酔拳の極意
- 2024.02.19
- 映像系(10分~30分) 退避

■概要
人数:5人
時間:20分
■ジャンル
ドラマ、現代、シリアス
■キャスト
ワンジュン
シャオウェイ
リーヨン
メイリン
店主1~2
■台本
〇街中
ワンジュンがキョロキョロと、道行く人たちの顔を見ながら歩いている。
ワンジュン「……」
すると、出店が並んでいるところから声が聞こえる。
店主1「やあ、リーヨン。今日はいい魚が獲れたんだ。持って行きなよ」
その声に反応して、声がした方向を見る。
すると店主と何かを話しているリーヨンの姿が見える。
店主2「リーヨン。うちもいい野菜が手に入ったんだ。持って行ってくれよ」
リーヨン「ありがとう。でも、いつも悪いよ」
店主2「何言ってるんだよ。あんたはこの町の英雄だ。何か恩返しをさせてくれよ」
店主2がそう言うと、周りが同調して、「そうだそうだ」と声を上げる。
リーヨンは困ったような表情をする。
そこに現れる、ワンジュン。
ワンジュン「お前がリーヨンだな? ちょっと面貸せよ」
店主1「おい! なんだ、お前! リーヨンに失礼だぞ!」
店主2「どうせ、名を上げようって輩だろ? リーヨン、相手することはないさ!」
ワンジュン「……」
ギロリと店主1と店主2を睨むワンジュン。
店主1と店主2が青ざめた顔をしてそっぽを向く。
ワンジュン「なあ、英雄さんよ。来てくれるだろ?」
リーヨン「……わかりました」
〇空き地
周りには誰もいなく、ワンジュンとリーヨンだけが向かい合っている。
ワンジュン「感謝しろよ。大勢の前で恥をかかせるのは避けてやったんだからな」
リーヨン「……」
ワンジュンが構えるとリーヨンも構える。
しかし、リーヨンは普通の拳法の構え。
ワンジュン「おい! 得意の酔拳はどうした?」
リーヨン「……」
構えを変えようとしないリーヨン。
ワンジュン「ふん。俺には酔拳を使うまでもないってか? ……は!」
ワンジュンが攻撃を仕掛ける。
なんとか避けるリーヨン。
ワンジュン「ほら、ほら、ほら!」
リーヨン「っ!」
ワンジュンとリーヨンの攻防。
ワンジュンが押している。
そして、リーヨンは防戦一方。
ワンジュン「はっ!」
ワンジュンの一撃がリーヨンの胸に入り、リーヨンが吹っ飛ぶ。
ワンジュン「わかっただろ? 酔拳を使え。じゃないと俺には勝てない」
リーヨン「……」
リーヨンは立ち上がるが、構えは変えない。
ワンジュン「っ!」
怒りの表情のワンジュン。
物凄い勢いで攻撃を繰り出す。
連続でワンジュンの攻撃を受けるリーヨン。
〇屋台
酒を飲んでいるワンジュン。
バンとテーブルを叩く。
ワンジュン「くそ! なんなんだ! 俺が最強だと世の中に示すために出てきたのに……。あんな腰抜け野郎が英雄だと? 冗談じゃない! ……おい、親父、お替り!」
店主3「飲み過ぎじゃないですかね?」
ワンジュン「うるせえ!(バンとテーブルを叩く)」
店主3「……」
黙って、酒を出す店主3。
ワンジュン「ふん!」
そのとき、遠くから声が聞こえてくる。
メイリン「リーヨン。本当に大丈夫なの?」
リーヨン「平気さ。今日は付き合うって約束だったからね」
ワンジュンが目を見開き、振り向く。
メイリンとリーヨンが並んで歩いているのを見つける。
立ち上がり、2人の目の前に立ち塞がるワンジュン。
ワンジュン「へー。2、3日は立ち上がれなくしてやったつもりだったけどな。大した回復力だ」
メイリン「だ、誰よ、あんた」
ワンジュン「悪かったよ。さっきは、酒がなかったのに酔拳を使えだなんて言ってよぉ。ここには腐るほど酒がある。さあ、もう一度勝負だ。今度は酔拳を使ってなぁ」
リーヨン「いや。いい。勝負は君の勝ちだ」
