですか?」

ライリー「今も残ってるかな? 高速詠唱試験」

テオ「はい。あります」

ライリー「あれがどうも苦手でね。いーっつも、そこで引っかかって、落ちるんだ」

テオ「そんな……。高速って言っても、通常の2倍くらいの早さですよね?」

ライリー「どうしても、噛んじゃうんだよ。で、噛まないようにしたら、今度は遅いって言われて、失格さ」

テオ「で、でも、最後には試験突破できたということですよね?」

ライリー「私は考えたんだ」

テオ「……なにを、ですか?」

ライリー「このままなら、私は一生、試験を突破できないと、ね」

テオ「……」

ライリー「そこで、私はある策を打つことにした」

テオ「策……ですか?」

ライリー「ああ……」

回想。

試験官「よし、次の試験者、入って来い」

ゴードン「よ、よろしく……お願いします……」

試験官「……高速詠唱の試験なのはわかっているよな?」

ゴードン「はい……」

試験官「まあいい。始めろ」

ゴードン「あー、えー。黄昏より……いでし者よ。混沌……と……古(いにしえ)の力を示し……」

試験官「ああー。もういい! なんだ、そのスピードは? 舐めてるのか!? 失格!」

ゴードン「すみません」

のそのそと出て行くゴードン。

試験官「次!」

ライリー「よろしくお願いします」

試験官「今度はお前か。大丈夫か?」

ライリー「今度は自信があります」

試験官「そうか。では始めろ!」

ライリー「古よりいでし者よ。混沌と古の力を示し、我との契約より、全てを闇に落とせ!」

試験官「……ほう。なかなかやるな。よし、合格!」

回想終わり。

テオ「……それって」

ライリー「タネは簡単。俺の前に、物凄い遅い奴に試験を受けさせることで、その後に受ける私の速度が相対的に早く感じるんだよ」

テオ「……ず、ズルいですね」

ライリー「ははは。そうさ。私はズルいのだよ。だから、大魔導士になれた。そして、私は自分がズルいのを知っている。だから、宮廷なんかで働いたらボロが出るのさ。だから、断り続けたんだ」

テオ「……」

ライリー「テオくん」

テオ「はい」

ライリー「馬鹿正直に、努力するだけが道じゃないぞ。あはははははは」

テオ「……」

終わり。

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