ぬくもり

ぬくもり

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■概要
人数:3人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
美野里(みのり) 6歳
明人(あきと) 36歳
寮長

■台本

美野里(N)「私は生まれてすぐに捨てられた。よくわからないけど、望まない妊娠だったみたいだ。そして、私は拾われて、そのまま赤ちゃんポストに届けられた」

場面転換。

寮長「あれ? 美野里ちゃん。どこにいたの?」
美野里「……部屋で本読んでた」
寮長「あらー。もう、ご飯残ってないよ。時間になったら、来てもらわないと困るんだけど」
美野里「ごめんなさい」
寮長「今度から気を付けて」

美野里(N)「私は赤ちゃんポストから、施設へと預けられた。施設には大勢の子供たちがいる。一人一人に気を使っている場合じゃないのは、わかる。たぶん、私がいなくなっても、きっと施設の人は気づかないと思う。……いや、逆に喜ぶかもしれない。厄介者が一人、いなくなったことに」

場面転換。

寮長「美野里ちゃん。引き取ってもいいって、人がいるんだけど、行ってくれない?」
美野里「……」

美野里(N)「行ってみない? じゃなく、行ってくれない? だって。私は必要とされていないってことだ。まあ、わかってたけど。また、私はたらい回しにされたということだ。もういいや。きっと、次の場所も、私を必要としてるわけじゃないんだろう」

場面転換。

明人「明人です。よろしくね、美野里ちゃん」
美野里「……よろしく」
明人「そうだ。美野里ちゃんが来たお祝をしよっか。何か食べたいものとかあるかな?」
美野里「……別に、何でもいいです。好き嫌いはないので」
明人「そ、そうなんだ……」

美野里(N)「この人は最近、奥さんに先立たれてしまったらしい。周りの人の話だと、すごい落ち込みようだったみたいだ。その奥さんは子供が欲しいと言ってたみたいで、周りから養女をもらったらどうかと提案されたとのことだ」

場面転換。
バタバタと家の中を走り回る明人。

明人「あれ? あれ? あれ、どこいったかな?」
美野里「会社から届いてた書類なら、あそこの棚に置いてあるよ」
明人「え? ……あ、ホントだ! ありがとう」

美野里(N)「なんというか、ちょっと抜けた人だ。こんなんで、よく子供を引き取ろうと思ったよね」

場面転換。
時計の秒針の音。

美野里「……24時」

美野里(N)「いつもは大体、遅くても21時には帰ってきていたのに、今日は連絡さえない」

時計の秒針の音。

美野里「……」

美野里(N)「連絡がないってことは、私のことは心配してないってことだ。……やっぱり、私のことなんていらないんだ。いつもそうだ。私はどこにも必要とされない。……きっと、私はこの先もずっと、一人なんだろう」

場面転換。
雨がシトシトと振っている。
そんな中、傘をさして歩いている美野里。

美野里「……」

美野里(N)「また捨てられるくらいなら、こっちから出て行ってあげる。そうすれば、あの人だってスッキリするだろう」

スタスタと歩く美野里。
不意に、川の音が聞こえてくる。

美野里「……」

雨のせいで川の勢いが増している。

美野里(N)「このまま飛び込めば、楽になれるのかな?」

ガードレールを乗り越える美野里。

美野里「……」

美野里(N)「誰にも必要とされないなら、いっそいなくなった方がいいよね」

美野里「……っ」

そのとき、立っているところが崩れる。

美野里「きゃああ!」

滑り落ちる美野里。
必死に捕まる美野里。

美野里「た、たすけて……」

だが、その声は川の音にかき消される。

美野里「……たす……けて……」

川の音が響く。

美野里(N)「誰にも必要とされていない私を助ける人なんていないよね……。やっぱり、私はこのまま落ちた方が……」

そのとき、ガシッと腕を掴まれる。

明人「大丈夫!?」
美野里「え? あ……」
明人「ごめんね。遅くなって。携帯の充電が切れてて、連絡できなかった……」
美野里「……」
明人「いやー、危なかった。偶然、通りかかったからよかったけど……」

そのとき、ガラガラと足場が崩れる。

明人「え?」
美野里「きゃああ!」
明人「うわあああ!」

転がり落ちる二人。
ドボンと川に落ちる。

明人「あばばばば!」
美野里「……っ!」

美野里(N)「やっぱり、この人は抜けてる。ホント、よくこんなんで、私を引き取ろうと思ったわね」

場面転換。
病院内。

明人「あははは……。死ぬかと思ったね」
美野里「……」
明人「ごめん……。怒ってる?」
美野里「怒ってる!」
明人「……嫌になるよね。こんなに情けなくて」
美野里「会社で充電できなかったの?」
明人「え?」
美野里「携帯」
明人「あっ! そっか。その手があったか」
美野里「……もう、しっかりしてよ、お父さん」
明人「……い、今、お父さんって」
美野里「ほら、そろそろ帰ろ。私、お腹空いちゃった」
明人「う、うん。そうだね」

美野里(N)「川に落ちたとき、死にそうになってたのに、私を一度も離そうとしなかった。冷たい川の中で、ギュッと抱きしめてくれた。本当は寒くて凍えそうだったのに、温かかった。私は初めて、ぬくもりっていうのを知った。……私を必要としてくれているって、感じた。この人なら、お父さんって呼べそうだ」

終わり。

 

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