リーヨンの言葉に周りがどよめく。
リーヨン「みんな、聞いてくれ。僕はこの人に負けた。コテンパンに」
ワンジュン「おい! ふざけるなよ!」
ワンジュンがリーヨンの胸倉をつかむ。
メイリンが慌てて、ワンジュンの腕を掴む。
メイリン「ちょっと、やめなさいよ。リーヨンは負けを認めてるじゃない」
ワンジュン「黙れ!」
ワンジュンがメイリンを殴る。
リーヨンの表情が怒りに変わる。
リーヨン「おい! なにをするんだ!?」
そのリーヨンの表情を見て、ワンジュンが笑みを浮かべる。
ワンジュン「負け犬には用はない。おい、お前が代わりに、俺を楽しませろ」
ワンジュンがそういって、メイリンの髪を掴む。
メイリン「いやあ」
リーヨンがワンジュンの手を打ち、掴んでいた手を放させる。
そして、腹に一撃を入れる。
ワンジュン「ぐうっ! ……ふん。やる気になったようだな」
ワンジュンが構える。
リーヨンも構えるが、普通の構え。
ワンジュン「貴様っ!」
怒りの表情になるワンジュン。
そのとき、声と共に、ひょうたんが飛んでくる。
シャオウェイ「リーヨン。酒じゃ!」
リーヨン「っ!」
リーヨンがひょうたんを受け取り、中のものを飲む。
すると、リーヨンが酔った表情になり、ゆらゆらと揺れる。
そして、酔拳の構えととる。
ワンジュン「へへ。そうこなくっちゃよ」
ワンジュンとリーヨンの攻防。
しかし、今度はリーヨンがワンジュンを圧倒する。
ワンジュン「く、くそ!」
粘るワンジュンだが、リーヨンの酔拳に成す術なく、やられる。
ワンジュン「う、うぐ……」
起き上がれないワンジュン。
〇小屋
テーブルで晩酌をしているシャオウェイ。
すると、いきなりドアが開き、ワンジュンが入って来る。
ズカズカと中に入って来て、シャオウェイの向かいに座る。
ワンジュン「あんたが、リーヨンの師だな?」
シャオウェイ「それが、なんじゃ?」
ワンジュン「俺に酔拳を教えろ」
シャオウェイ「……学んでどうする?」
ワンジュン「俺が一番強いと証明する」
シャオウェイ「リーヨンに負けたじゃろ」
ワンジュン「違う。俺は酔拳に負けただけだ。リーヨンに負けたわけじゃない」
シャオウェイ「……だから、酔拳を学ぶ、と?」
ワンジュン「そうだ。同じ酔拳を使えば、あんなやつには負けはしない」
シャオウェイ「無駄じゃ」
ワンジュン「なんだと?」
シャオウェイ「リーヨンは酔拳の申し子のような奴じゃ。酔拳を学んでも、お主じゃリーヨンには勝てんじゃろ」
ワンジュン「そんなの、やってみないとわからんだろ!」
シャオウェイ「……なあ、若いの。酔拳はなぜ、強力な拳法だと思う?」
ワンジュン「酔うことにより、痛覚を鈍感にし、耐久力と、力のリミッターを外すことで強大な攻撃力を得ることができるからだ」
シャオウェイ「ふむ。確かに、そう言われておるの」
ワンジュン「俺は拳法の腕と同様に、酒の強さにも自信がある。酔拳を使うにはこれ以上ない男だと思うがな」
シャオウェイ「なるほど……。では、一つ、試してやろう」
シャオウェイが立ち上がり、コップを持ってくる。
そして、そのコップに、飲んでいた瓶の中のものを注ぐ。
そのコップをワンジュンの前に置くシャオウェイ。
シャオウェイ「これは、昨日、リーヨンに渡したものと同じものじゃ」
ワンジュン「ほう。相当、強い酒だということだな?」
ワンジュンはコップの中のものを飲み干す。
ワンジュン「っ!」
コップを床にたたきつけるワンジュン。
コップが砕け散る。
ワンジュン「ふざけるな! ただの水じゃないか」
シャオウェイ「ほう。さすがじゃな。酒に強いと豪語するだけある」
ワンジュン「……こんなのがテストか? よくわからんが、見破ったということは、合格ということでいいんだな?」
シャオウェイ「いや、不合格じゃ。お前さんには酔拳の才能はない」
ワンジュン「なんだと!? どういうことだ?」
シャオウェイ「お主はさっき、酔拳がなぜ、強いかという問いに、酔うことにより、痛覚を鈍感にし、耐久力と、力のリミッターを外すことで強大な攻撃力を得ることができると言ったのう?」
ワンジュン「ああ」
シャオウェイ「確かに、それは間違っていない。酔拳は脳のリミッターを外し、身体能力を引き上げる。そして、酔拳の型は、その力を上手くコントロールするためのものなんじゃ」
ワンジュン「それと、俺に才能がないのと、どう関係がある?」
シャオウェイ「お主に一つ質問がある。痛覚を鈍感にするほど泥酔した状態で、まともに戦えると思うか?」
ワンジュン「……」
シャオウェイ「酔った状態では判断力、俊敏さ、視野の広さ、なによりバランス感覚が大きく乱れる」
ワンジュン「待て! 実際に、リーヨンは酒を飲み、酔拳を使い始めて、各段に強くなった」
シャオウェイ「そこじゃよ。そこに酔拳の極意が秘められているんじゃ」
ワンジュン「……どういうことだ?」
シャオウェイ「さっき、お主を試したじゃろ? あのとき、儂が言ったことは本当じゃ」
ワンジュン「っ!? ……リーヨンに渡したものと同じもの」
ニコリと笑うシャオウェイ。
ワンジュン「バカな! リーヨンはあのとき、酔っていた! ……なぜだ?」
シャオウェイ「思い込みの力じゃよ」
ワンジュン「……思い込み?」
シャオウェイ「脳の一部分を酔ったと思わせることで、脳のリミッターを外す。じゃが、それ以外の部分は酔っていないわけじゃから、泥酔したときのデメリットはなくなるというわけじゃな」
ワンジュン「バカな! そんなこと、できるわけない!」
シャオウェイ「そう。普通はできるわけがないんじゃ。じゃが……リーヨンは、純粋がゆえに思い込んだんじゃよ」
ワンジュン「……」
シャオウェイ「さっき、お主が飲んだ水を、リーヨンに酒だと言って飲ませた。そしたら、リーヨンは顔を真っ赤にし、足腰が立たなくなり、3日間、二日酔いになったんじゃよ」
ワンジュン「……」
シャオウェイ「言ったじゃろ? リーヨンは酔拳の申し子のようなやつじゃと。あやつは酔拳の究極の理想にたどり着いたわけじゃ」
ワンジュンががっくりと項垂れる。
シャオウェイ「今でもリーヨンは儂が渡す水を酒だと信じておるし、儂以外が渡したものは絶対に飲まん。……そして、なにより、あやつが酔拳の申し子と言われる所以としては、あやつ自身が酒を嫌っているところじゃよ」
ワンジュンが顔を上げる。
ワンジュン「そうだ。そこが疑問だった。なぜ、あいつは酔拳をなかなか使おうとしない? そのせいで、一度は俺に負けたのに、だ」
シャオウェイ「リーヨンは酒によって亡くなった者、人生を台無しにした者を数多く知っている。本当は酒などこの世には無い方がいいとさえ思っているじゃろう。だから、酒を飲む酔拳は使わない。使うとしたら、大切な人を守るときのみじゃ」
ワンジュン「……」
シャオウェイ「あやつは今、酔拳を使わずに強くなろうと日々、鍛錬を続けている。この町を救うことができた酔拳を捨てるために」
ワンジュンが、すっと立ち上がる。
ワンジュン「……確かに、俺には酔拳の才能はないようだ。だが、それでも、あいつを越えてみせる。……酔拳を使う、あいつをも」
シャオウェイ「ふふふ。良きライバルになりそうじゃな」
ワンジュン「ふん……」
踵を返し、小屋から出て行くワンジュン。
終わり。
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